国内初、建設向け吹付ドローン開発

国内初となる、液体や補修材を塗布できる建設向けのドローンの製品開発が進められている。西武グループのゼネコン・西武建設(本社・埼玉県所沢市、代表取締役社長・中村仁氏)は、芝浦工業大学と共同で開発を進めている吹付ドローン「Serα」(セラ)を来年度後半に発売する。機体にノズルを搭載し、人の手の届かない高所の構造物に液体を塗布できる。高所作業に伴う設備コストを削減でき、作業者の安全に寄与する技術として注目を集めている。将来的には塗装作業での活用も視野に入れている。


国土交通省及び全国の地方公共団体が管理する道路橋は、2014年7月に国交省道路局が定めた「定期点検要領」によって、5年ごとに定期点検・補修を実施することが義務付けられている。 現在、コンクリート構造物のひび割れや中性化の補修には、ケイ酸塩系の含浸材を刷毛やローラーで塗布して劣化因子を遮断しコンクリート表面を改質している。

しかし、橋梁の補修など高所での作業には、足場を組むか橋梁点検車やゴンドラを使用して接近する必要があり、人員の問題や費用がかさむ点で課題が残っていた。また作業コストを削減する策として導入された、作業員とロープを接続して降下するロープアクセスについても墜落事故の事例があるなど安全面でのリスクが伴っていた。

安全な高所作業とコスト減に寄与

これらの課題に対して、西武建設はドローンを介した遠隔操作で補修材を塗布するシステムを構築した。従来の高所作業で必要だった足場の架設や高所作業車の準備が不要なためコスト削減が期待できる他、作業員が高所に上がるリスクを回避することで安全性の向上に寄与する。

同社は2015年から吹付ドローンの開発に着手した。国内のドローンメーカー・Zenbot社にプロトタイプの作成を依頼し、1.2m四方のクワッド機(4つの回転翼を持つ機体)に液体塗布用のノズルや塗布面を見るカメラ、塗着位置を表示するレーザーポインターを搭載した。

塗布する液体は、25L貯蔵可能な地上のタンクから送液される。タンクと機体を全長20mの吐出ホースで接続、除草剤散布用のポンプエンジンで液体を圧送する。吐出量はコントローラーからON/OFFを切り替えでき、ポンプ側で出力圧を調整する。電源も同じく有線接続による外部供給で、連続稼働時間は30分を想定している。

塗布可能な液体は、コンクリート補修材や含浸材、遮熱材、水、粘性の低い液体など。幅広い液体の塗布に対応するため、液体塗布後の交換が容易な農薬散布用のノズルを採用した。

「より高粘度の液体に対応するノズルの開発や、塗布面にムラや垂れが発生する課題を今後解決していく。現時点では塗りムラが許容される分野での使用を想定している」(担当者)と説明。主に、コンクリート構造物の補修やビニールハウスへの遮熱材の塗布に加え、除草材や農薬の散布など農業分野からの引き合いが強まっている。今後は塗ムラなど意匠面での課題を克服し、塗装用途での活用も視野に入れている。

建設業発の産業用ドローン

西武建設は建設業務で培った現場でのノウハウを生かし、建設業に特化したドローンとして市場にPRする方針。そのため、建設現場でのさまざまな環境下での作業を想定し設計を進めた。

ドローンの動作や姿勢制御を司る、いわば「頭脳」にあたるフライトコントローラーにはプラスチックとエポキシ樹脂を成型したカバーを装着。防水・防塵仕様にすることで雨天時など過酷な現場での操縦に対応した。

操作面では、ドローンの操縦とノズルの操作を2人1組で分担することで作業員の負担を軽減。また機体に搭載したレーザーポインターで塗着位置が壁面に表示されるため、ノズルの操作に不慣れであっても安定した吹付作業ができる。

現時点での課題は、夏場の作業など高温環境下でフライトコントローラーを熱からどのように護るかという点。本体に遮熱コーティングを施す耐熱タイプのコントローラーを採用するなどの措置を検討している。

なお、西武建設は来年度後半の発売を目指し、同機体をレンタルするβテストを実施予定。採用を検討する企業が各現場で活用することで、作業時の課題を抽出し機能のブラッシュアップを図っていくという。



スプレードローン「Serα」
スプレードローン「Serα」

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