重防食塗料分野の潮流 脱"鋼橋"、製品力が需要直結
水性JISの影響は

重防食塗料分野ではプラント設備をメインターゲットとした製品開発・提案が活発化している。塗料メーカーにとって、塗装仕様が決まっている鋼道路橋よりも機能性による差別化戦略が進めやすいという側面がある。施主や現場ニーズに合致した製品開発を進めることで需要創造を図っている。


構造物向けに展開する重防食塗料市場を全体的に見ると、決して悪くはないものの好調とまではいかない横ばい傾向が続いている。

日塗工が発表した平成29年度需要実績見込みは数量が8万4,000トンで前年度比98.4%、平成30年度は8万7,000トンの103.2%に推移すると予測している。

橋梁分野では塗り替え需要がメインとなっているが、近年の需要動向は若干の増加傾向が続いている。ただし老朽化した橋梁のストック量を考えると、工事発注件数が少ないとの見方が多い。 

それは予算が取れないことや塗膜中の鉛・PCBの調査に時間がかかっている、橋梁工事の大型化が進んで塗装単体工事が減っているなど複合的な理由が考えられる。潜在需要の顕在化が進んでいないのだ。

塗料開発という観点でもこの分野の動きは少ない。橋梁は「鋼道路橋防食便覧」に沿った塗装仕様が普及しているため塗料体系としても完了済み。製品による差別化がしにくく、単価競争が激しくなっているのが現状だ。

反対に動きが見られるのがプラント設備や鉄塔、タンクといった民間物件だ。「新設、メンテナンスともに好調」「橋梁向けの塗料出荷はある程度読める中で伸ばす分野はプラント」(塗料メーカー)と各社は機能性を付与した製品の開発や、現場環境に適した素地調整を含めた塗装仕様の提案など、橋梁以外を成長分野と位置づけ事業を強化している。

塗料メーカーとしては、塗装仕様が決まっている橋梁向けよりも付加価値を施主に直接提案することで受注につながりやすいプラント向けの製品開発を重視する傾向が見られている。

プラント向け機能性塗料の1つとして挙げられるのがCUI(保温材下配管外面腐食)対策塗料だ。

断熱効果を目的とした保温材で覆われた工業用配管は内部を通るガスや液体から生じる温度変化や水分の影響を受け、外部に晒された配管より過酷な腐食環境にある。これを塗装で対策するという考えで、海外では普及している一方で国内では今後の需要創造分野と期待されている。

関西ペイントはCUI対策塗料の開発を発表、来年から本格販売を予定し、大日本塗料も製品化を進めており上市を予定している。国内メーカーだけでなく世界の製油所や石油化学施設で実績を持つPPGも国内市場向けに製品展開を本格的に開始している。他メーカーでも需要動向を注視しており、塗装によるCUI対策の訴求を図っていく流れがある。

また、日本ペイントが重点分野と位置づけるのはコンクリート構造物だ。製品ラインアップを拡充し、事業拡大を図っている。かつてはメンテナンスフリーと言われていたコンクリート構造物だが、近年は維持管理のために被覆保護やはく落防止需要が高まっている。橋梁の構造は鉄とコンクリートが一体となっている場合も多く、鉄とコンクリート両素材に対応できることも強みとなる。

機能性を強みに鋼橋以外の塗装需要を創造することで事業拡大を図っている。

構造物用塗料のJIS公布へ
まずは公共建築から

構造物用さび止めペイント(JIS K 5551)と鋼構造物用耐候性塗料(JIS K 5659)の水性JISが9月中旬に公布される。重防食分野でいよいよ水性化の流れが始まる下地ができたと言える。

鋼構造物への水性塗料の本格的な採用はこれまでなかった。JR東日本の鉄道橋で試験塗装が行われたり、ガスタンクや鉄塔などの民間物件や自治体管轄の塗装工事でわずかな実績があったに過ぎなかった。

それが大きく動き出したのは昨年からの首都高速道路の本格採用だ。火災事故の経験から現場で危険物の取り扱いを減らす方針を打ち出しており、現在、首都高速道路の橋梁塗り替え工事では下塗りから上塗りまで基本的には水性塗料が使用されている。

今回の水性JIS化で首都高以外の発注機関でも水性塗料の採用が始まる可能性もあるが、実際にはすぐに大きく変わることはないと思われる。国や自治体、高速道路会社にしてみれば、現行の塗装仕様で問題がなければ、わざわざ新規塗料を採用するリスクを負う必要がないと考える。

ただしJIS化されたことで、大規模な橋梁ではなく公共建築工事で採用されるケースは出てくると思われる。VOCや臭気の対策として門扉や建物の鉄部、更には住宅密集地の歩道橋など、これからは試験塗装も含めて水性塗料が使用されるケースが増えるとみられる。

塗装の現場でも水性塗料を使用する機会が増えれば、粘性や乾燥性など水性塗料の特徴に慣れていき、品質や作業性は改善が進んでいくはずだ。

今回の水性JIS化が重防食水性時代の到来とは言えないまでも、次世代に向けて確かなスタートを切ったと言えるはずだ。



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脱“鋼橋”、製品力が需要直結

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