「向上・拡散・継承」。建設業界に新しい3Kをつくることをミッションに掲げ、立ち上がった団体がある。「日本多能工協会」だ。建設業における人手不足緩和へ向け、若手職人の技能と経営のマルチスキル化を応援し、若者に魅力ある職人像を確立するのが目的。代表理事の結城伸太郎氏(山形、ゆうき総業社長=写真)に、立ち上げの経緯や活動内容について聞いた。
――日本多能工協会とはどのような団体ですか。
「主に、塗装、防水、左官といった建設工事における仕上げの分野でマルチに活躍できる多能工職人を育てるとともに、若くして独立起業した職人さんたちの経営スキル向上にも踏み込み、職人の地位向上を図るための活動を行う団体です。」
――一昨年に設立したということですが、立ち上げの経緯は。
「建設業の人手不足、それも若い層が極端に少ないという状況を改善しないと、建設業の未来はないと思っています。その課題に、我々なりに挑みたいと、地元の経営者仲間6人が発起人となり立ち上げました」
――若手職人を増やすことと多能工化がどう結びつきますか。
「時代が多能工を強く求めているという背景があり、それに応えられるスキルが身につけば処遇・待遇の面でも若い人たちに魅力的に映る、新たな職人像が確立できると思っています」
――どういうことでしょうか。
「建設業における現場の人手不足は深刻です。例えば、防水工事に付随したちょっとした左官仕事や塗装における軽微なシーリングなども、これまではそれぞれ専門の業者に任せていましたが、各業種の人手不足でそんな余裕はなくなってきました。それは大型工事でも住宅改修のような小さな現場でも同じです。ですから本職の他にも対応できる技能を身につけることで、大型工事ではゼネコンに重宝されるし、自社が元請けの工事でも利益率や工期など内製化のメリットが出てきます。人手不足を吸収するため、時代が求める必須のスキルであり、そこに職人としての未来像が描けます」
――職人とは技能職です。職種を広げても技が付いていかないのでは。
「そういった見方では賛否両論あると思います。ですが今、人手不足がこれほど深刻化する中で、社会や時代は匠の技よりも、現場を納める力を求めています。匠の技を否定するつもりは毛頭ありませんが、同じ目指すのであれば、本職だけでなく複数の職種で技を追求する。そのような職人にスポットが当たる時代ではないでしょうか」
――多能工協会の活動について教えてください。
「主な活動としては、多能工を育てるための技術研修会と、若手経営者向けの経営勉強会の開催、そしてチャットアプリのDiscordによる会員相互の情報交換です」
――説明をお願いします。
「技術研修会は、塗装、防水、左官を中心にそれぞれをクロスオーバーして学べる実技研修です。例えば、塗装の職人さんが防水や左官のスキルを習ったり、その逆など、異種の技能の修得を目指します。講師は我々発起人が努めますが、全員がマルチな技能や技術資格を持つ多能工です。建築・土木の施工管理技士、建築塗装、防水、左官の1級技能士や各登録基幹技能者など多様なスキルを擁しています」
――経営勉強会も行っていると。
「ええ、重要な位置づけです。建設業では若くして独立する人が多く、またそういう業種でもありますが、それだけに経営スキルの未熟さで失敗するケースも多い。特に数字の部分ですね。財務的な知識武装で若手を引き上げていくのが建設業には必須だと考えています。これに関しては今のところ私が講師となり、当社を成長に導いているMQ会計を、勉強会の参加者に落とし込んで実践しています。数字をもとに明確な意思決定や戦略立案ができるので、経営力が向上するケースが目立ち始めました」
――もう1つのチャットアプリによるコミュニケーションとは。
「Discordという無料のチャットアプリによる会員相互の情報交換です。塗装、防水、左官、外構、不動産など専門の業種ごとや、各種技能士試験に合格するためのアドバイス、建築・土木の施工管理技士合格への道、経営者限定のビジネスチャンネルなどさまざまなスレッドを立て、自由に会話をしてもらっています。現場で困っているときの技術的なアドバイスや資格試験対策の情報、施工の応援依頼から趣味の話まで多彩な会話が広がっています。建設業という同じ世界に属し、多能工に関心のある人たち同士で実のある会話ができる、そんなチャンネルです」
――会員になるための条件は。
「特に条件はありません。日本多能工協会のホームページにDiscordにログインするボタンがありますので、そちらから登録してもらうと、承認を経て会員となります。今のところ会費も頂いていませんが、現在の会員数97名が、100名を超えるとサブスクリプション制に移行することも検討しています」
――今後の計画は。
「技術研修会や経営勉強会の回数を増やしていきたいですね。それも、いろんな地域の会員が参加できるようよう各地で開催していきたい。また、実地だけでなく、動画による技術研修の配信も増やしていきます。加えて、成功している若手経営者のインタビュー配信や材料メーカーさんとのコラボ企画など、会員に有益なコンテンツを盛り込んでいきたい。会員数を2,000人くらいまで増やし、『多能工』が注目される世界を築くのが目標です」
――ありがとうございました。