ユーザー座談会 職人社長が屋根用塗料を語る

雨風の影響を直接受ける屋根塗装は、施工前から注意しなければならない項目が多岐にわたる。立地環境や施工日の気象状況、屋根の形状・構造などによって洗浄、下地調整、塗装の各工程の段取りが大きく変わるためだ。そうした中で数ある屋根用塗料をどのように選択し、塗料にどのような性能を求めているのか。今回、現場に従事する職人経営者5人に集まってもらい屋根用塗料について話を聞いた。以下敬称略。(ペイント&コーティングジャーナル屋根用・遮熱塗料特集2021から)

参加者
□佐々木恒治さん(千葉・佐々木塗装代表):62歳、職人歴44年。好きな作業工程「養生」
□大野雅司さん(岐阜・大野塗装代表):53歳、職人歴32年。好きな作業工程「養生」
□山越達也さん(神奈川・山越塗装代表):52歳、職人歴32年。好きな作業工程「下地調整」
□上野孝司さん(福岡・上野塗装店代表):51歳、職人歴25年。好きな作業工程「塗り全般」
□金丸孝治さん(大阪・カネマル代表):39歳、職人歴20年。好きな作業工程「下地調整」
□司会:近藤亮吉(コーティングメディア)



■使用塗料について

――本日は現場終わりのお疲れのところ、座談会に参加頂きましてありがとうございます。今日は塗装のプロの視点から屋根用塗料について自由に語って頂きたいと思います。まずは初めに皆さんが屋根でメインに使っている上塗り塗料を教えてください」

大野「溶剤系フッ素樹脂塗料を金属、スレート双方で使っています。使用歴は10年近くになるでしょうか。鉄板(鋼板)とスレートの1回目の塗り替えの際は強溶剤系を使い、スレートの2回目以降の塗装の際は下地を侵す懸念があるため弱溶剤系が中心となっています」

山越「メインは弱溶剤系2液シリコン樹脂系です。メインのブランドは、強溶剤と弱溶剤の間にある製品との認識を持っています。使用歴は20~30年になりますかね。ただ板金の場合は下地の心配もあるため1液を使う場合もあります。弱溶剤2液を基本に現場で状況を見ながら材料を選ぶ感じです」

金丸「私は屋根用専業メーカーの製品を主に使っています。樹脂系はシリコン樹脂系ですが、当社はすべて上塗りにクリヤーをかけますので耐候性はかなり上がります。基本は弱溶剤系ですが、瓦やモニエル瓦の場合は強溶剤を使うケースもあります」

佐々木「今は無機系をメインにしています。その他は弱溶剤2液シリコンで、施工単価を抑える場合には最近発売された水系2液シリコンを使用しています。過去はシリコン遮熱塗料も使っていましたが、変色が著しかったため今は使用をやめています。水系塗料も過去に変色の問題がありましたが、今は問題なく使えています」

上野「私は皆さんのようにマニアックではありませんので、材料屋さんから勧められた製品を使っています。ただ当社のスタンスとして、お客さんには『屋根は長持ちしませんよ』と事前に伝えるようにしています。樹脂系では弱溶剤2液シリコンを最低ラインに他の塗料を試す感じです」

■遮熱塗料について

――傾向としては、溶剤系、樹脂では弱溶剤系2液シリコンが多く占めましたね。

大野「恐らくみんな長い経験の中で信頼できる製品が絞られてきていると思います」

――言い換えれば、それだけ失敗も経験しているということでしょうか。

大野「もちろんです」

――製品名の公表は差し控えますが、トラブル事例について聞かせていただけますか。

佐々木「遮熱塗料の初期の製品は、色飛びが激しかったです。わずか数年足らずで黒が赤茶になった製品がありました」

大野「確かに遮熱の黒は飛びやすい印象があります」

佐々木「遮熱は一般の屋根用塗料と比べて、顔料の耐候性が弱いイメージがあり、それ以来お客さんに遮熱塗料を勧めなくなりました」

金丸「確かにそうした問題があるのは私も承知しています。ただ、これからは遮熱塗料の顔料性能が高まっていくという話も耳にしています。遮熱の黒顔料がより黒味を増し、耐候性も向上すると聞いています。色によっては、一般屋根用塗料よりも耐候性が上がる可能性もあるみたいですので今後の製品開発に期待しています」

大野「色によって注意は必要ですが、遮熱塗料は、紫外線から基材を守る上でも有効だと考えています」

上野「遮熱塗料を含めて屋根塗装は根本的に長持ちするとは言えませんので、下地や周辺の状況を見ながら塗り回数を増やして対応しているのが現状です」

■塗料の耐久性について

――業界では、塗料メーカーの製品開発を含めて耐候性、耐久性を追求してきた経緯がありますが、この方向性は今後も変わらない普遍的価値なのでしょうか。樹脂グレードによる開発競争についてどう見ていますか。

上野「確かに飛び込みで施主にフッ素や無機を推奨する業者も多くいるわけですが、私としてはそうした流れに付き合わず、自分が良いと思った塗料を一工程でも多く塗ることを差別化にしたいと考えています。"長持ち"といってもどこまで持つかというのは、確かめようがありませんからね。塗料代もバカになりませんし」

――長く持てば良いというわけではないということですか。

上野「本当に持つのであれば良いと思うのですが、私もそこまで生きているとは限りません(笑)それよりも長くお客さんとお付き合いできる関係を重視しています」

金丸「私は塗料のグレード以前に、お客さんに次の塗装の適性時期を示してあげるのが良いと考えています。一括りで20年、30年持つというのではなく、『この家の形でこの築年数であれば、次の塗り替えまでに15年の耐候性を持たせましょう』というようなストーリー立てが重要だと考えています。確かに塗膜が長く持つに越したことはないですが、築年数や基材によっては次は塗れない可能性があります。また当社が重視していることに新築以上に綺麗にすることがあります。お客さんにも感動して頂けますし、単なる塗り替えにとどまらず、外構工事を含めた提案は価値があると思います」

