コロナ禍で急落した塗り床需要が息を吹き返しつつある。
日本塗り床工業会の統計によると、新型コロナの感染拡大が始まった令和2年は前年比25.9%減の2万7,746トンと落ち込んだものの、令和3年は前年比3.4%増の2万8,678トン、令和4年は7.6%増の3万862トンと2年連続の伸長となった。半導体工場や物流倉庫の新設需要も下支えした他、令和5年も各メーカーとも数量を伸ばしており、回復基調を顕著にしている。

需要回復の要因は、企業の業績回復が寄与したとの見方が多勢を占める。各国が講じた感染防止対策やサプラチェーンの寸断などで生産活動が停滞した状況から、海外事業の早期回復や円安の効果が加わり大企業を中心に業績が回復。労働環境改善に対する気運も営繕需要を押し上げたと見られる。

需要量全体としては、コロナ前の水準には至っていないが、量的回復で遅れを取る建築汎用塗料と比べると対照的。営繕需要の底堅さを示した形だ。
ただメーカー各社の施策を見ると、プライマーレス、攪拌機を不要にした薄膜水性2液ウレタンの投入が活発化した以降は、目立ったトレンドは見られない。次の環境対応型製品として期待される厚膜水性エポキシも普及拡大にはしばらく時間がかかる見通しだ。

むしろ今、メーカー各社が感度を高めているのは、目まぐるしく変化する原材料調達環境とそれに伴う配合変更。「原材料メーカーによる製品の統廃合、廃止に関する知らせが相次いでおり、選択肢が著しく狭められている」とメーカーの購買担当者。そのため現行製品の配合改良を余儀なくされており、「塗り床は豊富な品揃えを不可欠ととする市場だが、品揃えを維持する負荷を考えると非常に悩ましい」とラインアップの維持か、製品統廃合かジレンマを抱えている。

半導体工場の増加を受け、帯電防止機能塗床材を訴求する動きが目立つが、これから重要になるのは、現有製品の価値をいかに高めるか。原料調達に不透明感を抱える現状において、既存品から需要を広げる施策が求められている。
この傾向は木床用塗料も同様で水系2液ウレタンが環境ニーズの高まりから徐々に比率を高めつつあるが、全国的には1液湿乾ウレタン、1液油変性ウレタンが占める状況は変わらない。物性が最優先される塗り床、木床用においては、新規製品による需要喚起が難しい状況がうかがえる。

その中で、潜在ニーズの掘り起こしから需要開発に挑む塗料ディーラーに動きが出てきた。
既に工業用ディーラーにおいては顧客の営繕工事を取り込む動きも強まっているが、需要開発策として共通するのはあえてユーザー層を限定しない不特定多数に対する情報発信。今特集号では、情報発信から存在価値の向上を目指す塗料ディーラーとしてアイベック(東京)、三興塗料(東京)、ニシイ(福岡)の事例を取り上げた。

Youtube(チャンネル登録数約9,000人)を活用し、厚膜塗床材の比較テストやメーカー製品の特性を配信するアイベック。地域ボランティアやスポーツチームの支援を通じて、地域企業・住民との関係強化を図る三興塗料。技術習得支援やアフターフォロー体制から顧客ユーザーの付加価値向上をサポートするニシイ。それぞれアプローチについては三者三様だが、塗料、機器、副資材を扱う塗料ディーラーによる情報発信が塗料需要の創出や新規ユーザーの開発に寄与するとの見方がある。

塗り床が有する耐衝撃性、耐薬品性、耐摩耗性、耐擦り傷性、耐熱水性、耐重量走行性などの塗膜機能が貢献できる領域は広く残されている。静電気事故防止に寄与する帯電防止塗床材についても「まだまだ限られた領域でしか認知されていない」(メーカー関係者)とコメント。原料事情を背景に新規開発が困難な中、塗料ディーラーの需要開発策に期待が高まる。(本紙・近藤)