塗装店訪問 外国人雇用、反発と融和の先の連帯

外国人労働者を受け入れたときの葛藤を乗り越える過程で、日本人社員の中に育つ指導力や包容力や優しさ。反発から融和へ、マイナスからプラスへの振れ幅が大きいほど、互いの絆が強まり、会社に推進力をもたらすと言う。建築塗装会社の建翔(本社・千葉県柏市、宮澤信彦社長)では、社員数22名のうち特定技能外国人が10名を数え、紛れもない戦力になっている。



「現状に満足しない」というのが、宮澤信彦社長のモットーだ。いろいろなことにチャレンジし、少しずつでも会社を前に進める。日本人の採用環境が厳しくなる中、外国人労働者にアプローチすることは、宮澤社長にとっては必然の挑戦だった。

同社は早い段階から外国人技能実習生の採用に踏み切った。ベトナムから来日した1期生のファン チョン ルアンさん(35)は、同社に在籍して8年になる。技能実習制度を満期で終え、特定技能資格に移行した。ルアンさんを筆頭に、現在10名の特定技能1号の外国人が社員として活躍。「『あの子たちをまた来させてよ』と現場監督や元請けからの評判も良く、ある意味、彼らの存在が営業にもなっている」(宮澤社長)とその活躍ぶりに目を細める。

もちろん、最初からうまくいったわけではない。「自分の一存で決めて動いていたので、何も知らされていない(日本の)社員たちは、最初は反発しましたね。ある日突然、言葉も話せない外国人を現場に連れてこられ、任されるわけですから。きつい言葉で彼らを叱ったり、私に厳しい意見をぶつける社員もいました。だけどそれは、双方にとって乗り越えなければならない壁だった」と当時を振り返る。

言葉も育った環境も背負ったものも違う人同士が融和するためには、「すり合わせの時間が必要」なのは織り込み済み。というより、"反発"というマイナスから始まり、"融和"のプラスに転じる過程で、「その振れ幅が大きいほど、得られる成果も大きくなる」ことを経験的に熟知していた宮澤社長。反骨精神で這い上がってきた同氏ならではの視点で見守った。

マイナスからプラスへの溝を埋めたのは、やはり現場だ。きつい仕事をこなしながら、工事の完成という同じ目標に向かって一緒に汗を流す。彼らに戦力になってもらわないと困るから、日本人の職長や職人も伝え方に頭を働かせるようになり、外国人社員の方も理解しようと努める。互いのコミュニケーション能力が高まるにつれ関係性が良くなり、仕事の成果に反映することで信頼関係が深まる。「彼らが居ることで、日本の社員たちの指導力や包容力が広がり、会社をいい方向に導いている」(宮澤社長)と明確なプラスの成果をもたらした。

外国人社員に活躍してもらうためには、処遇待遇面での整備も欠かせない。社会保険への加入はもちろん、経験年数に応じた給与水準も日本人と変わらない。数年前に新設した社屋の2階には寮も完備し、エアコンを備えた5つの個室と共同のキッチンとリビングダイニングを設置。他にも近隣のURで外国人社員のための部屋を借り、そのうちの1人は日本でベトナム人の女性と結婚し、現在育児休暇を取得中だ。

また、高所作業車(高さ無制限)やゴンドラ作業、有機溶剤取扱などの資格も会社持ちで取得させ、活躍の場がますます広がっている。その頑張っている姿を見ているだけに、在留期間5年の特定技能1号から、在留期間に上限のない特定技能2号への移行の難しさに、強く矛盾を感じる。

「ここで長く働きたい子たちにはそうさせてあげたいけど、日本人でも受かるのが難しいといわれる特定技能2号の試験や要件がそれを阻んでいる」と指摘。外国人材受け入れへの国の本気度を問う声を代弁する。

同社の外国人社員を代表して、3人の方にアンケートに答えてもらった。
◆ファン チョン ルアンさん(36)出身国:ベトナム。入社8年
 「日本で働く目的は、お金を稼ぎ家族に仕送りすることと、たくさんの経験を積むためです。最初は日本語も分からず、実務経験もなかったので慣れるのにとても大変でした。でも、下地の施されていない状態から、建物がどんどん綺麗に仕上がっていくのが素晴らしく、いい仕事だと思います。このままずっと、日本で長く働きたいです」
◆レー ホアン ブーさん(26)出身国:ベトナム。入社6年
 「建翔は、装飾的なインテリア塗装がとてもうまい会社です。豊富な経験を持つ職人さんが多く在籍しており、とても勉強になります。日本の塗装業界は先進的で創造的だとも感じており、日本人から学ぶべきことはたくさんあります。そのためにも、私のコミュニケーション能力をもっと向上させ、先輩たちの技を吸収したい」
◆グエン テー フィンさん(30)出身国:ベトナム。入社6年
 「家庭の事情が厳しく、家族を助けるために日本に来ました。建翔のような良い会社に出会うことができ、とても幸運でした。現場が遠くて朝早くに向かうことや、雨の中の作業など大変こともありますが、塗装という仕事にやりがいを感じ、頑張っています。長く日本で働けるよう努力したいです」



ファン チョン ルアンさん
ファン チョン ルアンさん
レー ホアン ブーさん
レー ホアン ブーさん
グエン テー フィンさん
グエン テー フィンさん

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