――美観を価値にするということですね。

金丸「そうです。綺麗になるとお客さんも家の中をどんどん綺麗にしたいという心理が働くようです」

大野「外壁より屋根の方が傷みは早いため、長く持たせるためには、いかに中塗りの吸い込みを止めるかが重要だと思います。そうなると下塗り、プライマーの選定と塗り回数が重要になります。場合によっては下塗りを3回塗ることもあります」

――そもそも施工前に何年持たせたいというような考えはありますか。

大野「こちらから耐久年数を示すことはありません。だいたいお客さんの方から持たせたい年数を言ってくれます」

――施主の方にある程度、塗り替え年数に対するイメージがあるということですね。

大野「ありますね。築10年前後で訪販が営業に来ることも影響しているかもしれません。またハウスメーカーも10年点検に力を入れており、お客さんの気づきを喚起しているように思います」

――そうなると塗り替えで30年耐久というような話題にはならないということですか。

金丸「本気で実現を考えるなら構造を考慮する必要があります。しかし、塗装に限ったことではなく、一般住宅では定期的にメンテしてあげないと誰もわからないままいろいろな部分の傷みが進む可能性があります。部材同士の取り合いなどを考えると私個人としては、10~15年が適性スパンではないかと思います」

山越「どんな塗料もいずれは退色するものですが、それが建物に対して持たないということなのか、それとも持つということなのか曖昧な面があります。事実、屋根でチョーキングしても塗膜が剥がれなければ、許容される傾向があります。随分過去に水系アクリル樹脂塗料を塗った現場を見ましたが、塗膜の剥がれはなく、下地も出ていませんでした。こうした状況を見ると決して樹脂グレードと相関しない現実もあるわけです。私も大野さんと同じで下地への吸い込みをどれだけ抑えるかが耐久性に影響すると考えています」

――大野さんはフッ素樹脂塗料を標準スペックに入れていますが、耐久年数はどのように説明していますか。

大野「私としては15年持つというような説明はせず、言っても12~13年程度ですね。またそもそも"持つ"ということが、どうもお客様と我々プロではイメージが違うと感じています。そうした認識の差を埋めることが大切だと考えています」

――どういうことでしょう。

「私はチョーキングが発生したら"持っていない"という評価をしていますが、もしかしたら他の業者さんは剥がれないことを定義しているかもしれません」

――塗装業者の中でもそれぞれ考え方が違うわけですね。他の皆さんはいかがですか。

上野「お客さんには、手に塗料が付くようになったら(塗り替えを)考えてくださいと言っています。色については、元の色を示して説明しますが、チョーキングは塗り替えの目安になると考えています」

金丸「先ほどの樹脂グレードの話に戻りますが、私としては否定的な見方をしています。少なくともアクリルは、低グレードな樹脂ではないということです。それでは、どんな塗料が良いかというと、プロである業者の目とそれぞれの地域の環境や風土に適したものを選択するのが相応しいと考えます。またチョーキングに関しては、劣化の初期症状として伝え、そこからじっくり考えて、塗り替え時期を考えてもらうようにしています。チョーキングしたらすぐに塗装という提案はしません。重要なのは、下地の保護機能が失われる前に塗ることです。ある程度チョーキングが起こっている方が塗料の密着性も高まりますからね」

佐々木「お客さんもいろいろな方がいるので一概には言えませんが、確かに私たちの考えとずれがあるのは確かです。特に南面では、シリコンでも10年を待たずにチョーキングが始まることを伝えています。ただ表面が粉っぽくなっても塗膜があるため、すぐに塗り替えなければならないとは言っていません。艶が引けてくるのも塗り替えの目安になるのかもしれません」

■水系化について

――最後に屋根の水系化について皆さんの意見を聞かせください。

大野「いずれは屋根も水系化になるだろうと考えています。環境規制で消えていく樹脂系もあるかもしれませんしね。あるうちは溶剤系を使いますが、かつて多用していた吹付が減少したことを鑑みても、将来的には水系化が進むでしょう。これは業界というより社会の流れが牽引していくと見ています」

上野「過去に色飛びや艶引けの問題を経験してからは、屋根に水性塗料は使わなくなりました。あるうちは溶剤系を使っていくと思います。お客さんから怒られるのは嫌ですからね」

佐々木「皆さんとは逆ですが、意外と水性塗料に好印象を持っています。勾配の兼ね合いもありますが、一概に水性が悪いとは思っていません。値段も手頃ですし、下手な弱溶剤系よりは良いという感覚があります」

山越「これから水性化の流れは高まっていくと思いますが、下塗りに弱溶剤エポキシのような精度の良い水性シーラーが出てないことが、水性化を遅らせている背景にある気もします」

金丸「水系屋根用塗料に良いイメージはないですが、外壁用でも進んでいる水系2液までいくとだいぶ耐候性は上がってくると思います。ただ、2液タイプは正確な混合と攪拌を要しますので、作業者の技能に依存します。水系の多液化は性能を担保する上で1つの方向性だと思いますが、使いこなせない作業者を増やしてしまう可能性もあり、難しいですね」

――話は尽きないですが、ここで座談会を終わりたいと思います。皆さん、経験に基づいたリアルな話を聞かせて頂き、ありがとうございました。

※おことわり:本座談会での発言は、個人的見解に基づくもので公式見解を示すものではありません。



HOME建築物 / インフラユーザー座談会 職人社長が屋根用塗料を語る

ページの先頭へもどる