塗膜表面に施した微細な溝が摩擦抵抗を減らし、飛行機の燃費向上に寄与する。JAL(日本航空)、オーウエル、JAXA(宇宙航空研究開発機構)の3者で検証を進めてきたリブレット塗装旅客機がこのほど世界で初めて運行する。1月10日、報道機関向けに実機の披露と実演塗装を行い、燃費向上策としての有用性を訴求した。リブレット塗装を開発したオーウエルは、塗膜表面加工技術を生かし飛行機以外にも用途展開を積極化する構えだ。
JALが塗膜にリブレット形状を施した航空機で飛行実証試験を実施すると発表したのは2023年2月下旬。「リブレット」とは、微細な溝構造を持つサメ肌形状のこと。サメのうろこが水の抵抗を減らす効果にヒントを得、機体外板向けにリブレット塗装工法を開発した。オーウエルが塗装工法を開発し、JAXAが風洞実験などの科学的解析を実施。JALが航行性、実用性などの観点から評価検証を行った。飛行実証試験を通じて、耐久性、燃費削減効果の実証を得、世界初の営業航行を実現した。
リブレット塗装による燃費改善のメカニズムについてJAXAの担当者は、「従来飛行機が飛行する際、機体に触れた空気が渦を形成し、その渦が摩擦抵抗となり、燃費効率向上の妨げになっている。それに対し、塗装表面に微細な溝を施したリブレット塗装は、機体と空気の接触で形成された渦が機体表面から遠のいた位置で発生するため、摩擦抵抗を減らし、燃費効率を高める」と説明する。
そこでJALは、ボーイング787-9型の国際線機材にリブレット塗装の導入を決定。主に日本-欧米を結ぶ長距離路線に使用される機材で、前方から後方に至る機体胴体の大部分にリブレット塗装を施し、同機体による巡航時の抵抗低減率0.24%の実証を得た。航空機の燃料低減効果としては大きく、「年間119トンの燃費消費量削減とスギ約2万7,000本に相当する約381トンのCO2削減効果が得られる」(JAL)と脱炭素化としての有用性を強調した。
JALは「サステナビリティの取り組みを企業価値向上の最上位戦略に位置づける当社の方針と合致する」として今後はリブレット塗装機の導入拡充を図るため、施工範囲拡充による燃費低減効果の検証を継続する方針だ。
オーウエル、塗膜制御技術で新境地
リブレット塗装を実用技術として確立したのがオーウエル。会見に出席した同社事業企画部長兼Jプロジェクトマネージャーの橋谷田晃氏は、「R&D機能とコンサルティング機能を駆使した当社の塗膜形成力で社会に貢献していきたい」と1,000分の5mmのオーダーで制御を可能にする塗膜加工技術の今後に期待感を示した。
リブレット塗装の工法化においては、既存塗膜の上に水溶性の型で塗膜に凹凸を形成する「Paint-to-Paint Method」を基盤に確立。具体的には、機体表面に施されている既存の塗膜の上に、シート状になった航空機用塗料と水溶性モールドを圧着し、その後水で水溶性モールドのみを溶解させるというもの。航空機用塗料側には凸状、水溶性モールド側に凹状の加工が施されており、水溶性モールドが溶解した後は、凸状の航空機用塗料の塗膜が露出する仕組みだ。噴霧した水を回収、再利用する水洗システムも合わせて開発し、現場施工の適応につなげた。
国際線旅客機での採用を受け、同社としては各種航空機や宇宙機材への導入提案を進めていく一方、燃費向上以外の機能も探索し、施工サービスとともに需要領域を広げていく考え。現在、海洋生物の付着防止として船舶用塗料への適応検証も進めており、需要家と塗料をつなぐ"塗膜形成力"に塗料商社としての存在価値を見据えている。
デカールやフィルムを使ったリブレット加工技術がある中、今回、塗料・塗装技術を採用した理由についてJALは、従来と塗料使用量が変わらず重量変化がないこと、耐久性に影響がない点を採用理由に挙げつつ「首都部を航行する飛行経路が加わり、剥離落下に対するケアが一段と高まっている」と塗料の付着力を評価。塗料改良によらない機能付与技術に新たな可能性を広げている。