廃塗料の燃料ペレット化実現、循環システム構築へ

工業塗装会社のトコウ(本社・埼玉県入間市、社長・斗光健一氏)は、微生物の応用技術を持つ一般社団法人「INBOUND JAPAN微生物応用研究所=以下IBJ」(東京都あきる野市、主幹・宮崎利久氏)と共同で微生物分解による廃塗料の再資源化を実現した。ペレット化した廃塗料は燃料として再利用が可能で、同社としては工場で使う温風乾燥機や農業用温室ハウスの燃料利用を見込む。将来的には、塗料廃棄をゼロにする循環システムとして同業との協業を視野に入れる。


トコウは、量産品から特注品まで幅広く手掛ける工業塗装会社。全長100mの塗装ライン、大型固定炉、クリーンブースを擁し、金属焼付塗装、粉体塗装、木工塗装、水性塗装、特殊塗装、高品質塗装、抗菌塗装などの各種塗装に対応。最近は樹脂塗装も始め、業容の拡充を続けている。

そうした同社が廃塗料減量の取り組みを本格化したのは昨年秋。「少量多品種が多いこともあり当社では年間約3~5トンの塗料を廃棄しているが、廃塗料を処分する社員の姿を見て、なんとかしなければならないと思った」と斗光氏。高騰続けるコスト以上に負荷を高める現場環境が対策を後押しした。

そこで同社が始めたのが、未使用の在庫塗料を使用した塗料代無料サービス。一般的に顧客から依頼を受けた際、作業代と塗料代を合わせたものを塗装費として請求するが、在庫塗料を使った場合に限り塗料代を無料にするというもの。「作る責任、使う責任」を掲げるSDGsの理念にも合致するサービスとして実施している。

しかし量産品に対応するほど同一塗料(色)の在庫量がないため、多くは試作品などの一品塗装に限定される。「サービスとしては評価を頂いているが、量的な効果を得られるものではない」と大きな減量には至っていない。

そうした同社の取り組みを知り、共同開発を持ちかけたのがIBJの宮崎氏。宮崎氏は塗料を対象にした微生物研究の第一人者で、これまで自動車会社と共同で塗料カスの肥料化、塗料カスの固形燃料化に成功した実績を持つ。「トコウさんの取り組みを知って、これまで培った技術を役立てて頂きたいと考えた」との宮崎氏の提案に斗光氏が応諾し、廃塗料を再資源化する共同研究が始まった。

塗料廃棄ゼロへ

共同開発は昨年11月に開始し、今年2月にビーカー試験に成功。4月にトコウ工場にプラントを設置し、実用化にめどをつけ、廃塗料の再資源化システムの稼働が開始した。

これまで水性樹脂系塗料を対象に研究を続けてきた宮崎氏にとって、溶剤系塗料や廃シンナーは新たな開発領域となったが、石油由来品を分解する微生物と酵素剤を組み合わせることで分解に成功。「簡易な方法でなければ普及しない」(宮崎氏)と作業者の利便性を考慮し、廃塗料、廃シンナー、塗料スラッジをまとめて処理できる微生物製剤を開発した。「廃塗料と廃シンナーの濃度管理は必要だが、廃塗料においては溶剤系、水性、粉体などを混ぜても問題なく分解する」(宮崎氏)と話す。

処理プロセスは、廃塗料と微生物製剤をリアクター(反応釜)に注入するのみ。混合比は廃塗料20kgに対し、微生物製剤40kg。5分後に粉末状の燃料ペレット原料が完成する。

燃料ペレットとして使うには、含水率を落とすための作業が必要となるが、宮崎氏がもみ殻とブレンドした利用についてノウハウを有しており、当面は農業用温室ハウスに供給していく予定。農業分野ではもみ殻の廃棄処理がCO2の観点から課題となっており、バイオマス燃料として利用価値を高めている背景もある。

ただ、一方で斗光氏としては、自社工場内での完全循環システムを完成させたい考え。「工場で出た廃塗料を再資源化し、工場内で再利用することができれば、産廃処理で悩む多くの同業者の助けになる」とコメント。まずは温風乾燥機を念頭に用途を探索し、廃棄処理から再利用までの仕組みを構築していく考え。将来的には、微生物製剤の安定供給体制やサポート体制を構築し、同業の塗装会社に広げていく考えだ。



燃料ペレットの原料。含水率を調整し成型する。
燃料ペレットの原料。含水率を調整し成型する。

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