時流・潮流 顧客基盤を活用、塗装専業からサービス拡充へ 

戸建て塗り替えを中心とする地場塗装店において、屋根材のカバー工法や給湯器の販売設置などサービスを拡充する動きが強まってきた。これまで塗装以外の付帯的な工事は、リフォーム会社や専門工事業者が担ってきた領域だが、これらを地場密着型の塗装店が内製化。塗り替え需要の低迷が続く中、塗装の周辺分野を取り込むことで活路を見出そうとしている。


約20年前、地域密着型の塗装店を対象にしたある塗料メーカーのセミナーで「住宅塗装の受注窓口の8割強を地域の塗装店が占め、残りをリフォーム会社、工務店、ハウスメーカーなどで分けている」との市場報告があった。地域塗装店の元請け化が成長に寄与するとの意味合いで述べられたものだが、大企業の資本力をもってしても寡占化が難しい市場であることを示した形だ。

現在もその根底は大きく変わっていない。家電量販店やホームセンターなど住宅塗り替えに参入する企業体は増えているが、今も件数ベースで見ると地域の塗装店が元請けとしての立ち位置を維持している。ただ、過去と異なるのは、塗装店同士の中で優劣がはっきりしてきたことである。

「地域1番店」を目指した塗装店は、ホームページやチラシの活用、ショールームの設置など、さまざまな策を講じ、地域での知名度向上に注力。ターゲットエリアのシェアアップから隣接地域に営業拠点を配備するドミナント戦略によって事業拡大に結びつけた。

しかし、コロナ禍の収束が局面を変えた。住宅塗り替え需要の冷え込みにより、それまで注力してきた受注競争からの方向転換が迫られている。

屋根材、太陽光パネルと連携

ここにきて顕著になってきた住宅塗装不況の要因を、巣籠もり消費で先食いした反動と捉え、回復を期待する見方がある一方で、「これ以上の回復は見込めない」との声も目立つ。物価の高騰が消費者の家計を圧迫し「不要不急のものとして塗装が後回しになっている」と消費動向の変化に警戒感が強まっている。

そこで打開策として活発化しているのが、クロスセルの展開。塗装で構築した顧客との関係を生かし、外構工事や屋根材のカバー、給湯器の設置など塗装以外の商品・サービスで施主のニーズを深掘りする動きが強まっている。

従来、それらの付帯的な工事は、各種専門業者への外注が一般的であったが、中には自社で商材を仕入れ施工する自社職対応を図る塗装店も出てきた。技能の多能工化を図り、店舗を構える安心感と対応力の早さを差別化に打って出る動きだ。

中でも屋根カバー工法は、塗装ができない際の代替工法として塗装店の扱いが増えている。経年劣化で脆弱化した住宅用化粧スレートの再塗装の危険性を考慮したものだが、工事単価アップの方策としても関心を高めている。

塗り替えの不振を工事品目の拡充でカバーする形だが、建材や機器を供給するメーカーにおいても塗装店との関係強化に意欲的だ。
石粒鋼板屋根材を展開するディートレーディングは、新築向けの減少が避けられないとして約10年前に改修市場にシフト。そのパートナーとして塗装店に着目し、関係構築を進めてきた。「既築住宅において専門工事業者の中で、塗装店が施主と最も深い関係を築いている」というのが理由。当初は見向きもされない時期が続いたが、前述のスレート再塗装の懸念が強まったことで引き合いが増加。改修市場での成長に弾みをつけている。

更に昨年、ディートレーディングと太陽光パネルメーカーの京セラが提携。ディートレーディングの顧客に太陽光パネルの提案を可能にする新サービスを始めた。施主にとっては、屋根工事と太陽光パネルの設置で足場コストを抑えられるのがメリットだ。

太陽光パネルにおいては、固定価格買取制度(FIT)の減額もあり、投資対効果を目的としたかつての需要は低下したが、昨今の光熱費の高騰により再び関心が浮上。蓄電池と併用した自家発電・自家消費が光熱費の削減、家庭BCPに寄与するとして普及拡大が予想されている。

特に今年4月から新築住宅を対象に太陽光パネルの設置を義務化した東京都の影響が大きい。大手住宅メーカーを対象に狭小住宅を対象から外すなど新築住宅の約5割程度の設置が進むと見られているが、既設住宅を対象にした補助金制度を実施し、新築、既築問わず太陽光パネルの普及を誘引している。

こうした行政の後押しもあり、パネルメーカー各社は太陽光パネルの初期費用を実質ゼロにするサブスクリプションサービス(定額料金)を実施し、施主の導入に対する負担軽減をアピールする。京セラにおいても太陽光パネルと蓄電システムのセットにより、10年契約の場合(東京都の例)、1~30年までのメリット総額は約315万円を超えると試算。契約期間後は無償譲渡になるため、余剰電力の売電が可能となり「屋根改修工事費用は十分に回収できる」と屋根工事と合わせた導入を訴求している。

ディートレーディングと京セラの協業においては、パネル、屋根材とも同等程度の耐久性を有している点が決め手となったが、京セラとしては、施主の選択肢を広げるために屋根塗装とのセット展開も強化していく考えで、新たに塗装店ネットワークとの協業も検討している。

住宅塗り替えの不振が塗装店のサービス拡充に弾みをつけた形だが、需要の受け皿として塗装店との協業にビジネスチャンスを見出している他業界の目線は興味深い。塗装業界としては塗装需要の減少が懸念されるが「外装リフォームの流動化が進む中、相対的に廉価な塗装の価値が高まると見ている」(塗装店経営者)との見方もある。塗装を基点とした業容拡大に成長余地を残している。



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