危険意識高め、労働災害を防ぐ 塗料製造向けVR製作

日本塗料工業会(会長:若月雄一郎氏)は長瀬産業(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:上島宏之氏)とTOPPAN(本社:東京都文京区、代表取締役社長:齊藤昌典氏)と共同で、塗料製造における労災削減を目指した「塗料業界向け労働災害体験VRコンテンツ」を製作、3月7日に東京塗料会館で記者発表を行った。VRコンテンツと専用VRゴーグルのセットを3月から販売開始した。価格は非公表。近年、塗料製造現場では重大労働災害が発生しており、日塗工は労災を未然に防ぐ施策としてVRコンテンツの普及を目指していく。

 


近年塗料業界において、作業の多様化や新たな作業方法の採用、機械化の進展の影響から、休業4日以上の労災死傷者数が増加傾向にあり、深刻な問題となっている。

日塗工の児島與志夫専務理事は「塗料の製造現場の無事故操業は品質の維持には極めて重要な目標。しかしながら残念な事故が継続して発生しており、見直しが必要ではないかとの議論が高まっていた」と説明する。

日塗工によると、日塗工正会員会社の労働災害の発生数はここ10年で100件強と横ばい状態にある。関連して、度数率(100万のべ労働時間当たりの労働災害による死傷者数)は、製造業や化学工業と比較して抑えられている状況であった。

しかし、日塗工正会員会社の最近3年連続で発生した重大労働災害により、労働損失日数は大幅に増加している現状があり、日塗工としても従来の安全活動の継続だけでなく新たな取り組みの必要性を感じていた。

そうしたとき長瀬産業からTOPPANのVR技術の紹介を受け、日塗工で検討の上、塗料製造現場にマッチした日塗工オリジナルVRコンテンツの開発に着手した。日塗工がコンテンツの監修、長瀬産業はコンテンツが入ったVRゴーグルの販売、TOPPANがコンテンツの製作を担っている。

児島専務理事は労災対策について「製造現場の安全対策は直接利益を生むものではないが、事業を継続するためには必要不可欠なもの」との見方を示し、危険への感受性を高める安全VRコンテンツの日塗工会員会社への展開を進めていく。

没入感で"自分ごと化"
「指挟み」「静電気」「巻き込まれ」

TOPPANは製造現場で起こりうる10コンテンツの労働災害が体感できる「安全道場VR」を販売しており、今回、塗料業界向けに3つのコンテンツが追加された形で販売される。

VR専用ゴーグルを使用し、塗料業界で直面する可能性の高い「ドラム缶指挟み」「静電気火災」「撹拌機巻き込まれ」の3つの危険な状況を仮想空間で体験できる。体験者の視野をモニターに表示することで集合研修などでも活用が可能。

通常、塗料製造の現場における安全対策としては座学や動画視聴といった方法が取られているが、「挟まれ・巻き込まれ事故や転落、有害物との接触といった塗料業界特有のリスクに対する実践的な学習や意識醸成の十分な効果が得られていなかった」(日塗工)と課題を残していた。

座学や動画視聴に比べてVRを活用することで従業員が没入感のある主観的な目線で労働災害を仮想体験でき、製造現場における危険性を"自分ごと化"し労災防止意識を高めることが期待できる。感受性を高めた危機体験を教育に取り込むことで、労災防止につなげていく狙いがある。

従業員に対して安全意識を高めるには"受け身"教育では限界があり、臨場感を持たせ主観的に労災を仮想体験できるVRに期待がかかる。労災を未然に防ぐ体制作りは労働環境の改善や生産性にも直結するため、塗料メーカーにとっても重要性が高まっている。

また、TOPPANは労働災害を体験するVR「安全道場VR」を展開する中で、数多くの産業向けで実績を重ねている。ただ、今回のように特定産業向けに特化したコンテンツの製作は初めての試みとなっている。

一方、マーケティングや販売を担う長瀬産業は、まずは日塗工会員への販売を進めていき、更にはインク業界など塗料製造現場と似たような危険な状況を持つ分野にも展開を見据えている。

今後、日塗工としては塗料業界特有のリスクに対応したコンテンツの拡充を進め、業界の安全向上に貢献することを目指していく方針だ。VRコンテンツを活用し安全な塗料製造現場の実現を支援していく。



日塗工・児島與志夫専務理事
日塗工・児島與志夫専務理事
VRを実演、自分視点で危機状況を体験できる
VRを実演、自分視点で危機状況を体験できる

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