建築用塗料・塗装をリードしてきた住宅の塗り替え市場が踊り場に差し掛かっている。この1、2年の急速な需要の冷え込みは、コロナ禍明けの変動要因だけでは片づけられない構造的な問題をはらんでいる。住宅塗装市場のこれまでと、これからを俯瞰した。
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「30年周期説」と呼ばれるものがある。30年を1つの周期に繁栄と衰退を交互に繰り返す様子を示した説で、歴史や経済など不思議とこのサイクルで回っていることが多いという。企業30年説なども、この部類かもしれない。
今から30年近く前の1990年代の後半、お茶の間に頻繁に流れていたテレビCMがある。当時、隆盛を誇っていた塗装リフォーム会社・ペイントハウスのCMである。「外壁を触って、手のひらに白い粉がついたら塗り替えのサイン」などと喧伝したテレビCMを大量に流し、「自宅の壁は塗り替えなければならないもの」との意識を消費者にすり込んだ。訪問販売による強引な営業は疑問視されたものの、戸建て住宅の塗り替え市場を明確に顕在化させた契機でもあった。
この市場に多くのプレイヤーが便乗した。
まず、それまで下請けに甘んじていた町場の小規模塗装店がこの市場に乗った。その頃から普及し始めたインターネットを活用し、一般の施主と直接つながる手段を得た。自社が元請けで受注するビジネスを始め、全国に広がった。この機運をうまく捉えた塗料メーカーが、アステックペイントだ。
また、モノが売れない時代に入り、家電量販店やホームセンターなどの大手小売業が、物販からサービスへの流れを加速、住宅塗り替え市場に参入した。
そして、2000年に施行された住宅品確法の流れで、2010年前後から大手ハウスメーカーが本格的に参入。延長保証を切り札に需要を喚起し、市場が更に膨らんだ。
このように、参入プレイヤーの増加に伴って成長してきた住宅の塗り替え市場に、急ブレーキが掛かっている。この1、2年の需要の減速だ。
コロナ禍中に塗り替えを行った家も多く、それらの先食いによる反動減、コロナ禍明けのレジャーなどへの消費の分散、物価高による大型消費の先送りなど、この1、2年の不調の要因は重なるものの、それらは、これから始まる市場縮小本番への序章に過ぎないかもしれない。
その先行きで予見できる大きなトピックが、サイディングの超長期耐久化だ。今や、30年、40年耐久のサイディングボードが出回り、長期優良住宅の広がりと連動して普及し始めた。
これらのサイディングは、期間中の塗り替えメンテナンスを想定していない。施主の世代交代期にあたる30年目、40年目に張り替えの大規模リフォームに誘導するのがボードメーカーやハウスメーカーの思惑だ。その流れが定着すれば、"外壁の塗り替え"という概念すらなくなる可能性がある。
そもそも、住宅の着工件数が下がり続ける中で、塗り替え予備軍の住宅が減少するという当たり前の現象が控えており、先行きはやはり厳しい。
住宅の塗り替え市場が繁栄して約30年。このままでは冒頭の「30年周期説」にまんまとハマってしまいかねない。少なくとも、外壁基材が超長期耐久化する中で、塗料の耐久・耐候性競争を続けていても意味がない。例えば、色による街並みづくりなど別の価値軸を打ち立て、「塗り替える意味」を創り出していくことが求められる。
※ペイント&コーティングジャーナル:2025年4月23日付建築塗料・塗装特集(春)より
HOME建築物 / インフラ住宅塗装、「30年周期説」回避へ向けて