外国人技能実習生の雇い入れは、時に日本の従業員との間に軋轢を生み、うまくいかないこともある。それを解消する方法があった。動画の共有だ。実習生たちが現地で訓練に励む動画を事前に見てもらうことで、日本の従業員の中に仲間意識が醸成され、受け入れがスムーズに進む。外国人雇用の良い流れを生み出している塗装会社の事例を取材した。
「『彼らがいることで、現場の雰囲気がすごく良くなった』と、社員の評判もすこぶる良い」と話すのは、石川県金沢市の建設塗装会社・若宮塗装工業所の若宮昇平社長(写真)だ。工期が差し迫ったときなど、時に殺伐とした雰囲気になる現場にあって、大きな声であいさつをし、何事にも手を抜かずに一生懸命働いている外国人技能実習生たちの姿が現場を和ませると言う。
「お金を稼ぎに来ている外国の若者に働きやすい職場を提供し、彼らの頑張りによって、働き手としてはもちろん、会社の雰囲気にまで良い影響を与えるようなWin-Winの関係が生まれる。それが、外国人を雇用することの本質ではないでしょうか」と若宮氏は思いを語る。
同社は、令和5年12月にミャンマーからの技能実習生2名を雇い入れた。それ以前の3年間で10人が離転職し、「日本人の労働に対する価値観が変わっている」ことを痛感。「会社側も採用への意識を変えなければ」と外国人技能実習生の採用に乗り出した。
仕事を請け負っている大手ゼネコンの鹿島の「ミャンマー人材育成訓練支援計画」が契機になった。鹿島が主体となって各種専門工事業者の外国人材採用支援を行っているもので、現地で7カ月の研修期間を設けているのが特色だ。安全教育や建設用語などの研修の他、フルハーネスや高所作業車、足場組立などの特別教育を実施。「技能実習生を即戦力として迎えられるメリットがある」(若宮氏)と説明する。
鹿島が用意した現地の面接会場に令和5年3月に赴き、ピェ ソン トゥンさん(右の写真上)と、ヤン ナイ ドゥエさん(同下)の2名を1期生として採用した。エントリーシートの内容に加え、「トゥン君は妻帯者で屈強な体格、ヤン君は意思の強そうな眼差しに惹かれた」のが採用理由だ。
2人はそこから7カ月の教育研修に入るが、即戦力への訓練に加えて日本にいる社員との橋渡しとして機能するのも、同支援制度のメリットだと言う。
「研修期間中、実習生たちが現地で訓練している様子が毎月動画で送られてくるので、それを日本の社員たちと共有。指差呼称を繰り返している光景やフルハーネスに苦戦している様子など、彼らが頑張っている姿を見守ることで社員の中にも自ずと仲間意識が醸成され、受け入れがスムーズに運んだ」と研修期間を有効に働かせた。
若宮塗装工業所は資格者集団だ。各種塗装の1級技能士や登録建設塗装基幹技能者、CCUSレベル4など高度な資格者だけでなく、国土交通大臣顕彰(建設マスター)や叙勲の受章者まで居並んだ強者の職人集団。
その環境の中で育てられ、「同じ現場に入っていた同業他社が当社の技能実習生たちの働きぶりを見て、自社でも即刻採用活動を始めた」と周りに影響を及ぼすほどの仕事ぶり。「現地の研修期間中の費用や渡航費など、おそらく100万円ほどのお金を親族などから借りて渡ってきたのに、働き始めて7~8カ月でそれも完済。日本人と同じ給与水準とはいえ、その節約ぶりには舌を巻く」と感心しきりだ。
「彼らのハングリー精神と真面目さを良い方向に導いていけるようにすることが、外国人雇用の要点」と若宮氏。冒頭で触れたように職場の雰囲気が良くなっただけでなく、彼らの生活マナーや頑張っている姿に近隣での応援者も増え、会社の評判にもつながっている。同社では、令和5年の1期生2人に続き、昨年12月には2期生の2人が入社、そして今年12月にもミャンマーから2人が入社する予定だ。
若宮氏は、日本塗装工業会で副会長を務め、同工業会の外国人材施策の要職も担っている。全国の同業者(会員)へ向けた外国人採用の仕組みづくりを進める上で、自社での経験をフルに生かしたいと考えだ。
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同社の外国人技能実習生1期生の2人にアンケートに答えてもらった。
◆ピェ ソン トゥンさん(25)出身国:ミャンマー
「日本は、世界の中でも良い国だと思っていましたから日本に来ました。若宮塗装工業所は、社長も社員の皆さんも親切だし、生活も何不自由なく送れています。職長や職人さんたちも分かりやすく仕事を教えてくれるので、仕事は楽しいし、やりがいがある。将来やりたいことに備えて、しっかり貯金をしています」
◆ヤン ナイ ドゥエさん(21)出身国:ミャンマー
「ミャンマーは給料も低く、仕事もないので外国に行くことにしました。いろいろと調べ、自分には日本が合っていると思い、来日しました。若宮塗装工業所は社長も仲間も優しいからとても居心地がいい。仕事は難しいこともあるけれど、皆が頑張って教えてくれるので、たくさんのことを覚えました。将来は彼女と結婚をして、ずっと日本に住むのが夢です」
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