「表面への機能付与---BYK添加剤・技術の新展開」をコアテーマに、 「マイカ・メタリック塗色用添加剤Part.1/Part.2」 、 「新技術を使った表面調整剤の新たな可能性 インクジェット、コーティング用」、 「付着性向上」の連載を予定しています。今回は、マイカ・メタリック塗色用添加剤のパート1をお届けします。

マイカ・メタリック塗色用添加剤 Part.1 添加剤技術部 若原章博

はじめに
アルミフレークやマイカなどの光輝材は、光学的な意匠材料として広く用いられている。また基材をシリカやガラス、その他の金属酸化物に変えた材料も豊富である。これらの材料は、塗膜中で整然と配列することで、その意匠が強調される。そのためには、光輝材の形状・表面特性、粘性の制御、バインダー・溶媒の溶解性並びに蒸発特性を含めた、光輝材配向制御技術が必要である。また貯蔵中や塗装配管中の沈降対策も重要である。
ここでは、顔料分散剤やレオロジーコントロール剤、ワックス系添加剤を用いた光輝材配合塗料向けの技術について紹介する。

製造から塗装までの各プロセスと添加剤

図1に、メタリック塗色の各プロセスでの、光輝材に有効な添加剤を示した。まず光輝材を溶剤・水あるいは樹脂溶液に濡らすことが必要であり、それには顔料湿潤分散剤が有効である。そうして他の各種原材料と混合し、塗料を作成する。アルミ・マイカなどの光輝材は、比重が大きいことや、粒子径が数ミクロンと大きいこともあり、何らかの沈降対策を付す必要がある。これにはレオロジーコントロール剤ワックス系添加剤が用いられる。


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なお下地への濡れ性や、トップクリヤーをかける場合はそのレベリング性のために、表面調整剤を用いることは必要である。ここでは順に各種添加剤を見ていきたい。

湿潤分散剤

まず湿潤分散剤の役割と構造について紹介する。湿潤分散剤は主には有機顔料やチタン白、カーボンなど顔料の分散に用いられが、マイカやアルミのような粒子径の大きなフレーク顔料の安定化にも有効である。


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マイカの沈降を防止する目的で行った実験を紹介したい(図2参照)。マイカはECKART社製の屋外耐候性をもたしたグレードを三色用いた。分散剤はそれぞれ構造の異なるものを5種選んだ。通常はマイカを直接、塗料エナメルに添加することが多いが、今回は溶剤にディゾルバーで攪拌混合しスラリーとして、その粘性を評価した。マイカやアルミは塗料貯蔵中での沈降、とりわけ塗装ラインの配管中での沈降を問題として抱えている。塗装粘度まで希釈されているので、使用頻度が高い場合はよいが、あまり塗られない色であると、沈降による色変動は大きいものとなる。マイカはスラリーだとすぐに沈降するので、粘度が測定できない。そこで、スラリーをガラス板上に一定量たらし、そのタレ長さで粘性の物差しとした。スラリーを作る溶剤としては、アクリルメラミン系マイカベース塗料に用いられるであろう、キシレン・n‐ブタノール(9:1)の系と、アクリルメラミン系クリヤー塗料に用いられるであろう低極性溶剤、ソルベッソ100の二種類とした。
実験に用いた湿潤分散剤の構造を図3及び図4に示す。


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図3の中からDISPERBYK®-110、同180、同163、同182、ANTI-TERRA®-205の5品を選んだ。選定理由は以下の通りである。
湿潤分散剤には、顔料を脱凝集状態にし、分散したものの粘度を下げるタイプ。この中ではDISPERBYK®-110、同180、同163、同182がそのグループである。一方、顔料は分散するが分散剤のネットワーク形成により若干チキソトロピック粘性を付与する、コントロール凝集タイプのものがある。ANTI-TERRA®-205がそれにあたる。なお脱凝集のタイプで4品選んだのは、顔料吸着基と構造の違いを見るためである。
すなわちDISPERBYK®-110は吸着基にリン酸基を有し、比較的低分子量直鎖状の分子構造。DISPERBYK®-180は、DISPERBYK®-110同様の吸着基と直鎖構造を持つが、アミンでリン酸基を中和したものである。DISPERBYK®-163とDISPERBYK®-182は、顔料吸着基に三級アミンを有し、ポリウレタン骨格で高分子量のくし型構造である。DISPERBYK®-182はDISPERBYK®-163よりも高極性の側鎖をもち、この二つで極性の違いによる、系との相溶性の差異をみる。
マイカスラリーをガラス板にたらしたときのタレ長さを縦軸に示した(図5と図6参照)。図5はキシレン・ブタノール系、図6はソルベッソ100系である。


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どちらの系も、またマイカの種類にかかわらず、分散剤を用いない場合にはマイカスラリーのタレ長さは短く、粘度が高いことを示している。それに対してどの分散剤を用いても、スラリーはタレやすくなり、粘度が低下している。マイカスラリーの粘度は、マイカの粒子同士の凝集によるものであり、分散剤を用いることで凝集が解け、粘度が下がったものと考えられる。もう少しデータを詳細に見てみると、分散剤の中ではANTI-TERRA®-205の場合はややタレ長さが短く、粘度が他の分散剤よりも高いことがわかる。これは、マイカ同士は分散剤ANTI-TERRA®-205により凝集せず安定化されているが、分散剤自身のネットワークによる粘性によるものである。これにより沈降防止効果が期待できる。
マイカとアルミスラリーの沈降の様子を、写真1でご覧いただきたい。左から分散剤なし、DISPERBYK®-182、ANTI-TERRA®-205の順で、マイカのケースとアルミのケースを示した。DISPERBYK®-182はフレーク顔料をほぐしているが、脱凝集にすることで粘性が下がり、沈降しやすくなっている。一方ANTI-TERRA®-205はフレーク顔料をほぐすが、沈降は抑制している。これはマイカに直接吸着しており、ワックスのスペーサー効果や、レオロジーコントロール剤のような系全体の粘性により、沈降ならびに配向を制御するのとは異なる。


