「元気とやる気が出る話題を提供してほしい」との講演依頼に応えたのは、日本ペイント、関西ペイント、大日本塗料の大手総合3社。3月中旬、日本塗料商業組合山陽・山陰ブロック(ブロック長・藤本隆之氏)は、ホテルグランヴィア広島でブロック研修会を開催した。登壇した3社は、CSR活動、企業投資、脱炭素化それぞれの切り口から業界活性化に向けた施策を語った。
展示会の併催企画などで複数の塗料メーカーが製品説明会で一堂に会する機会はあるが、社会情勢や需要動向の観点から事業施策が語られる機会は少ない。その中で、毎年春に研修会を開催する同会は、今年の講師として大手3社に白羽の矢を立てた。
ブロック長の藤本氏は「労働時間の減少、大企業を中心とした初任給の大幅な引き上げなど世情が大きく変化する中、我々塗料販売店は人材不足に苦しめられている。この難しい時代を乗り越えるためにも、まず自らの元気ややる気を引き出したいと考えた」と企画の趣旨を説明。当日は、岡山、広島、山口、鳥取、島根の各支部から例年を上回る約60名が参加した。
トップバッターとして口火を切ったのは日本ペイント。マーケティング本部の髙橋建氏と吉本理紗さんが登壇し、CSR活動として2017年にスタートした「HAPPY PAINTプロジェクト」の活動を紹介した。
同プロジェクトは、塗装イベント及びアーティスト支援を主体にした社会貢献事業で、壁画イベントの協賛や高校と連携した特別授業、行政・教育機関主催の塗装イベント支援を実施。途中、コロナ禍を受け活動停滞を余儀なくされたが、施設の美観と塗装体験を通じた交流が得られる同プロジェクトに教育機関や行政団体からの協力要請が増加している。これまで携わったプロジェクト数は160件、参加のべ人数は9,150人に及ぶ。
中でも塗装イベントにおいては、当該地域の塗料販売店と協業した活動を活発化。「以前はこちらから協力をお願いするケースが多かったが、今は塗料販売店様の方からイベントの案内を頂くケースが増えてきた」と髙橋氏。存在価値の向上や人材採用を見据えた、塗料販売店の社会活動に対する関心が高まっているという。
活動の意義について吉本さんは昨年、塗装イベントに参加した塗料販売店から寄せられたメッセージを紹介。「業務を離れてこれほど感動したことはありません」との感想を紹介し、地域交流がもたらす効果を伝えた。
また同社はイベントごとにホームページやメディアを通じて活動内容を掲載し、広報活動としての効果もアピール。参加者した塗料販売店に協力を求めた。
大日本塗料・塗料事業部門の徳田宏氏は「市場動向と環境配慮の広がり」をテーマに今後の塗料の価値向上策について語った。
徳田氏は、「1980年代までの経済優先の時代から徐々に変化し、現在は環境と社会の課題取り組みの方策として経済活動がある」と説明。国が進めるカーボンニュートラルや建築物のエネルギー使用を省エネと創エネで実質ネットゼロにするZEBにおける塗料の役割を述べた。
特にZEBにおいては、遮熱塗料と断熱塗料の有効性を指摘。「太陽光を反射し、建物内部への熱の侵入を抑える遮熱塗料と、外からの熱を遮断し室内の暖気を逃さない断熱性能により、建物のエネルギー消費を最小限に抑えることが可能」と説明。2024年上期の同社遮熱塗料の販売量が前年比で倍増し、「節電ムードを追い風に今後も需要が見込まれる」と今後の需要拡大に期待を示した。
最後の講演として、関西ペイント・工業用塗料本部の石井浩一郎氏が「ESG環境から紐解き、塗料・塗装対策を考える」と題して講演した。
冒頭に石井氏は「脱炭素化におけるゲームチェンジャーになってほしい」と強調。「過去最高となった2024年の名目GDP600兆円超えを牽引したのは企業投資」と述べ、「向こう10年間にわたり脱炭素化に向けた企業投資が活発化する」との見通しを示した。
その根拠として、国は官民合わせて10年間で150兆円の脱炭素化投資の実施を決定。内、20兆円は国が負担し、GX債権で資金調達を図る。更に2026年度には、年間CO2排出10万トン以上の企業に排出量取引を義務化する他、2028年度に企業のCO2排出に課金する炭素賦課金が導入される。
石井氏は環境規制の緩い国からの輸入品に関税を科す国境炭素税についても触れ、「国は脱炭素化で経済を回す方針。塗料のサプライチェーンにも相当な影響を及ぼすことが想定される。脱炭素化に対応しなければ塗料が売れなくなる」と危機感を示した。
その上で対策として明示したのは、塗料製造以上にCO2排出の多い塗装工程のCO2の削減。焼付塗料における低温化、省工程化とともに、「物性面で課題を残しているが、税制との兼ね合いで加速する可能性もある」と焼付塗料から常乾塗料へのシフトも方策の1つとして挙げた。
3社の講演を受け、参加者は概ね「普段聞けない話を聞くことができ非常に勉強になった」と評価。それぞれ施策は異なるが、いずれも社会情勢の変化に注視していることがうかがえる講演会となった。