住宅木床の改修は、塗料需要の成長領域として期待を集めるものの、研磨による粉塵や家財の整理など居住者の負荷も高いことが普及の障壁となっている。そうした中、東京・豊島区で建築塗装を営む安田塗装(代表取締役・安田啓一氏)は昨年秋から「無垢フローリング再生塗装」を本格化。自社のWEBサイトで工程、施工価格(参考見積)を開示し、受注獲得につなげている。あえてニッチな領域を訴求する背景には、熾烈を極める同業競争との差別化になるとの見方がある。
安田塗装は創業57年の総合建築塗装会社。創業以来、ゼネコン協力工事を基盤に戸建て塗り替え、内装、大規模修繕、ウレタン塗膜防水工事など幅広い工事対応力が強み。家具のオイルフィニッシュや着色ウレタンクリヤーを使った木製玄関ドア改修も手掛けるなど、技能系塗装会社としての顧客の信頼を築いてきた経緯がある。
そうした中、同社は昨年10月、自社のホームページ内で「無垢フローリング再生塗装」のコンテンツを公開した。以前から要望に応じて無垢フローリングの新設塗装、塗り替えを手掛けていたが、今回施工メニューに加えることで、受注強化に踏み切った形だ。
サイト内では、無垢フローリングのシミ・汚れ、劣化、変色、ささくれなどの問題に対し、「表面を薄く削ることで汚れやシミ、キズを取ることができます」と説明。続いて造膜タイプのウレタン仕上げと浸透タイプのオイル仕上げの一長一短を示しつつ、無垢フローリングの美観復元が可能であることを発信している。サンダーによる研磨作業や塗装の様子を写真を使い分かりやすく示した他、新築及び塗り替えの見積もり例も掲載。施工に対する心理的負担を下げる内容を重視した。
その結果、専用ページ開設から3カ月で約10件の受注を獲得。無垢フローリングという需要量が限られる中での複数物件の獲得は、人口が多い東京という地の利とも言えるが、「居住中の室内施工はトラブルになり得る多くのリスクが潜んでいる」(安田氏)と施工管理と委託業者との協業体制でノウハウを確立し、無垢フローリング再生塗装のサービス展開を可能にした。
リスクをとことんケアする
木床塗装を手がける上で、真っ先に必要となるのが、無垢か合板かの確認。「過去、無垢材と思い込んでいた施主の依頼で研磨に取り掛かった途端、合板だと発覚したことがあった」と安田氏。施工側のケアレスミスでもある事例だが、それ以降、基材の見極めは現場調査時に必ず入れるチェックポイントとなった。
安田氏は「こうした些細な確認ミスが後々のトラブルを招くのが木床塗装」と話す。WEBサイトで見積例として価格を明示したのもミスマッチを防ぐためのひと工夫。また研磨業者と同行する事前の現場調査も有償化(成約時に全額割引)し、見積り目的だけの依頼を避けるようにした。「外装塗装のように見積もり依頼だけでは成り立たない」というのが理由だ。
その他、施工前の家財の撤収依頼や表面及び端部に研磨痕が残る可能性、深い傷は完全に消えない点など、施工後クレームになりそうなポイントを事前に伝える。着色仕上げの際の色目も施工中に施主の承諾を得るなど「住宅内装という施主もこだわりのあるデリケートな部分だけに施主とこまめなコミュニケーションが必要。施工後に思ったものと違うと言われるのが最も怖い」と事前説明がトラブル防止の必須事項と強調する。
一方、施工においては、研磨作業とクリヤー塗装を木床専業者に委託、着色仕上げを自社の職人と分業体制を敷いている。「研磨は、サンダーの扱いも含めて専業者でしか対応できない専門技能を要する領域。かたや着色仕上げは、肌感や色の調整など塗装職人が優れている」と協業体制に活路を見出した。
とはいえ普段、体育館床などの大面積をメインにする木床施工会社にとって、工期が短く狭いスペースで細かな作業を強いられる住宅は、ビジネス上のメリットが少ない。そこで協力業者との円満な関係構築のために重要となるのが受注力の強化。「コンスタントに物件を出せるようになったことで、職人さん達も協力してくれるようになった」とコメント。職人を派遣する木床施工会社にとってもほぼ1日で完工する住宅木床が空いた時期の収入源になると好評を得ているという。
なぜ木床に着目したのか
今回、同社があえてニッチな無垢フローリング再生塗装に打って出たのには、同業他社との差別化が目的にある。これまで需要の変動の大きいゼネコン工事をWEB集客を主体とする戸建て塗り替えで補完する形を取っていたが、昨年から戸建て塗り替えの市況が大きく悪化。少ない需要に受注競争が熾烈を極める中、無垢フローリング再生塗装を差別化策に見出した。
安田氏は「住宅の内外装両方に関われるのが当社の強み。技能を差別化に受注力を高めていきたい」とコメント。今年は、ガレージドアの再生塗装を新たな工事メニューを加える予定にしているという。
HOME建築物 / インフラケーススタディ 無垢床塗り替えで差別化