脱炭素化対応、塗料×エンジニアリング力

日本ペイントグループの工業用塗料事業を担う日本ペイント・インダストリアルコーティングスの社長に加賀美豊氏(48歳)が1月1日付で就任した。国内事業の成長に向けて、脱炭素化対応が大きな焦点と話す。塗料メーカーとしての技術開発はもちろんのこと、設備エンジニアリング力との連携を強みにトップメーカーとしての存在感を示していく。

 


――工業用塗料市場のトレンドをどのように捉えていますか。
「日塗工の2024年の塗料出荷統計(金額)を見ると工業分野では全体的に回復の兆しが見られており、特定の需要分野から徐々に回復してくることが期待できるのではないか。その際、キーワードとしては脱炭素化があります。それに伴い塗料ニーズが変わってきているので、その変化にきちんと答えていくことが必要です。創業以来、環境の変化や規制の変化が、我々の付加価値を提供できるチャンスにつながってきた歴史があるので、脱炭素化についても対応製品の開発に注力しています。国内市場が急激に拡大することはないと思いますが、その中できちんと価値を認めてもらえる商品を提供していくことで、新たな市場価値を創出していくことが重要だと認識しています」

――塗装工程での脱炭素化の考え方とはどのようなものですか。
「塗装工程全体でのエネルギーの削減を考えたとき、塗料で言えば低温硬化があり、実際に低温硬化ニーズは高まっています。ただそれだけでなく、当社は塗料メーカーでありながら設備エンジニアリング事業部も持っていますので、設備提案も含めて顧客の要望に答えられる体制はできています。更に海外グループ会社にあるリソースを使いながら、技術開発に取り組んでいます。海外においても"塗料を低温で硬化させる"ニーズは高まっているので、トラブルシューティングも含めてノウハウは生かせると思っています」

――工業塗装の現場の課題が複雑化している中では、塗料と設備エンジニアリングの両部門の連携が一層重要になりそうですね。
「そう考えています。今まで以上にLCAの観点でCO2削減や省エネが顧客から求められているので、製品そのものによる実現と設備エンジニアリングとのコンビネーションで、塗装のライン条件やCO2削減シミュレーションを提供しながら、お客様に貢献するサービスを展開していくつもりです。両部門の営業、技術が共同で動ける体制を整えています」

――脱炭素化などは顧客ごとのカスタマイズ対応となると思うのですが、一般工業向けの汎用戦略についてはいかがですか。
「塗装ラインごとのニーズ対応は当社の得意とするところではありますが、売れ筋品の『ニッぺ パワーバインド』(1液速乾万能型特殊変性エポキシ樹脂系下塗り塗料)のような塗装条件にあまり依存しない製品についても開発を進めます。ただ強みを生かす意味でも、脱炭素化についてまずは特定のお客様に対応した技術開発を行って、最終的には一般工業顧客にも使用してもらう製品展開を想定しています」

――工業塗料市場における貴社のポジションの認識は。
「マーケットにおけるシェアはトップだと認識しています。ですからさまざまなお客様に対して、中小含めたさまざまな塗料メーカーと戦っている意識です。ターゲット層を絞り込んでいるのではなく、全方位に展開する戦略です。塗料メーカー間での競争は激しいので、高いシェアを取っている分野においても一層価値を認めてもらう活動が重要となっています」

――一般工業向けでは製品開発とともに販売ネットワークも重要です。
 「お客様の日々の対応をする中で、お客様のニーズや方向性を理解している販売店はメーカーにとって大切だと思っています。連携していくことが大事であり、当社には小槌会(全国特約店会)があるので、これからも小槌会を通じて製品紹介を含めて発信していく戦略は変わりません」

――今後の展開に関して、投資計画はありますか。
「近年の大きな投資と言えば、2020年に千葉工場の粉体塗料製造ラインを刷新しました。粉体塗料市場は拡大していくと見られるので、今後も生産能力を上げる投資は行いますが、大きな投資ではありません。当社の製造拠点としては千葉工場と合成樹脂及び塗料を製造するエーエスレジン(広島県)がありますが、役割分担を最適化する必要があると考えています」

――具体的な計画の進捗状況は。
「進めているところです。どのように進めているかというと、日本ペイントグループでは今年からCxO(Chief x Officer)体制を取っていて、営業、生産・物流、技術、管理の責任者4名と私を含めた国内事業者の社長5名の計9名が協力しながらグループ全体の最適化を図る体制となっています。ですから、生産・物流の責任者である喜田益夫(最高サプライチェーン責任者)とまずは話し合う、ということになります。事業収益を考える立場の私と、国内全体のサプライチェーンの最適化を考える喜田、異なる視点を持つ者が機能することが重要です」

――最後に今年の市場の見方と取り組みについて聞かせてください。
 「今年は需要回復が期待できると見ています。脱炭素化が1つのキーワードになると思いますが、技術力と販売店を含めたネットワークでしっかりと対応していきたい。また、自動運転が進む中で、自動運転用特殊塗料で貢献していきます。この技術は大阪・関西万博で採用されています。他にもEV分野の絶縁塗料や耐熱塗料など、技術力を生かして競争力を高めていきたい」



加賀美豊氏
加賀美豊氏

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