工業塗装の未来を語る

双方に共通するのは、異端性を恐れず独自の事業スタイルを追求している点。常に新たな価値を顧客に提供しようとする徹底した顧客視点が経営を支えている。蔓延するモノづくりの行き詰まり感は何によってもたらされているのか。塗装に明るい将来像は描けるのか。長野県でIU(工業系)ディーラーを展開するNCCの原田学社長と回転塗装ロボットを開発する塗装機器メーカーのタクボエンジニアリング・佐々木栄治社長が工業塗装の未来について語った。


――今、ものづくりの現場で何が起こっているのでしょうか。

佐々木氏「当社が創業して42年が経過しましたが、世の中の変化をたどってみると、いろいろなメーカーがモノづくりに行き詰まっている様子がうかがえます。その行き詰まった結果が昨今の大手メーカーにみられる問題を引き起こしたと言えます。そこには何十年も積み重ねてきた仕事の在り方と世界標準の考え方にずれが生じてきた気がしてなりません。決して間違っているとは思いませんが、マーケットが世界に移ったにも関わらず考え方を変えられなくなっているのは事実です。変われない会社がおかしな方向に行ってしまったということかもしれませんね」

原田氏「ナショナルブランドもそうですが、我々が取引させて頂いている中小企業も2極化が進んでいます。残念なのは息子さん(後継者)が戻ってきたにも関わらず廃業を決断する企業が多いという現実。意欲を失っている企業の根底にあるのは、将来に対する諦めです。下請けとして"今"に終始せざるを得ない状況に追い込まれ、未来に展望を描けず閉塞感を強くしています。逆に成長している企業は、新しい技術提案にも感度が高く、情報に対する飢えが高いことがうかがえます」

――世界の市場動向を含め、情報に対する感度の違いが気になります。

佐々木氏「今、世界が求めているのは、モノを作るために生じるすべてのコスト。いわゆる"モノづくりの総合エネルギー"に対する尺度です。機械化や自動化ありきではなく、人を入れて安ければそれでいいという考え方です。既に日本に塗装ロボットが上陸して38年が経過しましたが、以来ロボット塗装は何も進化していません。ロボットにガンを装着すればそれだけで最新鋭の設備だという認識が使う側にあったからです。当時はロボット塗装に見合う量の仕事もあり普及しましたが、コストに対するハードルが高くなる中、塗装方法もガンも進化を続けなければ市場の要求についていけなくなるのは当然のことです」

原田氏「当社は3年前から7,200名のお取引先様に月2回メールマガジンを配信していますが、詳しい話を聞きたいと反応するのは異業種企業が多いのが実情です。新しい技術がビジネスの種になり得るかという感度の高さを感じます。既存のお客様にもお役に立ちたいと情報発信に注力していますが、工夫が必要なのかもしれません」

――情報の価値化は難しいものがあります。むしろ時代の流れは直取引の流れを強くし、ディーラーの存在価値も問われています。

原田氏「かつて物流、与信、調色、情報がディーラーの4大機能として必要とされた時代もありましたが、いまや物流は高度化し、調色もメーカー自らがスピード調色を手掛け、情報はネット収集が一般化して多くのお客様に不便のないものになっています。従来の機能に依存しているだけでは、ディーラーが埋没していくことは避けられません。ただメーカーは常に開発テーマを求め、現場は新しい技術を求めています。そうした双方のニーズに介在し、お客様にベストを提案するディーラーとして機能するなら存在価値はまだまだ高められると考えていますが、直販もされているタクボさんではいかがですか」

佐々木氏「当社はかつてディーラー経由で製品を卸していた時期もありましたが、ある時から直取引形態にシフトチェンジしました。今は国内外問わず、すべてダイレクトで販売しています。その理由は、直取引をすることでユーザーが何を考えているか、何を開発しなければならないか。生の情報が得られるからです。ただ、本音をいえば、こうした情報収集や情報発信をメーカー単独で担うのは容易ではありません。情報を取るためにはコストがかかるからです。ディーラーが情報媒介としての機能を発揮してくれれば、再び連携を取るという選択肢もあり得ると考えています。その一方でお客様にとって商社からの情報はタダとの認識がありますが、これからは情報を有料化することもポイントかもしれません。お客様のためになることであれば、はっきりものをいう姿勢が大事になってくると思いますね」

――ディーラーは常に価格で商流から弾かれるという懸念があります。

原田氏「そうしたことが実際にないわけではありません。事実、お客様がコストダウンを進める際、NCCから買う理由がないと取引停止を打診されることがあります。当社の機能に価値がないと判断されてのことでしょうし、昔から取引していたという理由だけで取引を主張することはできません。当社としては、これまで充分稼がせて頂いたと明るく手を引くようにしています。負け惜しみではなく、塗料メーカーやお客様が(間に立つ)NCCはいらないと言っているところに良い商売はできないという信念があるからです。県内で最後発のIUディーラーというポジションから引きたくても引けない塗料メーカーがあることに対するアンチテーゼ(反骨心)ともいえますが、自分たちの既得権益を要求し続けるのは害悪でしかありません。本来、お客様がどこから買うかは自由です。だからこそ、ディーラーはディーラーとしての価値を追求し、お客様に必要とされる存在を目指していくしかないのです」
「またメーカーに対しても当社と手を組んだ方が楽だと思ってもらえる機能を増やしたいと考えています。例えば、当社が開発テーマに落とし込めるようなお客様の声を集めるプロになれば、メーカーの労力やコストが軽減できます。当社としては、誰かがやらなければいけない仕事を誰よりもうまくやる集団になることで、ビジネスは大きくなっていくものと考えています。一方でお客様に収めている商品よりも良い商品が出てきた場合は、積極的に置き換えを提案します。スペックインのために努力したメーカーやお客様にお叱りを受けることになりますが、お客様の技術向上やコスト改善に寄与するなら無視するわけにはいきません。情報を出さない状況を続ければ、後々お客様が不利益を被ることになり、当社にとってもお客様を失うことにつながります。お客様視点に立つということは経営の差別化と直結していると言えます」

――顧客視点を徹底することは、内外の戦いがあるということですね。

佐々木氏「我々もそしてユーザーも気づかなければならないのは、工業製品の世界は常に競争(戦争)をしているということです。競争は常に最新兵器(技術)を使うことが大前提にあり、古い技術に固執し続ければ負けるのは当然です。そのためにも、モノづくりの"最新技術"が何かを常に把握することが必要となり、塗料、塗装機器メーカーにとっても常に最新の情報を提案していくことが重要になってきます。またディーラーにおいてもそうした情報をお客様に伝えることが重要です」

原田氏「自己完結できる大手とは異なり、中小零細の多くのお客様はきちんとした研修などを受けることなく見様見真似で仕事についているのが実状です。当社は一流企業レベルの先生にはなれないかもしれませんが、お客様に不足している機能を補うサポート役に徹したいと考えています。そのため現在、塗装プロセスや材料の減容化、歩留まり向上、ゴミブツ解消などの可視化技術に注力しています。課題を"見える化"し、対策を繰り返すことでお客様は自ら改革、改善を行うことができるようになります。お客様の視点に立てば、できることはたくさんあります」



NCC・原田学氏×タクボエンジニアリング・佐々木栄治氏
NCC・原田学氏×タクボエンジニアリング・佐々木栄治氏

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