東大教授陣と革新的コーティング技術開発へ

「自動車のボディーの色を自在に変えられる」「外壁の塗料が吸収した熱エネルギーを電気に変える」など、そんな夢のような塗料が開発されるかもしれない。日本ペイントホールディングス(HD)と東京大学の産学協創プロジェクトが本格的に動き始めた。両者による社会連携講座「革新的コーティング技術の創生」が10月1日に開設。東大側20名以上の教授陣と日本ペイントHD50名以上の研究者がさまざまな領域で共同研究を進め、社会課題の解決に向けた塗料・コーティング技術の開発を目指す。喫緊の課題では、実際の新型コロナウイルスに対する可視光応答型光触媒塗料の効果の検証も始めた。塗料・コーティング技術の革新に日本の「知」のトップが集結、ダイナミックな産学連携が始まった。


両者は2020年5月18日、包括的な共同研究及び人材交流を高度なレベルで推進する産学協創協定を締結。その具体的な取り組みとして東京大学大学院工学系研究科に社会連携講座「革新的コーティング技術の創生」を10月1日付で開設した。11月24日、東京大学で同大の五神真総長(写真左)と日本ペイントHDの田中正明社長(同右)、共同研究を行う東大の特任教授らが出席して記者会見を開いた。

会見の席で五神総長は「(協定締結へ向けて協議が始まった)昨年12月に日本ペイントさんを訪問した折、我々の目に見える物、手に触れる物のほとんどは塗料やコーティング技術が使われていることを改めて実感し、その基盤としての塗料技術の重要性と可能性を再確認しました。塗料は人と物との接点に必ず存在するものです。塗料を制すれば、実にさまざまなことができるのではないか、物理と化学にまたがるこの融合領域に今こそ踏み込むタイミング」と講座開設の意義を強調。

日本ペイントHDの田中社長は、「社会課題の解決に資する革新的な塗料・コーティング技術開発の共通認識のもと、東京大学の先生方と当社の研究員の計80名以上がさまざまな角度から共同研究を始めています。新型コロナウイルスへの効果を始め、社会実装に向けた開発を加速させており、その成果を近い将来社会に還元できるものと確信しています。本講座を通じて社会課題を解決し得るイノベーションを創造し、彩り豊かで魅力あふれる持続型社会の実現に向け貢献していきたい」と意欲を示した。

開設した連携講座「革新的コーティング技術の創生」では、「スマート・リモート社会への貢献」「環境負荷低減・社会コスト抑制」「感染症リスク低減」の3つの方向で塗料・コーティング技術の研究開発を進める。IT、化学、熱工学、バイオ、医科学などスペシャリスト8名が特任教授として講座を主導する他、20名以上の東大の教員と多数の日本ペイントHDの技術・研究者が共同で研究開発を進める。将来的には大学院生などを想定し、次世代のコーティング技術開発に向けた高度な専門人材の育成も視野に入れる。協定期間は2020年から2025年までの5年間で、資金規模は10億円、追加資金も含め全額日本ペイントHDが拠出する。

未来社会へ向け塗料開発

記者会見では講座の代表教員を務める脇原徹特任教授が3つの研究領域の説明を行った。

「スマート/リモート社会へ貢献するコーティング技術」で考えられる例と示したのは、クルマのボディーの色を自在に変えられるような塗料技術。ボディーを塗り替えるのではなく、既に塗られている塗料に対して特定の波長の光を与えることで塗色を自在に変えられるような技術だ。TPOに合わせてボディーの色を変えられるなど、クルマの楽しみ方が大きく変わる。また、塗料にセンサー機能や通信機能を持たせることで、横断歩道の路面表示やガードレール、周辺の建物に塗られている塗料が歩行者を認知して周りの自動車に通知、交通事故を減らせる技術として可能性を示した。

「環境負荷低減・社会コスト抑制」の観点では、建物の外壁の塗料に紫外線や赤外線を選択的に吸収する機能を持たせ、遮熱効果でヒートアイランド化を抑制。吸収した熱エネルギーを電気エネルギーに変換して利用できるような研究にも取り組むと紹介。

更に、「感染症リスク低減に貢献するコーティング技術」では、同社の可視光応答型光触媒塗料に対して「実環境を想定した新型コロナウイルスへの効果検証を行うことを決定した」とし、大学院工学系研究科と医科学研究所の連携・共同体制で既に取り組んでいる。また、新型コロナウイルスにとどまらず未知のウイルス感染症対策も視野に入れた研究開発も行うなど、社会不安解消に塗料・コーティング技術を役立てる。

「人と物との接点には必ず塗料が存在し、その塗料を制すればさまざまなことが可能になる」と五神総長が言及したように、革新的な塗料やコーティング技術の創生に日本の「知」のトップが集結。業界では類を見ない、ダイナミックな産学連携が始まった。

田中社長の話

会見後に取材に応じた田中正明社長は、「私は技術部門も管掌していますが、業界の外から来た私にとって塗料技術は発見や驚きの連続で、まさに"Wonder"な世界。その話を昨年秋ごろに五神総長にしたところ興味を持って頂き、東大の先生方と当社にご来訪いただいたのが今回の産学連携の始まり。当社の技術陣とのディスカッションを通じて改めて塗料の可能性を確信していただき、革新的コーティング技術の創生を目指すことになった。感染症の拡大、環境問題、気候変動、自動車の変革など時代が大きく動いている今、社会課題の解決に資する塗料・コーティング技術の開発と革新は我々メーカーの責務であり、飛躍のチャンスでもある」と語った。



五神総長(左)と田中社長(右)
五神総長(左)と田中社長(右)

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