大規模工場を始めとして、工業塗装の現場において大きな課題となっているのが脱炭素社会の対応だ。現状ではメーカー系塗装工場を中心に対策に取り組んでおり、中でも本格的な動きを見せているのが自動車産業だ。

自動車メーカーではカーボンニュートラル(CN)達成に向けた動きとして、日本塗装技術協会管轄に自動車塗装CN研究会を発足させた。国内の自動車メーカー8社が連携してCN達成に向けた技術開発を進めていく戦略だ。

CN研究会は「単独では達成し得ない大きな課題を抜本的に解決するために連携して活動する」との考え。協調する必要があるほど、塗装ラインにおける脱炭素化は困難との認識にある。

CN研究会では乾燥温度の低温化、塗装ブースレス(コンパクト化含む)、エネルギー置換、CFP(CO2試算方法の標準化)をテーマに挙げ、塗料メーカーや設備メーカーなど関連メーカーと連携し要素技術の研究に取り組んでいく。要素技術に関しては共同で研究を行って、その後は個社での製品開発に進む計画だ。

今後、CNに向けたCO2対策は工業塗装の現場でますます重要視されてくることが想定できる。自動車メーカーは自社工場だけにとどまらず、ティア1、ティア2にもCO2対策を求め、その動きは他産業も含めて波及的に広がっていくはずだ。そのため、対応技術は自動車メーカーなどの大規模工場だけでなく、段階的に広い層でニーズが高まってくる。

まず、塗料のアプローチとしては焼付温度の低温化技術がある。塗料メーカーでは低温化タイプの開発及び展開を積極的に進めており、ユーザーからのニーズも高まっている。他にも省工程タイプの開発が活発化してきた。下塗り+上塗りを1コートで仕上げることで塗装及び焼付の工程数を減らすことができる。その結果、省エネに寄与する上、省人化にもつながり人手不足に窮する現場のニーズに合致している。

一方、塗装機においては汎用分野でも近接塗装の動きが出てきた。自動ガンにおいて従来200~300mmほどだったガン距離を100mmほどの近接で塗装することで塗着効率向上による飛散減、更にはエア量を抑えることで省エネにつながる。

旭サナックやBinksジャパン(4月1日付でCFTランズバーグから社名変更)などが近接塗装機を開発し、汎用的に展開を行っている。

旭サナックは新開発した高塗着回転霧化静電自動ガン(ESA400)の展開として、現状は自動車部品を塗装するティア1層をメインターゲットに据える。近接塗装機の性能を最大限生かせる塗装設備や被塗物を対象に採用を重ねる戦略だ。

現場ノウハウを生かした連携

そんな中、埼玉県の塗装専業者である久保井塗装(窪井要社長)が小物プラスチック部品向けに適する高塗着塗装機を開発した。

これまで「塗着効率を上げる手法を常に考えてきた」(窪井社長)中で、高塗着を実現するエア霧化塗装機の開発に着手。経済産業省のGo-Tech事業を活用し、東京都立大学、明治機械製作所、武蔵塗料との共同開発で実現した。塗着効率は85%以上を達成しており、今年末をめどに実用化モデルの製品化を目指している。

近年工業塗装の現場に課せられる問題は複雑化し、課題が山積している。問題解決に向けた連携の重要性は増していくはずだ。

久保井塗装の塗装機開発のケースを見ても、現場ノウハウを生かす上で、塗料や機器・設備のカスタマイズは必要との判断であった。CN研究会の見解にあるように「単独では達成し得ない大きな課題」が工業塗装の現場に立ちはだかっているからだ。

ある塗装専業者では環境配慮に取り組むため溶剤から水性化への切り替え、更にCO2削減の観点から焼付乾燥から常温乾燥への切り替えを図った。しかし、生産性を考えたとき、2液タイプの水性塗料では、梱包時に傷がつかない程度に塗膜硬化するのに時間がかかり過ぎるとの検証結果から切り替えを断念したという。

塗装専業者の社長は「うちの設備に合った硬化条件をお願いしようとしても、対応してくれる塗料メーカーを探すのは難しい」と嘆く。塗料メーカーとしてはある程度の数量が確保できなければ、十分な対応がしにくいとの判断がうかがえる。

課題は環境配慮だけでなく、特に近年では人手不足対策が大きくなっている。対策法として、量産ラインであれば自動化・ロボット化を比較的進めやすい一方で、少量多品種を扱う現場ではそれらの導入の難易度は高い。

ただ、最近ではロボットティーチングの簡易化や生産管理システムの多様化といった技術開発が進み、導入に取り組む塗装専業者もいる。環境配慮にせよ人材対策にせよ、大きな成果を上げるには単独ではなく連携した解決策が重要となっている。


※ペイント&コーティングジャーナル2025年4月16日号工業用塗料・塗装特集より