塗料による新たな耐火技術が確立された。日進産業(本社・東京都板橋区、社長・石子達次郎氏)の断熱塗料「ガイナ」を耐火層に組み込んだ木質パネルが、1時間耐火の大臣認定をこのほど取得、同塗料の木造建築での利用拡大に道が開けた。一方、ガイナのようなセラミックス塗料による塗膜の断熱効果の測定方法について、日本規格協会(JSA)が3月28日付でJSA規格を発行、「塗膜による省エネルギー効果」が明示された。耐火、断熱とも公的にオーソライズされ、セラミックス含有塗料の可能性が広がっている。
日進産業は、木造住宅建築の芳賀沼製作(福島県会津町)と共同で、福島イノベ機構の支援を受け、「木材利用促進のための塗料の研究開発事業」を3年にわたり推進。ここで開発した耐火木質パネルが1時間耐火(非耐力)の国土交通大臣認定試験に合格した。
開発した耐火木質パネルは、芳賀沼製作が間伐材を活用して製造した芯材と内外木質パネルの間に、ガイナを塗布した木毛セメント板を組み込み、耐火木質パネルとするもの。強化石膏ボードを利用して耐火認定を受けていた、従来工法に代わる新たなスペックだ。
ポイントは、木毛セメント板の耐火性能を向上させるためのガイナの改良にある。
まず、木毛セメント板に浸透させるため、ガイナの粘度を大きく下げた。次に、高温(約800℃)になると球体から平状に変形して防火壁の役割を果たすセラミックスを新たに選択。そこに結晶水を含んだ物質を混入し、高温時に水蒸気を発生させる技術(GAINAミスト)を付加した。「セラミックスから発する遠赤外線の振動が結晶水物質からの水蒸気の発生を促し、耐火に優れた効果を発揮。特殊セラミックスと結晶水物質の混合比率のベストバランスを突き止めたことで、耐火性能が飛躍的に高まった」(石子社長)と説明。耐火性に劣る木毛セメント板を、強化石膏ボードに比する耐火建材に仕立てた。
これによるメリットの1つ目は、外壁での木質パネルの利用がしやすくなることだ。石膏ボードと異なり、木毛セメント板は雨天時でも外での作業ができるため、耐火建材としての汎用性が高まる。
2つ目は、木材利用促進への貢献。木毛セメント板は、リボン状に削った木材をセメントで固めているため木材の利用率が高く、CO2の固定化と削減への貢献度合いが高い。環境共生時代の耐火建材としての期待が大きく、「集成材や合板メーカーから多くの引き合いをいただいており、新たな耐火木質パネルの共同開発もスタートしている」(同)と反響が大きい。木材利用促進法を背景に市場に広がりそうだ。
そして3つ目が、断熱塗料のガイナを使っていることによる断熱性能の向上。断熱性能を兼備した耐火木質パネルといったこれまでにない領域が狙える。これに関しては今年3月28日付で、セラミックス塗料による断熱性能の求め方のJSA規格が日本規格協会から発行。ガイナの省エネ効果の公的な規格化へ向けて前進した。
"塗膜"の断熱性能オーソライズ
今回、日本規格協会(Japan Standard Association)が発行したのは、「高密度超微細セラミックス塗料-塗膜の断熱性能の求め方」というJSA規格(JSA-S1023)。言い換えると、建物の外皮(内外)に塗った塗料の塗膜の断熱性能によって、どれほどの省エネ効果が得られるかを測るための方法が規格化されたということだ。同様のセラミックス塗料であれば、ガイナに限らずこの測定方法が適用でき、塗膜の断熱性能による省エネ効果が実証される。塗料業界にとっても朗報だ。
JSA規格は、企業などの依頼を受けて開発・発行される民間規格。発行元の日本規格協会はISOやJISなどのデジュール標準への橋渡しとしての役割や、市場化活動へのけん引を期待されている機関で、国家規格から民間規格への移行を進める日本の標準化ナショナルセンターとも言える機関。
JSAは今回、日進産業からの依頼を受け規格化への開発を進めた。ガイナのような高密度セラミックス塗料の塗膜に省エネ効果があることが確認されているものの、建築物の省エネ効果を評価する方法として"塗膜"の断熱効果を評価する規格がないことから、その測定方法を定めることを目的とした。それにより、住宅などの購入者が高い断熱性能をより現実性をもって把握することができ、施工者及び購入者双方にとって高いメリットがあるとの考えに基づいている。
JSAでは人工の気象装置を作製し、ガイナの塗膜の表面熱伝達抵抗値を、建築物省エネ法における断熱性の指標のUA値に反映できる方向で開発。
その結果、在来工法による一般的な2階建ての住宅で、冬期19%、夏期53%、年間を通じて36%の電気代削減率が得られるとの経済効果を実証。
「このJSA規格の測定方法により、さまざまな建築物における"省エネルギー"及び"地球温暖化抑制"実現のために高密度超微細セラミックス塗料が使われることが可能となる」とJSAは言及。建築物における"塗膜"の断熱性が実証された形となり、断熱材としての塗料・塗装の需要拡大に期待が高まる。