塗装職人が語る屋根用塗料・遮熱塗料
塗装前の素地作りに技

暴露環境が厳しい屋根塗装において、現場の塗装職人はどのような考え方で塗料を選定し、施工に落とし込んでいるのか。下地の見極めや遮熱塗料の位置づけなど、現場の視点から見た塗料の特徴について山越塗装(横浜市)の山越達也さんに話を聞いた。


遮熱塗料について

当時、遮熱塗料が戸建ての塗り替え分野で使われ始めた頃、数年足らずで変色が激しく起こる経験をしました。その後、各メーカーが顔料品質を高めた遮熱塗料を投入してきましたが、色や樹脂によってはどうしても変色が免れないものもあり、美観が損なわれたと施主様からお叱りを受けることが多くありました。これまでの経験から言えば、だいたい変色は4年を過ぎた頃から始まり、黒の場合はこげ茶、赤茶と10年の間で変化していきます。

ただ、10年ほど前からは、一般の屋根用塗料で高耐候性タイプの投入が活発化し、また屋根裏にしっかり断熱材を取りつけた住宅が増えたこともあり、施主様には遮熱塗料の特性を説明した上で、遮熱塗料か一般塗料かを選んでもらうようにしています。

重要なのは、事前に遮熱塗料には変色の可能性があることを施主様に伝えることです。メーカーによっては、変色を抑えた塗料設計やトップコートを施す仕様もありますが、デメリットを事前に伝えてさえいればトラブルになりにくく、相談という形で対応できるため信用問題にまで発展しにくいです。

実際、日射反射率が50%以上の塗色は、夏場屋根面に手を当てても急に手が熱くなることはありません。日中の屋根表面温度が一般屋根用塗料に比べ低いため、夕方の温度低下で屋根裏部屋や2階リビングがあるようなお宅には効果を実感してもらえます。

一方で屋根ほど実績はありませんが、外壁の遮熱塗装は、日当たりの良い所には効果があると考えています。特に旧塗膜に弾性リシンや弾性スタッコが塗布されている場合は、遮熱塗料をおすすめしています。ただ、それは室内への温度低減効果というより、塗膜の蓄熱を軽減し、膨れのリスクを回避することができるからです。濃色の場合は、特に蓄熱が高いため遮熱塗料は有効だと考えています。

遮熱塗料の施工について

夏場に遮熱塗料を施工する際は、午前10時までと午後2時からと日中を避けた時間帯に塗装するように決めています。30℃を超える炎天下で弱溶剤系2液エポキシシーラーなどを塗装すると、効果促進が速まり、硬くなりすぎるという懸念があるからです。

そのため、塗装の段取りとしては、午前10時までにシーラーを1回塗布し、午後2時から2回目シーラーまたは上塗り1回目を塗布します。午後は日光が当たらなくなった東面から塗装し、西面で終えるようにしています。上塗りも同様の時間帯に施工しています。

こうしたシーラー類の高温、低温での硬化促進の問題は、既にメーカーも把握していると思いますが、カタログには23℃での塗装間隔時間と記載されていることが多く、温度管理は経験値で行っています。むしろ戸建て住宅の現場では必ずしもメーカーの仕様書通りには現場を納めきれないという現実があります。

基材の種類やメーカー、立地環境など、住宅屋根の劣化状況は千差万別です。メーカーは下塗り、上塗りと明記していますが素地調整の部分は明確な指示がなく、現場ごとに考える必要性があります。当社としては劣化状況に応じて、下塗りのための下塗りという位置づけで下地を作っています。もちろん下塗りから上塗りまでの仕様は、メーカーの指定に準じています。

注意しなければならないのは、シーラーにも硬質、軟質があり、上塗りとの相性を含めて、製品の癖を知ることが重要です。比較的低汚染性タイプに用いられるシーラーは、硬めの傾向があると思います。また素地の状態によっては、強溶剤シーラーを使うことがあります。判断が難しい場合は試験塗装で確認しますが、これらは施工側がすべての責任を負わなければなりません。事前にカタログを入念に読みますが、各塗料と各シーラーの相性に関する情報があれば非常に助かります。

素地調整について

下塗りを塗布する前の下地調整も施工品質を担う重要な部分です。

下塗りとの密着性を高めるため、目粗しは重要です。私としては南面・西面などで著しい劣化が見られた部分と東面・北面では目粗し方法を変えています。素地を痛めすぎたり、層間剥離や密着不良のリスクを踏まえてケレン道具も変えています。特に旧塗膜がSOPなどのケレンは下地の状態や環境を見て手ケレンと電動工具を用いるケレンを併用し、場所ごとに素地調整の方法を変えています。

また塗膜品質に与える要因として湿気の問題があります。洗浄作業後、塗装を行うまでの乾燥時間や下塗り作業の乾燥時間が品質の良し悪しを左右するからです。概ね、12月、1月、2月が低湿度期間、6月、7月、8月、9月を高湿度期間に分けています。

以前、遮熱塗料で起こしたトラブルですが、9月に棟トタンを施工した際、艶引けする現象が起きました。気温は高いはずなのにどうしてそういう状況が起こったのかを調べてみると、近くに川と山があることが分かりました。おそらく15時に施工終えた塗料が乾燥硬化中に湿気を取り込んだことが原因と推察しました。通常の塗料であれば十分乾燥し問題は起きなかった気がします。遮熱塗料で基材自体の温度低下が早く、基材に付着した湿気が影響したと考えています。

