塗装乾燥炉で水素バーナ採用、CO2対策技術

カツラグループの桂精機製作所(代表取締役社長:丸茂等氏)は、山梨工場の粉体塗装ラインの乾燥炉における熱源として、同グループ会社のヒートエナジーテック(本社:神奈川県横浜市、代表取締役社長:村田陽一氏)の水素とLPガスを混焼した熱風発生装置を2024年11月に導入、2月上旬にメディア向け見学会を開催した。熱源に水素を活用することでCO2排出削減が可能となるため、実ラインで各種検証を進めながらカーボンニュートラルの取り組みを推進する。


桂精機製作所はガスの供給機器や安全機器などを製造・販売しており、山梨工場では加工、塗装、組み立てを行っている。塗装工程としては、加工されたダイカスト製品をアルマイト処理してから粉体塗装で仕上げている。

国が進める2050年のカーボンニュートラル社会実現に向けて、桂精機製作所が取り組みを進める中で、塗装ラインの焼付乾燥工程においてCO2削減効果が期待できるとして、同じグループ会社であるヒートエナジーテックの水素混焼式熱風発生装置「KSH-200」の導入を決めた。

水素は燃焼時にCO2を排出しないため、塗装工場の焼付工程での次世代技術として注目されている。

水素混焼式熱風発生装置は、①水素とLPガスの混焼②水素専燃③LPガス専燃の切り替えが部品交換なしで行えるハイブリッドバーナを搭載し、混焼率も無段階で切り替え可能。更に全領域で燃焼排ガス中のNOx値を100ppm以下に抑えることが可能となっている。なお、燃料は水素、都市ガス、LPガス、水素+都市ガス、水素+LPガスの5種類に対応し、ヒートエナジーテックではカーボンニュートラルの取り組みをサポートとする次世代技術としてさまざまな業界に向けて提案を行っている。

昨年11月に同措置を導入した桂精機製作所は現在、通常量産においてLPガスを使用しており、水素燃焼による各種検証試験を実施している段階だ。

導入した「KSH-200」は水素混焼比率が任意で範囲を設定できるが、桂精機製作所では現在①LPガス100%②LPガス90%:水素10%③LPガス50%:水素50%④水素100%の4パターンを設定。

その中で、現状はLPガス90%:水素10%の比率で検証を行っている。
水素の割合を増やすことがCO2削減につながる。ただ、水素をこれ以上に増やすには課題が多いのが現実。水素の価格が下がることが必須であり、供給設備や輸送方法など流通するためのインフラ整備が求められる。

水素技術普及にインフラ整備必須

昨年11月から3カ月にわたって実証試験を実施。通常生産に影響の及ばない土日にテストを行ってきており、「水素10%」の比率で検証中だ。

桂精機製作所・山梨工場の今井和範工場長は「装置導入にあたって、神奈川工場(綾瀬市)の実験施設で基本の評価試験は行ったが、実際に生産ラインで使用してみて問題ないかをいろんな角度から検証している。3カ月経った評価としては実験炉と量産炉では結果はほとんど同じ。環境が異なるので心配していたが、問題ないことが分かった」と現時点での評価を述べる。

水素とLPガスでは燃焼排ガスの成分が異なる。水素はCO2は排出しない一方で、水蒸気の量がLPガスと比べて増えるため、密着性や光沢などへの水分の影響を検証している。

桂精機製作所はカーボンニュートラル達成を目指す方針を掲げる中、「将来的な水素インフラ体制や価格動向を鑑みながら、水素混焼比率を段階的に増やしていく予定」と今後の展開を見据える。

一方、ヒートエナジーテックは水素混焼式熱風発生装置をUCC上島珈琲のコーヒー豆焙煎用で実績はあるものの、塗装乾燥炉では今回が初めての採用となった。グループ会社である桂精機製作所で検証を進めるとともに外販も行っていくが、今後の普及については長期的な戦略が必要との考え。

ヒートエナジーテックの営業統括本部の萩原和徳本部長は「水素混焼式熱風発生装置の問い合わせはカーボンニュートラルに注力している食品関係企業が多い。食材関係は消費者にアピールできるので、投資対効果が期待できると見ている。一方で、塗装関連では投資対効果を見出すのは難しいとの判断が多い。当社としては5年、10年先を見据えて水素化へのサポートを推し進めていきたい」と展望を語る。

塗装工程全体からみて乾燥工程からのCO2排出の割合は多い。熱源で水素化を進めることができれば大きな削減効果に寄与できるため、ヒートエナジーテックでは次世代技術として提案を進めていく。



水素混焼式熱風発生装置
水素混焼式熱風発生装置
水素混焼でも塗膜品質に問題ないことを確認
水素混焼でも塗膜品質に問題ないことを確認

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