特別寄稿 中国の新しいVOC規制と今後の動向

特別寄稿 中国の新しいVOC規制と今後の動向

日本塗装機械工業会 平野克己氏

中国のVOC規制は2016年1月からVOCを含む塗料に一律1kg当り1元の課税でスタートしたが、その後のpm2.5、オゾンなどの数値とスモッグ発生状況からの判断で、2020年3月に塗料のVOCの制限量を設置する国家標準(GB)が公布され、12月から実施された。この制限される塗料の範囲は自動車関係、木材塗装関係、建築関係、工業製品関係とほぼ産業界を網羅しており、しかも、更に細かく測定方法なども規定されている。このVOC制限量に収まっていない塗料の場合は塗料の設計方法からの見直しとなり、進出日本企業も製造、塗装に大きな影響を受ける。この10年近く中国のVOC指導を行ってきた経験から日本の対応を考えてみる。


1.VOC規制GBの規制の背景と経緯

中国の法体系は数千年の歴史を持ち、現在は国の基本法に地方が従うピラミッドの構造となっている。塗装の大気汚染に関しては、1987年に大気汚染防止法に施行されたが、実質的には2016年1月からの国家標準(GB)で溶剤塗料1kg当り10元(約160円)の課税が出され、それに基づき23省5自治国、4直轄市、2行政区でそれぞれ条例(DB)が出された。日本からの進出企業が最多の上海市では2016年10元、17年15元、18年20元と示された。このGBが出される背景は2010年頃からの都市部でのスモッグで、北京、重慶などは10m先も見えない時もあり、国際的な視点から急がされた。スモッグの要因は石炭、石油の大量消費に起因するが、工場からの排気ガスも当然着眼され、中国政府の環境保護部が都市間協力、工場見学など日本とも密接に情報収集に努めてきた。

その後、大気指標のpm2.5 やオゾンの数値に関心が移り、VOCがその原因物質とされ、この度の塗料のVOC限界量設定のGBが実施されることになった。

2.VOC規制方法の世界的流れ

塗装からのVOCの規制には、原材料での規制と工場排出口での規制の2通りがあり、欧米、日本では排出口での濃度規制が主であった。これは、排水処理でも同様だが、既に大量生産に入っている工場稼働を優先して、有害物質の処理装置で対応する形を取ったからである。

例えば塗装の場合、溶剤塗料を規制して、水性塗料、粉体塗料にした場合、大半の塗装ラインでは直ちに稼働が困難になる。産業と両立するためには、徐々に原材料を切り替えていく方法を取らざるを得なかった。

一方、中国では、工業化が始まったばかりのため、原材料を指定しても対応が取りやすく、効果が目に見える原材料規制へと動いている。

日本の場合は欧米の工業化の後追いのため、環境対策も欧米のいずれかの方策を参考にしてきたが、VOC法規制時の「自主的取り組み」は画期的な方策であった。

既に15年経過しているが、「自主的取り組み」での削減量が全体削減量に占める割合は少なく、未だ啓蒙活動を展開している状況である。

3.12月実施のGBの概要

2020年6月には塗料の用途を産業界の業種別に使用する塗料中の溶剤割合の上限を指定する国家標準(GB)数値一覧を示し、2020年12月から法規制となった。業種として、自動車(GB24409-2020)、木工製品(GB 18581-2020)、建築用(GB 18582-2020)、工業用製品(GB30981-2020)に分類され、内容は水性塗料、溶剤塗料の種類別、下塗りから上塗りまでの工程別に具体的に示され、さらに水分の測定方法なども記載され日本の法律にはない細かさである。各産業の種類別、工程別のVOC限界量のGBの一部を示す(図表)。このVOC量は各塗装工程で塗装する場合の希釈された状態であり、塗料自体のVOC含有量ではない。

自動車の場合では、塗料の種類、工程別に細かく制限しており、塗装技術の立場からはどのような根拠で設定したのか不明確である。

この制限量は塗装時点の値であり、塗料自体はもっと厳しい値となるが、各地方政府が具体的にどのような方策を取るかに注意が要る。このGBは輸入の場合も適用されるが、溶剤塗料の輸出入は危険物のためほとんど無い。

4.塗料・塗装への影響<

現在、日本の塗料メーカーは日本での生産量160万トン/年の2倍の350万トン/年の塗料を中国で生産しており、この制限量を超過している場合は塗料設計の見直しが必要となる。また、塗装機器販売の塗装機メーカーも現場での調整が必要となる。その反面、塗料、塗装方法が標準化されるため、個別ユーザー別の設計は減少するため、ビジネス面ではプラスに働くと推定される。

5.日本への影響と日本のVOC対策

中国は全ての分野で世界一を目指すため、ゼロから出発した環境分野でも先進国を追い越す方策を打ち出すと思われ、今回の全塗料のVOC制限値などは総量規制を目指す一環と思われる。

一方、日本では溶剤塗料の規制は自主的取り組みとして事業者に委ねられているが、このままでは中国から環境後進国と言われかねない。排出口での処理装置での処理はエネルギー的に問題であり、塗料自体の、粉体化、水性化を加速せざるを得ないが、残念ながらその開発は塗料メーカー次第である。日本全体として行政、学術界を巻き込んだ開発が望まれる。

6.今後の環境対策の動向

近年風水害が増加している中国は地球温暖化にも関心を示し、2020年9月には60年のカーボンゼロの宣言が示された。

塗装ラインは乾燥炉、塗装ブース空調などで大量のエネルギーを消費しており、いずれ着目されるであろう。塗料の焼付け温度の低温化、二液塗料化、UV化などが、塗装設備ではエネルギーの再利用、クローズド化などがテーマとして取り上げられる。VOC対策の歴史を見ても、生態環境部が総力を挙げて日本などの先進事例を調査し、法制化に進むと推定される。

世界中に大量の留学生、研究生を派遣しており、それらの情報を基にして、その他の環境問題に関しても常に先端を目指しており、その動向には注意が要る。



図表
図表

HOMENew Trend特別寄稿 中国の新しいVOC規制と今後の動向

ページの先頭へもどる