外壁サイディングの超長期耐久化などの要因をはらみ、需要の減退が予測されている戸建て住宅の塗り替え市場。それに伴って激化する受注競争をいかに勝ち抜き、量の減少を補う工事の付加価値化をどのように図っていくか。多くの施工店に課せられた課題だ。それを先取りして実践している塗装店を取材した。
東京・目黒区のツボイ塗工は、代表の坪井邦夫氏(写真)が営業と施工を1人でこなす、文字通り"一人親方"の塗装店だ。しかも一般の施主からの注文が絶えない、"行列のできるスーパー一人親方"でもある。
1件1件の引き合いに対して、理に適った、施主の腑に落ちる仕様説明と、それを施工で忠実に実践するには人任せにできない。質の高い営業と施工を追求した結果、すべてを1人でこなす現在のスタイルにたどり着いた。
そんな坪井氏が十八番(おはこ)にしている塗装プランがある。関西ペイントの湿式外断熱材「Z-wall(ゼットウォール)」による外壁塗装プランだ。「メーカー標準仕様の膜厚5mmに対して、当店独自の工法でその倍の超厚膜を実現。断熱性に問題を抱えているお宅で抜群の効果を発揮し、『塗ったそばから暑さ、寒さがやわらぐ』と絶賛していただいている」看板メニューだ。
関西ペイントの湿式外断熱材「ゼットウォール」は、空気を含んだ樹脂バルーンが水性弾性塗料の中にリッチに配合された塗料で、標準仕様では2回の吹付塗装で5mmを超える厚膜を形成。それによる高い断熱性と結露抑制や遮音効果が特長で、北海道など気象環境の厳しい地域でロングセラーを続けている湿式外断熱材だ。
吹付塗装が標準仕様のこの材料をコテで施工するのが、坪井氏が生み出した工法。都心での施工が多いため吹付による飛散を避けたいのと、厚み=断熱効果の観点から、より膜厚を確保できるコテ作業に挑んだ。ランダムなテクスチャーを生み出すコテならではのデザイン性の高さもウリだ。
コテ作業が難しい粘度の材料に対し、「どれくらいの量を、どのタイミングで、どのように乗せれば材料が滑り落ちないか。中膿みしないのはどれくらいの厚みか。経験の積み重ねで施工方法を確立した」と坪井氏。この工法により、メーカー標準の倍の10mm前後の超厚膜を実現。それによる断熱効果は、「施工をしている私自身が驚きの連続」と目を見張る威力だ。
「この工法で初めて手掛けたのは、ハウスメーカーの初期のプレハブ住宅で、断熱性に劣っている上、アルミパネルの外壁なので外気の影響をもろに受けやすい。特に、冬の寒さが堪えるというのでゼットウォールを提案したところ、施工が決まった」と説明。
驚くのはそこからだ。まだ壁の半分も塗り終えていない段階で、『暖房の効きが全然違う!』と施主から喜びの報告が。「ゼットウォールを塗ったそばから、その壁に面した部屋の暖房の効きが良くなったとお客様がたいへん驚いておられ、この材料と超厚膜工法の威力を実感した」と振り返る。
また、別の物件ではこんなこともあった。ゼネコン系のハウスメーカーが建てたRC造の住宅で、西日が直射する部屋の暑さをなんとかしたいというリクエスト。「ただ、RCの外観を損ないたくない奥様の要望もあり、西日が当たっているご主人の部屋の外壁だけにゼットウォールを施工。このケースでもやはり、『冷房の効き方が以前と全く違う』とお客様が絶賛。壁の1面を塗っただけでも表れるこの工法の効果に、住宅塗装の別次元の可能性を感じた」と唸った。
コテによるゼットウォールの超厚膜断熱施工を始めたのは7年ほど前からで、これまでの実績は20件ほど。熱による問題を強く抱えた施主からのオーダーなので、件数は自体は多くないが、副次的な効果も見逃せないと言う。
「まずは差別化が鮮明な点。数社に相見積もりを取られたとしても、ここまで効果を打ち出せるのは当店だけだし、料金の違いを超えて発注していただける。当然、通常の塗装とは比較にならない付加価値の高い受注が実現。加えて、当店とお客様をマッチングするフィルターにもなる」と言及する。
ゼットウォール超厚膜工法を前面に打ち出すことでツボイ塗工の塗装へのこだわりぶりが伝わり、「断熱施工だけに限らず、真に確かな施工品質を求めているお客様とマッチングしやすい」とシナジー効果も生まれている。
坪井氏は、昨今の無機系塗料のトレンドに対して、「樹脂グレードの競争は飽和してきた。塗装でできる困りごと解決や、デザイン性で特別感を出すなど、これまでとは別の価値軸を備えないと生き残りが難しくなる」とし、厳しさを増す住宅の塗り替え市場に挑む。
HOME建築物 / インフラ塗装店訪問 スーパー一人親方が生んだ最強スペック