「前に、○○町の現場で使ったあの材料を持ってきて」と、いつものペンキ屋さんから注文の電話。塗料販売店の日常的なこの光景も、考えてみればすごいことだ。「あれ、これ、それ」といった極めて曖昧な情報で注文を受け、仕事をこなしているのだから▲注文する方はいちいち商品名を調べなくて済むし、自社のことをよく分かってくれていると気分も良い。受ける側も「阿吽(あうん)の呼吸のようなこの対応力こそが顧客満足」と得意な節もある。が、考えてしまう。社員がその域に達するまでにいったいどれくらいの年数がかかるのだろうと▲今年も多くの新入社員が企業に入社した。この業界に限らず、日本の商慣習に多く見られる冒頭のようなやりとりが若い人たちの目にどのように映るのだろう。「前に」っていつ?「○○町」のどの現場?「あの材料」って...▲ベテラン社員の仕事ぶりが"神業(かみわざ)"のように映るほど、「凄い!」を通り越して「引く」あるいは「怯む」といったように冷めていくのでは。そこに達するまで待ってくれるほど甘い社会でなくなっていることは、若い人が一番感じているのだから▲休日や残業時間、福利厚生も大事だが、若い人が早くから活躍できる職場づくりも人材難をしのぐ要諦。若い人の視点で自社の仕事を棚卸ししてみるのもいい(K)