自動車8社、カーボンニュートラルへ協調

自動車塗装のカーボンニュートラル(CN)達成に向け、自動車メーカー8社が一体となった活動をスタートさせた。CO2問題という身近に迫った危機に対し、従来の競争から協調へと路線変更して革新技術の共同開発に取り組む。「まずは現状の設備と工法を最大限生かし、その上で新しい技術や価値を生んで着実に実行する」(自動車塗装CN研究会・トヨタ・光崎守氏)として、企業単体では成し得ない革新技術の確立を目指す。


自動車生産工程においてCO2排出割合が最も大きいのが塗装工程であり、約3割を占める。CN達成に向けては技術革新が必要で、単独での活動ではなく自動車メーカーが一体となった活動が重要となる。

そこで2022年10月に日本塗装技術協会(JCOT:工藤一秋会長)内に自動車塗装CN研究会が発足。トヨタ、ダイハツ、日産、三菱、スズキ、マツダ、ホンダ、スバルの自動車OEMメーカー8社が協調して革新技術の共同開発に取り組む体制を整えた。
2月9日に開催された日本塗装技術協会主催による2023年度第3回講演会「自動車産業におけるカーボンニュートラル実現に向けた取り組み」で自動車塗装CN研究会の活動内容と今後のロードマップが示された。

自動車塗装CN研究会では4つのワーキンググループを設置。①低温化(処理温度を下げる検討)②ブースレス(塗装ブースを小さくする/なくす検討)③エネルギー置換(ガス使用量の低減技術を検討)④CFP:カーボンオフセットプリント(CO2算出方法の標準化)の活動に取り組んでいく。

自動車塗装CN研究会発足前の状況について光崎氏は「2022年前半までは自動車メーカー各社によって方向性はバラバラな状態であった」と振り返る。それでは問題解決は困難との判断から、その後1年ほどかけて8社で集まり、さまざまなことを議論し意見集約に取り組んできた。

昨年の9月と11月に勉強会を開催した。参加者は塗料、原料、設備、商社、研究機関など2回の合計で268名が参加し、自動車産業のCN達成に向けた活動に対して関心の高さがうかがえた。そこでは自動車メーカーで集約した意見を材料メーカーなどに発信するとともに「一方的に話すのではなく質問を受けたり、個別に意見交換したりと、双方向で対応するスタイル」(光崎氏)で多産業の取り込みを図った。

塗装乾燥の低温化
「フロンティア領域の材料開発」

ワーキンググループの1つである低温化についてみると、電着炉と上塗り炉に分けて、CO2排出量とコストの観点から最適化の追求を目指す。
現行、上塗りは140℃で乾燥させている中で、現在技術を延長した「つなぎプロセス開発軸」としては80℃短時間硬化や100℃短時間硬化などを可能とすることで対応コストを抑えつつCO2排出を削減することが想定できる。

更に現行の1液タイプから2液タイプに塗料系を変更すれば、焼付効率が高まりCO2排出量の大幅削減が期待できるが、材料コストが上がってしまうという問題が残る。そのため、現在想定できる2液タイプではなく、80℃1液硬化、60℃低温硬化、常温硬化、光硬化などの「単独では達成し得ない『フロンティア領域』を業界一体となって目指す」方針だ。

一方、電着塗装についても、現行の170℃硬化から120℃低温硬化、100℃以下新電着などの「フロンティア領域」を目指すとしている。
そのためにまず、CNに向けた材料及び生産技術を構築するための基礎研究をスタートさせる。電着炉と上塗り炉で使用される材料、塗料はもちろんのこと、鋼板、シーラー接着剤、充填剤、制振材、テープなどをリストアップし、対応する各材料メーカーと意見交換しながら基礎研究に向けて進めていく。

「現状はガスを使った反応で硬化させているが、まずは現在の技術の中で低温化や効率化につながる方法を探り、更に今までにないフロンティア領域に持っていきたい」(光崎守氏)と説明。
また、講演会では聴講者から出た「各自動車メーカーで材料の規格が異なるため開発を難しくさせている」という意見に対しては「研究会の中で電着乾燥、上塗り乾燥の材料は8社で議論した。要求性能について調べると、評価のやり方などに違いが見られたが、各社ほとんど近いことが分かった。まずは材料の基礎的な研究開発が中心になる。基準になるフォーミュレーションが決まって、あとは各社がチューニングするような開発ができればと考えている」と基本特性の確立を見据える。

協調の先に競争へ

勉強会のCFPワーキングでは、自動車塗装におけるCFPの定義及び原材料メーカーへの発信を行った。「原材料の製造段階で出ているCO2をうまく算出できる仕組み作りに貢献できないか」(光崎氏)と基準作りを目指す。
他にブースレスワーキンググループではインクジェットやフィルムの更なる技術進化や新技術のアイデア提案を期待する。

自動車塗装CN研究会が発足し業界一体となった活動が始まった。勉強会を経て、これからは材料メーカーから出たさまざまな意見を吟味、検討していく。
ここまでは協調領域で進めてきたが、今後は競争領域へと局面が変わる。今年の春頃からは要素研究の段階に入り必要な会社で共同研究を進めていき、次の段階としては製品開発として個別での製品開発へと進む。最終段階としては量産化を図ってCN達成を目指す道筋だ。

光崎氏は「我々は何ができるか。新しい設備を導入するにはお金がかかるので、今の設備と工法を最大限利用してその中でしっかり省エネを達成、あるいは徹底的な再エネ利用を進めることで、できるだけCO2を減らす。その上で新しい技術や価値を実行していきたいと考えている。8社が中心になって自動車産業を盛り立てていきたい」と、CN達成に向けた活動が本格的に動き出した。



CN達成に向けた今後の展開.jpg
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