工業塗装専業者の富士電装（本社：大阪府東大阪市、代表取締役社長：宮田潔氏）は昨年12月に5億円を投資し新工場を新設した。6.5メートルの大物品に対応した乾燥炉や密閉式塗装ブース、キッチンを備えた飲食スペース・シャワールーム完備など「町工場を一新するような環境に重点を置いた工場」（宮田社長）を完成させ、創業100年を目指して成長を目指す。
富士電装は1949年に設立、創業74年を数える工業塗装専業者。ものづくりの町である東大阪市に本社を構え、建設設備材や工作機械、パレットなど産業用設備機械の焼付塗装をメインに事業を展開する。従業員数は18人で売上高は2億円（2022年7月期）。
かつては大量生産塗装ラインで鋼製家具の塗装を行っていたが、需要減などから近年は少量多品種塗装へと事業を転換していた。本社工場と大東工場の2拠点で事業を行っていたものの、常務取締役の宮田圭氏は「車で15分かかる距離にあったが、材料の持ち運びで何往復もすることがあり効率が悪く、工場間の社員同士でコミュニケーションが取れていない問題もあった」と課題を抱えていた。
そんな中、コロナ禍が大打撃になる。主要顧客が扱う建設資材関連の塗装が激減、その他にも塗装受注が大幅に減っていた。工場の稼働が減ったことで改めて顧客との情報交換や営業活動に注力。そこで「お客さんと話す機会を増やし次に備えようと動いていたときに、半導体装置の話を多く聞いた。塗装を出せる先がないため、お客さんが困っていると知ったが、従来の当社の塗装設備では対応できないサイズ」（宮田常務）であったため、事業を上昇させるために新工場建設を決めた。
大東工場を閉め、本社機能を新工場に集約。金属焼付塗装はすべて新工場で行い、もう1拠点では常乾塗装を行う。土地は従来から持っていたが、建物と塗装設備は新たに購入、総工費を含めて5億円の大型投資となった。
半導体装置に対応、6.5m乾燥炉
工場は3階建てで1階と2階が塗装設備で3階が事務所と飲食スペースとなっている。
塗装設備には今後の需要を見据えた塗装設備を整えた。1階は大物品を塗装できる3ブース（乾式１・水洗2）とともに大型ワークに対応した関西最大級を誇る乾燥炉を備えた。乾燥炉のサイズは高さ3.5m×間口3ｍ×奥行6.5ｍであり、半導体装置のような大物品であってもそのまま乾燥炉に入る。
昨年末から営業活動する中で受注に手応えを感じている。宮田常務は「半導体装置メーカーや加工業者など複数社から受注している。顧客からは『生産に忙しいが塗れるところがない』と聞くので今後も需要はある。また、乾燥炉を大きくすると汎用性が出るので、例え半導体装置のような大物品でなくても生産効果は出せる」との見方を示し、積極的な営業活動を仕掛ける。
2階には塗装ブースと乾燥炉を備える。2階の乾燥炉のサイズは1階ほどではないものの、高さ3.2ｍ×間口2.7ｍ×奥行4mと多品種に対応できる。
2階にはこだわりの塗装ブースを設置した。密閉式としゴミブツ対策を徹底した。左右の扉を閉めて作業を行い、室内の埃は空気循環により床部分から排出されるため、塗装品質の確保を強化する。半導体装置などの精密機械や食品機器、医療機器など要求品質レベルの高い塗装品を想定している。
キッチン・シャワー完備
新工場構想の際に特にこだわったのが3階フロアだ。キッチンを備えた食事及び休憩スペースに加えてシャワールームも完備。室内の意匠デザインにもこだわり、町工場とは思えない洗練されたリラックス空間を整えた。
宮田常務は「従来の工場といえば人を募集してもなかなか来ない、定着しないと言われ、汚くて当たり前が町工場のイメージだった。そこでよそにないものを作ろうと考えた。職人が満足して働ける環境を用意することに挑戦した」と述べ、従業員が交流するランチ会も構想中。また、子育て世代が多いこともあり有事の際に子供を連れて出勤可能なスペースを設ける予定という。
人材確保の厳しさが深刻化する中、昨年12月に求人募集をかけたところ「びっくりするぐらい応募があった」（宮田常務）という。20代、30代の応募者約30名を面接し、1月に2名、2月に3名が入社した。
新工場を立ち上げ、新たな塗装設備と人材強化を図り、事業拡大に向けた体制が整った。売上高は現在の2億円から3年後には3億円の目標を掲げる。創業100年を目指し新たなスタートを切った。