屋根用塗料の提案方法

屋根塗装の場合、当社は金属系、スレート系、瓦系と大きく分類し、更に無機・有機なのか、異種素材の部材があるか、単体かで推奨塗料を分けています。また遮熱塗料及び一般屋根塗料で分類し、遮熱塗料の場合は変色の程度に応じた色の提案、もう1つは遮熱機能を重視した際に50%以上の日射反射率を持つ色をすすめています。一般屋根塗料については、美観性重視仕上げか標準仕上げかで分類しています。瓦は、陶器瓦・日本瓦・セメント瓦・乾式コンクリート瓦(モニエル瓦など)がありますが、実績としてはセメント瓦とモニエル瓦の依頼が占めます。ただ近年、形状が似たような瓦で素材が違う瓦が存在するため、素材の見極めを間違えて塗料を選択した場合は、早期剥離が懸念されるため注意が必要です。

そのため当社では、遮熱塗料の提案は限られた選択肢になります。増改築などの理由で金属系屋根と異種素材の部材が使われている場合、個々に塗料を選択するのではなく、上塗りはともに使用できる塗料を選ぶからです。素材に応じて塗料を変えると、経年変化の差異を浮き立たせてしまいます。退色のスピードを合わせることが、同一の上塗りを使用する理由です。

ここでもう少し遮熱塗料を提案する時の具体事例をご紹介します。施主様が遮熱塗料を望まれた場合、当社としては①とにかく暑さ対策をしたい②色は決まっているが遮熱塗料も採用したい③施主様のブランド指定の3つの選択肢を提供します。

①の場合は、暑さ対策という理由が明確ですので、高明度の塗色をすすめています。

②の場合は、こちらで決めた塗料の中からブラウン系3色、グレー系2色の塗色から選択して頂いています。やはり変色の懸念から経験上、赤が強調したものは避けるようにしています。

③の場合は、実際の屋根の素材とその塗料の相性について説明します。もちろん問題がなければ、指定の塗料を使いますが、いくら施主様が使いたいと望まれても使えないケースがあります。その際は、施主様の意向を改めて聞いた上で㈰㈪の中から塗料を選択して頂いています。

例外として、塗装では施しようがないほど劣化したスレートなどでは、葺き替えを推奨しています。

スレートとシーラーの選択

スレートといってもメーカーや製造年、材質によって、劣化の具合もバラバラです。当社では、施工前に素材のメーカーを調べ、過去のパンフレットから材質や表面処理の種類について事前に調査するようにしています。これはシーラーの塗布回数にも関わり、当然単価にも影響します。安易な塗装仕様は後々のトラブルになりかねません。

特にアスベストフリー建材が一般化してからは、洗浄を含め下地調整に細心の注意が不可欠です。当社ではアスベストフリー建材の場合は、シーラー等を2〜3回程度塗布しています。シーラー、プライマー等の種類も素材によって使い分けています。

中でも最近頭を悩ませているのが、ハウスビルダーが自社の物件で採用しているオリジナル建材です。これらは組成に関する情報が一切開示されていないため、我々にとっては塗装に対するアプローチを難しくしています。今後は、ビルダーの囲い込み戦略もあり、更に増えるかもしれません。

築年数と屋根材の変遷を知る 当社の施工実績を素材別で分類すると、概ねスレート系60%、金属系30%、オリジナルブランド5〜10%、不明数%という割合になります。

これは家の築年数で顕著に表れており、築40〜50年の住宅はトタンと瓦。築20〜30年はスレート、一部瓦とトタンの複合素材が多いのが現状です。

今後もしばらくスレート系が増えていくと思われますが、金属系やアスファルトルーフィングによるカバー工法も増えており、今後はそうしたカバー工法の塗り替えも出てくるでしょう。

施工者の塗料の選定

施主様に塗料をご提案する以前にまず施工者として、水系、溶剤系、1液、2液、更に各樹脂系とその中から最適な塗料を選択することの意味づけが必要と考えています。

当社では、金属系は弱溶剤1液シリコンを中核に据えています。長く標準仕様として使っている塗料で今日まで問題がないというのが理由です。スレートなどで旧塗膜が水性の場合は、水性1液シリコンを使っています。

また新規もしくは既存の塗膜が弱溶剤(2液)のスレートの場合は、弱溶剤2液シリコンを標準仕様としています。これは地域性の問題です。長年、住み続けて数多くの建物に関わってきた経験から選んでいます。

一方、当社では屋根塗装は外壁塗装と一緒に施工するケースが多いため、外壁塗料とのバランスも重視しています。基本的には経年変化のスピードを合わせるため、屋根には外壁用塗料よりもワンランク上のグレードを使うようにしています。 

ただ最近、各メーカーが高級グレードの外壁塗料・屋根塗料を投入していますが、塗装業者が塗料を施主様に提案する際は、誇張しすぎないように気を付けることも大切です。

塗料グレードや性能を理解するには、各メーカーがそれぞれのブランドをどのような位置づけで開発しているかを知ることが重要です。同じ弱溶剤シリコン塗料でも複数ブランドから出ており、過去からの開発の流れや実績など、製品の変遷を知らなければ適切な塗料選択はできないと考えています。(談)

(写真提供・山越塗装)
洗浄→弱溶剤2液型エポキシ樹脂シーラー(2回塗り)→弱溶剤2液型シリコン変性樹脂塗料(2回塗り)。素材は平板化粧スレート。



(写真提供・山越塗装)
(写真提供・山越塗装)

HOME建築物 / インフラ塗装職人が語る屋根用塗料・遮熱塗料

ページの先頭へもどる