虎ノ門ヒルズ、高層タワー外装に粉体塗装を採用

大手ディベロッパーの森ビル（本社・東京都港区、代表取締役社長・辻慎吾氏）は昨年7月に竣工した「虎ノ門ヒルズ ステーションタワー」のカーテンウォールの外装フレームに、大日本塗料の二層分離形ふっ素樹脂粉体塗料を採用した。優れた耐候性と溶剤塗装に比べて環境性能が良いことから、今後、ふっ素樹脂とポリエステル樹脂の"ふっ素ハイブリッド"粉体塗装を積極的に使用していく方針だ。

　

今般、森ビルが"ふっ素ハイブリッド"粉体塗装を採用したのは、東京都港区の複合施設「虎ノ門ヒルズ」にある49階建ての超高層複合タワー「ステーションタワー」と、隣接する4階建て商業棟「グラスロック」の2棟。
カーテンウォール面積として、「虎ノ門ヒルズ ステーションタワー」が7万8,000㎡、「グラスロック」が5,200㎡であり、その外装フレームに"ふっ素ハイブリッド"粉体塗装が使用された。

これまで、内装材では高耐候ポリエステル樹脂系の粉体塗装を採用することはあったものの、長期耐久性が求められる建築外装材では、従来の溶剤系ふっ素樹脂塗装に比べて耐候性が劣る部分があった。また、ピュアふっ素樹脂粉体塗装は塗装コストが大幅に上がってしまうため、採用には至らなかった背景がある。

そんな中、「2014年に竣工した『虎ノ門ヒルズ 森タワー』を建設している頃から、ふっ素ハイブリッド粉体塗装について性能面での新しい情報を得て関心を持った」（森ビル・設計部設計監理部部長・村上雅之氏）。
そこで、大日本塗料の二層分離形ふっ素樹脂粉体塗料や、国内外の塗料メーカーが上市するふっ素樹脂とポリエステル樹脂の混合タイプなど、複数の"ふっ素ハイブリッド"粉体塗料の性能テストを実施。虎ノ門ヒルズ森タワーの屋上と沖縄の屋外暴露試験、それに加えて塗料メーカーによる促進耐候性試験の結果を検証した。

その結果、耐候性及び耐久性は従来の溶剤系ふっ素樹脂塗装と同等の性能が得られること、塗装コストについてもピュアふっ素粉体塗装よりも抑えられることなどから使用できるとの判断に至った。2020年に竣工した虎ノ門ヒルズ ビジネスタワーのカーテンウォールに、大日本塗料の二層分離形ふっ素樹脂粉体塗料「パウダーフロンSELA」を採用。外装材で本格的に粉体塗装を採用したのはこのときが初めて。続けて、「虎ノ門ヒルズ ステーションタワー」でも粉体塗装を採用した。

ビル建材で重要視される耐候性について、「外部に関しては修繕費用を長期的に抑えたい思いがあるので、耐候性は高くあってほしい。最低でも20年、25年の期待耐用年数は必要」（村上氏）との考えで、今も継続して屋外暴露試験をモニタリングし検証している。
従来の溶剤塗装から粉体塗装に切り替えた理由として、耐候性が従来性能と同等であったことに加えて環境性能に優れる点があると言う。

環境性能と生産面で優位性

１つは、粉体塗装であれば塗料の回収再利用が期待できるため、産廃量削減及びコスト低減に寄与する。2つ目は、従来の溶剤塗装は熱可塑形ふっ素樹脂塗装のため焼付温度が230℃の高温だが、粉体塗装であれば180～190℃の中温に抑えられ、省エネやCO2削減につながる。3つ目は、粉体塗装は1回の塗装で厚膜が確保できるため、仮に溶剤塗装では2コート2ベークだったものが1コート1ベークで仕上げることができ、塗装工程の短縮が可能。工程を減らすことで環境負荷を減らすことにもつなげたい思いがある。

また、生産環境においても優位性が出るとの見方。高層ビル物件の大量生産の場合、現状カーテンウォールメーカーは海外工場で生産するケースが多いが、例えば中国では環境規制が厳しくなっており、溶剤塗装が制限あるいは禁止される傾向が見られている。将来的な視点になったときにも、粉体塗装の方が使いやすい側面がある。

今後、同社では"ふっ素ハイブリッド"粉体塗料をビル外装材に積極的に採用していく方針を掲げる。
「基本的には使っていきたいと思っている。3年前に竣工した虎ノ門ヒルズ ビジネスタワーは何も不具合は起きていないし、暴露試験も10年近く経過を見ているが問題ないと確認できている」（村上氏）。

また、同社として塗料はメーカー指定ではなく性能指定との立場を明確にする。「各塗料メーカーがふっ素ハイブリッドを出しているが、それぞれ特徴がありそれを見極める必要があるのが難しい。塗料は日々進化しているので、継続的にウォッチしていく。耐候性や色調、仕上がり肌、環境性能を見ながら何が一番適しているかを判断する」と断言する。

港区を主戦場とする森ビルでは虎ノ門ヒルズに続いて、区域面積約10haに及ぶ巨大な都市開発プロジェクト「六本木5丁目プロジェクト」がスタートしている。そこでも粉体塗装の採用が期待される。