タクボ・佐々木社長が登壇「塗装はダイナミックに変わる」

日本塗装技術協会(会長・工藤一秋氏)は、昨年12月21日、日本ペイントホールディングス東京事業所センタービルで「第7回プロフェッショナルセミナー」を開催した。同セミナーは、講演企業を1社に絞り、質疑応答を含め参加者との意見交換を目的にした技術交流セミナー。2020年の開始以来、初めて会場開催となった今回は、タクボエンジニアリングの佐々木栄治社長、小島光氏、上村一之氏の3名が登壇し、塗装技術の未来像や開発中の塗装システムの進捗状況について語った。当日は、塗料、塗装設備、自動車関連など約90名が参加。実行委員長の奴間伸茂氏が司会を務めた。


「作業性が価値になる」

基調講演に登壇した佐々木氏は開口一番に「ようやく自動車の内外装に使えるメッキ調コーティングができた」と一昨年に武蔵塗料と共同開発した「インジウムミラーコーティングシステム」を紹介した。エンジニアリング会社と塗料メーカーの協働が長年に及ぶ技術課題を克服したエポックメイキングな事例として強調した上で、講演では塗装技術の変遷をたどりつつ、業界全体で取り組むべき課題や展望について語った。
中でも佐々木氏がこの30年足らずの中で劇的に塗装が大きく変化した市場として携帯電話塗装を例に挙げた。

「携帯電話は、1998年前後から年間1億台ずつ生産台数が増えており、現在約27億台が世界で生産されている。自動車の約9,000万台と比べてもケタ違いの生産量を誇る」と市場規模の大きさを指摘した上で「一体型から2つ折り、スマートフォンへと形状が変化する中、ラッカー、2液ウレタン、UV塗料に移行した」と塗料系の変化について述べた。

特に佐々木氏が強調したのは2液ウレタンからUV塗料へ移行した理由について。「乾燥炉から出ても完成塗膜にならず、慎重、丁寧に扱わなければならない2液ウレタンが需要家から敬遠された。翌日出荷では間に合わないほどの生産量を抱える携帯電話において、作業性の低い塗料は使えないとの判断をメーカーが下した意味は大きい」とユーザーにおける作業性に対する価値の高さを訴えた。

更に佐々木氏は塗装方法についても言及し「網塗り、スピンドルと変化してきたが、コンベアスピードを上げるためにガン数を増やす。1機種に設定された色数が増え、色替えに30~40分要する。乾燥炉が膨大な長さになるなどの要素が不良率を高め、効率化を妨げる要因になっている」と指摘。「塗料使用量の削減、色替え時間の削減、塗装不良率低減、デジタル管理、ティーチング効率の向上(生産ラインでティーチングをしない)などを達成した塗装システムに対する顧客の強い要望が当社の回転塗装『Rの技術』を生み出す原動力となった」と語る。

同じ品質を100万個作る

回転塗装「Rの技術」は、同社が命名した技術ブランドの総称。一般的なスピンドルや回転塗装と一線を画した唯一無二の塗装技術として訴求する。その根幹を支えるのが、回転塗装システムを形成する塗装ロボット、塗装治具、アプリケーションなどの要素技術の開発。中でもシリンジポンプを採用した1cc単位で塗料吐出量を調整できる塗料制御技術は、Rの技術の完成度を高める武器と位置づける。

佐々木氏はRの技術について「ワークの数に関わらず、同じ品質で100万個塗装する理論によって成り立っている。その意味でシリンジポンプは正確な吐出コントロールの実現のために不可欠な技術であり、ガンについても同じ量が吹ける個体差のないガンが必要となる。ホースも同様で、結果的にホースレスの開発に行き着いた」と品質の安定化から独自で開発を積み上げてきた経緯を伝えた。「同じように吹いているように見えても部位に応じて8段階で吐出量を変えることができる」という。

佐々木氏は、塗装条件の一定化を基盤としたRの技術から塗装効率の向上と品質の安定化を実現した一方で、コスト及び環境負荷低減に対する効果の高さも訴求する。
「携帯電話の塗布量は、一般的に1台あたり約2.5g程度だが、Rの技術では0.7gで仕上げることができる。1g塗料使用量が異なれば、工場レベルで月に10トン、塗料代にして年間2億円のコスト削減効果が得られる」と吐出量の制御がもたらすメリットを改めて強調した。

塗料と装置の融合が必須

佐々木氏は、このような携帯電話市場で進められてきたダイナミックな変化が他の塗装市場でも起こりうると予見する。その理由に脱炭素化に起因した環境負荷低減に対する国際社会ニーズの高まりとAIやAGV(無人搬送車)など周辺技術の革新の早さを挙げる。

