塗装現場が抱える課題に対して、塗装技能コンクールを有効活用する工業塗装専業者がある。神奈川県に拠点を構える第一塗装工業と立神工業における取り組みをレポートする。
第一塗装工業
第一塗装工業(神奈川県横浜市、石川政男社長)は30年以上前から塗装技能コンクールに積極的に取り組んできた歴史がある。
直近の神奈川県のコンクールでは最高峰の神奈川県知事賞に古谷幸路氏、神奈川労働局長賞に木下力氏を筆頭に4名5作品が入賞している。古谷氏の神奈川県知事賞受賞は2年連続3回目となっている。
石川社長が理事長を務める神奈川県工業塗装協同組合の中でもトップの成績を誇る。塗装技能コンクールの取り組みについて石川社長は「実務レベルでも高い品質が求められるので、塗装品質の意識を高めるため」とその狙いを話す。
同社では金属製品に対してメラミン塗装、ウレタン塗装、アクリル塗装をメインに行っており、メインの塗装品である防衛・航空・宇宙関連品では精密な塗装が求められる。
塗装品は少量多品種でありワーク形状もさまざま。そのため塗装工程ではハンドガンによる技量が重要となる。従って塗装技能コンクールに出品するレベルの塗装技術が実務レベルでも必要となるとの考えだ。
塗装担当者の育成については現場に入りながら指導に当たる。指導役を担う製造部の木下力部長は「実際に塗装する中で技術力を高めることが大事。塗料調合にしても、塗料メーカーの基準を踏まえつつも、気温や湿度に応じて粘度調整をする必要がある。これは現場でもコンクールでも同じこと」と述べ、現場指導を重要視する。
特別な育成プログラムは持たないとしつつも、長年培ってきた"現場で先輩から後輩に指導する"文化が醸成されており、その基準として塗装技能コンクールの取り組み、更には入賞が位置付けられている。
同時に、塗装品質については作業環境の整備を重視。近年では大きな設備投資を実施しており、「生産性や品質を確保するためにも環境を整えることは大事。塗装会社として定期的に設備更新する必要がある」との考えだ。
給排気装置を備えた隔離ブースでの塗装作業でゴミブツゼロを目指しており、クリーン装置を装備したセッティングルームで初期乾燥をすることで自然乾燥の塗装でも焼付塗装と同様の外観品質を確保している。
塗装担当は50代後半のベテランとともに20代の若手も育ってきており、彼らには、塗装技能コンクールへの取り組み、更には国家検定制度である金属塗装作業の技能検定の取得を義務付けている。
塗装品質の要求レベルが高い中においても、人的な塗装技術力が差別化となり顧客からの信頼獲得につながっている。
立神工業
今年の塗装技能コンクールの入賞作品でひと際目立っていたのが、外国籍の名前の多さだ。入賞した6人のうち実に5人が立神工業(所在地:神奈川県横浜市、代表取締役・辻涼樹氏)で働く技能実習生たちだ。
同社は鉄道車両機器をメインに、パーカー処理から金属焼付塗装仕上げ、更に完成品の組立までを一貫して行う体制を整える。少量多品種を扱うため、塗装工程は自動塗装ではなくハンドガンで行っているが、そこで重要な戦力となっているのがフィリピンから来ている技能実習生だ。
技能実習生5人全員が塗装担当として現売に入り塗装作業に従事している。以前から日本人とともに技能実習生が塗り手として現場に入っていたが、近年の人材不足により、技能実習生の重要性は増している。
技能実習生1年目でも数カ月の研修を経て、早い段階で実ラインにおいて技能習得に努めるやり方を用いている。20年以上前から技能実習生を受け入れており、"先輩"が"後輩"を指導し、"後輩"が"先輩"を見習う文化が醸成されているため、技術伝承の循環がスムーズに行われている。
その結果が塗装技能コンクールの入賞という形で表れている。「出品の強制はしていないし、出品に向けた段取りも自分達で行っている」と辻社長。それでも毎年数名が入賞するほど前向きに取り組んでいる。
そして、毎年2月下旬に横浜新都市ビル(そごう横浜店)で開催される「神奈川工業塗装まつり 塗装技能コンクール」に従業員を連れて作品を見に行くのが恒例行事となっている。その際には発注者である取引先担当者も一緒に連れていくという。
辻社長は「技能実習生が塗っていることで品質に不安を覚えるお客さんもいる。入賞作品を見てもらうことで彼らの技術力を理解してもらえる」として、技術力の客観的評価として塗装技能コンクールをとらえる。
5人いる技能実習生のうち2人が特定技能2号に移行しており、1人は塗装技能士2級に合格している。塗装技能だけでなく日本語能力も求められる2級合格は非常に難易度が高いと言える。辻社長は「技能実習生がいても技術の伝承はできており、彼らが重要な戦力であることは変わらない」として人員体制の整備を進めていく。