内装市場、高収益ビジネスへの起点に

本紙は、内装塗料の需要開拓と拡大をテーマに毎年特集を組んでいる。国内の建築塗料需要が漸減する中、手つかずの住宅の内装市場を開拓することで需要を創出することに加え、塗料・塗装の付加価値を高めるポテンシャルを探るためだ。色の魅力や塗料・塗装ならではの高度なデザイン力は、人々との距離が近い内装空間でこそ価値を発揮する。内装塗料の新たな需要づくりと付加価値化の可能性を探った。


まずは需要づくりのテーマから。ターゲットは住宅の内装市場だ。商業施設や公共建築など非住宅の内装に関しては、塗料(EP)が多く使われている。問題は戸建てやマンションなど住宅の内装だ。年間6億平米を擁する巨大なこの市場がビニールクロスに席巻されている。そこにどう食い込んでいくかが内装需要開拓へ向けた課題だ。

結論から言うと、やはりハードルは高い。そこで指摘されたのは、需要づくりへの壁装業界との圧倒的な差だ。

知られているように、ビニールクロスなど壁装業界の企業は壁紙の立派な見本帳を大量につくり、ハウスメーカーや工務店、リフォーム、設計、インテリアコーディネーターなど住宅建築に関わる隅々まで無償で配布してきた。これにより、住宅の内装仕上げは壁紙の見本帳で施主に提案するスタイルが標準になった。しかも数年ごとに見本帳を更新するなど"住宅の内装を壁紙にする"ための強固なインフラを、膨大なコストをかけて構築してきた。

従って、大勢は揺るぎそうにない。ただ、富裕層の住宅や、住まいづくりにこだわりのある層、海外の居住経験者など自宅の内装仕上げでペイントを選択するエンドユーザー(施主)は一定数存在する。ビニールクロスに比べれば圧倒的に少数派だが、そうした感性を持つ人たちがいることを大事にしなければならない。

少し乱暴な言い方だが、ペイント派の人たちが支持しているのは、"ペイントの部屋のカッコよさ"だ。ビニールクロスに囲まれたステレオタイプの室内ではなく、ペイントの空間ならではの佇まいを支持している。従ってそれを助長するよう動けばいい。

例えば、モールディングなどの部材を塗料のサプライヤーがサブ商品に据えるのはどうだろう。天井と壁の境や建具のまわりに、少し立体感のあるモールディングを這わせるだけでペイントの部屋はグッと映える。市販のカッコいいモールディングは輸入品に多く、結構高い。素材や加工を工夫してペイントのサプライヤーだからこそ提供できるモールディングをセットできれば、市場に響くかもしれない。どうすれば塗装の部屋にしたいように思わせるか、塗料単体の売り込みから脱却する発想が必要だ。

塗装をアートの領域に

次のテーマは、内装空間だからこそ発揮できる価値や魅力の考察。そのヒントが、本紙の海外視察ツアーで見た光景にあるかもしれない。

コロナ前の2019年に催行したドイツへの視察ツアーで「FARBE(ファルベ、ドイツ語で「色」の意味)」という塗料の展示会を訪れたとき、そこに広がっていた光景に衝撃を受けた。 

1日で回りきれないほどの広い会場を埋め尽くしていたのは、いわゆる特殊塗装のカテゴリーの材料や技法。ヨーロッパ中の塗料メーカーが集まり、自社の製品や工法を競っていた。

抽象画を思わせる複雑な模様、魅惑的な金属の輝き、錆や古材の枯れた佇まい、コンクリートやモルタルのクールな表情など、塗料・塗装の表現力を極めた壁やパネルで会場内はいっぱい。その光景はもはや「アートの競演」と呼べるほどのもので、その数の多さと層の厚さに圧倒された。

出展しているメーカーの多さからも、こうしたアートな塗装が市場に広がっているのは容易に想像できる。そして、その多くを占めるのはやはり建物の内装だ。人との距離が近い室内空間だからこそ感性に響き、価値を生む。店舗や住宅、公共建築などさまざまな建物でアートな塗装が広がり、その材料や技法として塗料や塗装の価値を高めている。

そこでは当然、職人の技能が工賃に反映し、アートのジャンルで塗料の価格が形成される。そうしたポテンシャルが、内装市場には秘められているということだ。

国内でも近年、デザイン性が目を引く塗装が店舗の内装などで多く見られるようになってきた。壁紙やシートなどの既製品にはない、塗料・塗装ならではの表現力が支持されてのものだろう、以前より広がっている印象だ。

また、意匠性が高い海外の塗料や塗材が多く輸入され、材料や工法も多彩になった。ただ、その多くはライセンス制など代理店によるクローズドな展開で、広がりが限定的だ。

そこで期待したいのは、アート性の高い国産の材料や、それを表現するツールの台頭。職人が腕を磨きたくなる材料やツールが入手しやすくなれば今よりもっと太い流れになり、業界全体で付加価値の高いビジネスにシフトできる。品質の担保など課題もついて回るが、その方向に舵を切る時期に差し掛かってもいる。
(ペイント&コーティングジャーナル:インテリアペイント特集2025より)



職人の技法は価値だ(FARBEで)
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アートな塗装が市民権を得ている
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