中でも佐々木氏が危機感を示したのが、塗装の環境負荷の高さ。
「塗装はムダの集積。塗料の大半を廃棄し、乾燥に相当なエネルギーを使う技術は、塗装以外にない」と述べる。そこで佐々木氏は講演内で下記の環境負荷低減策を示した。
①2液ウレタン塗料の1液化②水洗浄を可能にした水性塗料の開発③UV塗料の積極導入④塗料のパウチ化⑤AI・AGVの活用。

特にUV塗料については、セッティングを含めた乾燥エネルギーの負荷低減や塗装後の扱い性、物流の効率化に寄与するとして普及拡大に注力すべきとの見解を示した。「(UV塗料の)金属への適用に懸念を示す声があるが、プライマーが施されている状態であれば、プラスチックも金属も関係ない。乾燥後の塗膜強度も高く、1品1品梱包が必要なウレタン仕上げと比べ、輸送効率は遥かに高い。金属の多層塗りは無駄が多く、金属こそUVに向かうべき」と話す。

講演の最後に佐々木氏が力説したのは、装置と塗料の融合。「塗料メーカーと一緒に塗装システムをやらなければ環境問題は乗り越えられない。塗料、装置の単独的な取り組みでは、解決しない段階に来ており、これからは塗膜性能だけに注力するのではなく、ソリューション提案に移行しなければならない」と指摘。続けて「今後も型内塗装など新しい技術は出てくるが、塗装がなくなるわけではない。時代に合った塗料があれば、需要はいつまでも続く。塗装の未来は明るいと考えている」と述べ、講演を締めくくった。

流体解析で塗装効率を実証

佐々木氏の後、小島氏(技術本部設計開発部)と上村氏(技術本部ジェット事業部)が講演を行った。
小島氏は「世界が認めたRの技術」と題し、Rの技術について解説した他、ティーチングアシストなどソフトアプリケーションの開発状況を紹介した。

中でも参加者の関心を集めたのが、流体解析技術を活用した各塗装法の塗装効率の違い。網塗り、スピンドル、Rの技術の比較実験では「ガンが動くと塗料ミストが拡散する一方、ワークが動いてもミストは安定した挙動を見ることができた。更にミストが拡散すると粒子の速度も減速することが分かった」と述べ、回転するワークに対し、ガンが待ち受け、塗装するRの技術の優位性を実証した。加えて塗料廃棄に至る比率も測定し、網塗り、スピンドルと比べてRの技術が少ない解析結果が得られたという。

この他、小島氏はスマホを活用したティーチングアシストソフトや生産ラインを止めずに塗装要件の確定を可能にするデータロボットを紹介。データ転送が可能になるため塗装拠点が複数に及ぶ際の品質確保に寄与する他、人材育成ツールとしての可能性を示した。

続けて、上村氏は「第4の塗装機の現状と未来」と題し、完全塗着を実現するマスクレスコーティングシステム「ドットジェットライナー」(開発中)を紹介した。

同技術は、吐出の飛距離が短いインクジェット塗装の弱点を克服した塗装機で溶剤、水性、UVなど既存塗料が使えるのが特長。塗布軌道制御と塗布技術をコア技術に位置づけ、平面に対する厚膜塗装の他、斜面や湾曲部、微細な部分や分離した箇所など、さまざまな部位への塗装が可能になるという。まずはロゴ塗装など部分塗布の領域から実用化を目指す意向を示した。

◇記者の目
2液ウレタン塗料の問題点や塗装エネルギーの負荷の高さなど歯に衣着せぬ物言いで塗料・塗装の課題に鋭く切り込んだ佐々木氏。塗料、塗装機器、塗装ユーザーのいずれの参加者も「こんな話が聞きたかった」「1つ1つに説得力があった」とストレートに受け止める感想が目立った。反発を買う以上に共感を得た背景には、塗料・塗装の環境負荷低減が産業技術として存亡をかけた課題であるとの認識を共有していることがうかがえる。
同社のRの技術に関しては、小物塗装の領域との見方もあるが、佐々木氏は「液体、粉体問わず、吐出量のコントールなくして環境負荷低減はなしえない」と説く。
佐々木氏が提言する「塗料と装置の融合」に業界がどのような反応を示すか、今後が注目される。



左から小島氏、佐々木社長、上村氏.JPG
左から小島氏、佐々木社長、上村氏.JPG
7回目で初めてリアル開催が実現.JPG
7回目で初めてリアル開催が実現.JPG

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