「私たちの海外拠点を使って頂きたい」と話すのは、武蔵塗料ホールディングスの福井裕美子社長。世界10カ国に展開する自社拠点を基盤に海外事業に関心を持つ塗料業界企業や異業種との協業展開を積極化する考えを示す。10月2日、オンライン形式で行われた日本塗料商業組合北信越ブロック(会長・栗野勝氏)の研修会に講師として登壇し「私が見てきた景色、これから見たい景色」をテーマに同社のビジョンについて語った。
対談形式の講演会が恒例となった日塗商北信越ブロック研修会。今回、講師に迎えたのは、武蔵塗料ホールディングス代表取締役の福井裕美子氏。聞き手は本紙・近藤亮吉。福井氏は、家業である同社の承継に至った経緯から現在の状況、将来への展望について語った。当日、組合は、日塗商会員、同社関係者など約40名が参加した。
福井氏が大学卒業後、伊藤忠グループ(ファインケミカル部門)、サイバーエージェント、ライブドア・マーケティングでのキャリアを経て、同社に入社したのは2006年。当時、実父の福井修平社長の膵臓がん発覚をきっかけに同社への入社を決意する。
「父は娘に会社を継がせる気は毛頭ありませんでした。むしろ"婿殿"を見つけてほしいと150人くらいの方とお見合いをしましたが、なかなか家業を継いでくれる方には出会えませんでした」と福井氏。その後、結婚に至るが福井氏自らが継承の意思を固め、2014年に代表取締役に就任した。
会社として軸を通す
入社してから社長就任に至る8年の経験で福井氏が意を強くしたのは、塗料業界を変えたいとの思いだった。
「会社の将来を考えた時、これまでのような自前主義、秘密主義を続けていてはいずれ限界が来ると考えました」。また「モノが充足し、更に人口が減少している状況において、安く大量に作ることを目指すのではなく、産業構築のための仲間を作りたいと思いました」と話す。外部組織の技術やアイデア、ビジネスモデルと組み合わせるオープンイノベーションを実現する会社づくりへ舵を切った。
福井氏が指摘する自前主義の脱却は、実験や調達、販売などにおいて専門性に長けた外部企業・機関と積極連携する考え方。秘密主義の離脱は「市場を大きくするためにライバル企業とも手を組むことも厭わない」従来の常識にとらわれないオープンなマインドを重視する姿勢だ。
IT企業で培った福井氏自身のバックグラウンドも影響しているが、会社を率いる上で「いろいろな意見、見方がある中で、会社として一本、軸を通さなければ経営がおかしくなると思いました」とも語る。
そこで着手したのは、社内における価値観の共有。創業以来、人材を育て、雇用を守ることを経営理念に掲げてきたが、これを現代風に紐解く形で80ページに及ぶ小冊子「musashi color」を作成。事業目的や行動指針など同社社員の規範を示した小冊子を国内外の全社員が共有。日々、繰り返し読み深める取り組みを継続しているという。
とはいえ、長年培われた風土や慣習を変えるのは容易ではない。改革の実現には、社員の理解、共感につなげる粘り強さが求められる。
そうした改革の推進力を高めるため福井氏は世界で通用する塗料メーカーをビジョンに掲げ、①文化の維新②メディアの活用③他企業との共創に活路を求めた。
文化の維新については、経営理念の浸透活動と並行し、グローバル会議の開催や外国人人材の採用などダイバーシティを積極的に推進。また女性の管理職登用を積極化するなど、人材の多様化から風土改革を図った。「とにかく私自身が社長として率先して変化に挑む姿を見せていくことが重要」と福井氏。それに伴う業績の成長が説得力を高めている。
2025年度を最終年度とする3ヶ年中期経営計画は、為替効果も含みつつ、目標の連結売上高200億円、営業利益20億円を前倒しで達成。共創案件においては売上高10億円に達した。
その他、現中計では環境配慮商品割合(70%)、電力使用(毎年1%減)、女性従業員比率向上(40%)を目標に掲げ、成長軌道に乗せる考えだ。
福井氏の強力なリーダーシップで改革を牽引するが、一方で部署を横断した社内プロジェクトも活発化しているという。現在、グローバルアカウント、AI活用、5S、CSR推進、地域貢献、広報活動、社会貢献などのプロジェクトを実施する他、医療系団体が主催するボランティアにも参加した。「最初は渋っていた社員も今では先陣を切って取り組んでいる」と着実な変化に手応えを示す。先日は、50歳以上の社員を対象にフィールドアスレチックで汗を流した他、社員の発案で趣味をテーマにした社内交流会も開催。社内コミュニケーションが活性化している。
講演の最後に福井氏は「新しい出会い」「新しいことに挑戦」「異文化、異業種に触れる」ことの価値に言及。その上でASEAN6工場、中国4工場、欧州1工場、アメリカ1工場に及ぶグローバルネットワークを基盤にした協業に意欲を示した。
今後は生産、物流、販売などの受託事業にも応じる意向で「塗料業界の未来を"共に変える"仲間を増やしていきたい」と参加者に協業を呼びかけ、講演を締めくくった。
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武蔵塗料ホールディングス会社概要
△創業:1958年△売上高:約200億円△関連会社:20社△従業員数:1,000人強△製品種類:454△取引企業国籍:20カ国以上△取扱色数(年間):約5万色△非日系顧客の売上比率:85%△主力製品:自動車内装用塗料、パソコン用塗料、その他(電子タバコ・カメラなど)