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レオロジーコントロール剤

次にレオロジーコントロール剤について紹介したい。


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図7に主なレオロジーコントロール剤を載せた。この中でコントロール凝集タイプの分散剤については、前節で述べた。変性ユリア系については詳しく述べる。水系で用いられるセルロース系のものと会合型のもの、水系・溶剤系を問わず用いられるシリカ系とクレー系のものを図8に模式図を示した。ここでは詳細を省くが、固体のクレー、ポリアマイドワックスは写真2に示したような固体状である。


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粘性は、実用上どのせん断力領域での課題があるのかを考えなくてはいけない。すなわち沈降が問題なのか、塗装時のタレあるいはレベリング、アルミの配向が解決すべき問題なのか、などである。もちろん複数の課題、あるいはどのように相反する特性のバランスをとるかが現実的な解決策である。図9にズリ速度と粘度の関係する課題について図示した。粘度測定についても、粘度計によりカバーするズリ速度領域が異なる。問題となっている現象の、ズリ速度領域と合致する粘度計を用いて粘度を測定しないと、現象の理解・解決策は得られない。一般に簡便がゆえに、ブルックフィールド粘度計(B型粘度計)が用いられるケースが多いが、ごく狭いズリ速度領域を測定しているに過ぎないことを理解したうえで使用してほしい。


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さてレオロジーコントロール剤に戻るが、図7に示したように各種の構造・組成のものが市販されている。ここでは液状のBYK®-410シリーズを用いた例を紹介したい。図10に水素結合により粘性を発現する液状レオロジーコントロール剤の模式図を示した。骨格はユリアウレタンで、分子中のNHと別の分子のCOとが水素結合し、ネットワークを形成する。末端の有機鎖は系との相溶性を司り、低極性から高極性へと変えることで、製品のバリエーションを持たしている。


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添加剤自身はNMPに溶解した状態であるが、塗料などに添加するときに、針状結晶を形成し、針状結晶間での水素結合により粘性が発現する(図11参照)。水素結合によるネットワークなので、ズリ速度の増大により粘度は低下する。せん断によりネットワークが断ち切られ、せん断をやめてからの粘度回復は時間に依存する、典型的なチキソトロピック流動を示す。これにより塗装時は粘度が低いため微粒化しやすいが、静置(貯蔵)での沈降は抑制されることとなる。しかしながらこの粘度の時間依存性はアルミの配向では十分ではない。詳細は次のワックスの項で述べる。


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図12には水中での各種レオロジーコントロール剤の粘性挙動を比較している。他の添加剤と比較して、ユリア構造のBYK®-420の効果的なチキソトロピック流動の様子がわかる。低ズリ速度で粘度が高いことは沈降効果が期待できることを意味し、高ズリ時に粘度が低いので、塗装時の微粒化に影響を与えず、またシェアーをかけた後の粘度回復にやや時間をかかることはレベリングする時間があるので、平滑性には有効である。一方アルミの配向という面では、むしろ粘度回復に時間がかかる点で十分とはいえない。粘度の時間依存性のない擬塑性流動のタイプが好ましい。


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図13にはほぼ静止に近い低ズリ速度から、急にせん断力をあたえ、その後再び低ズリ速度で粘度を測定したものである。図中の右領域では粘度回復の様子を示している。「Slow Structure Recovery」としたものはゆっくり粘度カーブが立ち上がっている。一方「Fast Structure Recovery」と表示したものは粘度回復が速い。粘度回復が遅いと塗着後の流動によりアルミの配列が乱されることとなる。擬塑性流動をもたらすレオロジーコントロール剤のほかに、次に述べるワックスとの併用も有効である。


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ユリアウレタン系をベースにアマイドや会合構造などの変性を加えることで、チキソトロピックから擬塑性流動、ニュートニアンに近く高ズリでも粘度があまり下がらないタイプなどのバリエーションが可能となった。図14に溶剤系・水系向けの品揃えを示したので、その系に必要な粘性挙動を実現するための添加剤として検討をしていただきたい。


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次号は、「マイカ・メタリック塗色用添加剤Part.2」 ワックス系添加剤、表面調整剤をご紹介します。
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1966年、日本での塗料・インキ用添加剤の販売を開始しました。1980 年、BYK社(本社在ドイツ、Wesel市)の日本支社を開設し、1984 年12 月にビックケミー・ジャパン株式会社を設立。日常の販売活動、技術サービスの他にパブリックセミナー、新製品発表会、添加剤入門講座等を定期的に開催し、業界の皆様に最新の技術、製品情報をご提供しています。1999年には、テクニカルサービスラボを兵庫県尼崎市に開設し、より一層お客様に技術サービスに努めながら、ご要望をドイツ本社での製品開発に反映する体制を強化しました。今後もグローバルなネットワークを活用し、大阪、東京、名古屋営業所、尼崎テクニカルサービスラボの4拠点から、皆様の新製品開発、問題解決のお役に立つコーティング用ならびにプラスチック用添加剤、試験機器を提供してまいります。
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