地域を問わない積極的なM&Aで注目を集める塗料ディーラーの榊原(本社・愛知県半田市、社長・榊原卓哉氏)。同社が目指すのは、日本一、事業拠点数の多い塗料販売店。10年後には上場も視野に入れる。M&Aからどのような塗料販売業の成長像を描いているのか。榊原社長に話を聞いた。
――5年間で6社の買収と積極策が目立ちます。
「2020年3月に豊橋市(2021年5月豊川市へ移転)に拠点を持つ兵道(現・同社豊川支店)の全株式取得を皮切りに、2023年3月に新潟県新潟市の近藤塗料(現・同社新潟支社)、2024年10月に愛知県豊橋市の三愛ケミカル、11月に愛知県名古屋市の名塗工業、12月に福島県福島市の日光塗料、2025年5月に愛知県名古屋市のタカラの全株式を取得しました。兵道、近藤塗料、日光塗料は同じ建築系塗料販売店、三愛ケミカルは薬品卸、名塗工業とタカラは焼付塗装会社です」
――業種、エリアも多彩ですね。
「いずれも明確なシナジーを見込んでいます。豊川市に拠点を持つ旧兵道は、半田市、刈谷市に続く県内拠点の拡充に寄与し、薬品や溶剤などを扱う三愛ケミカルは当社との協業によって販路拡大が期待されます。名塗工業とタカラは受注量の拡大により当社の塗料販売に貢献してくれています」
――拠点拡充と塗料ユーザーの取り込みで経営の安定化を図る考えですね。事業エリアが離れた旧近藤塗料、日光塗料については、どのようなシナジーを見出したのですか。
「距離はあまり気にしていません。むしろ地元密着型でありながらきめ細やかなサービスが足りていないと感じました。そこで私たちの持つノウハウを共有すれば、必ず成長ができるという確信がありました」
――それぞれ潜在能力に可能性を見出したということですね。
「はい、そうです。例えば近藤塗料は、日本M&Aセンターの紹介による案件ですが、売上高が県下ナンバーワンということもあり、数十社の競合があったと聞いています。そこで私は当時の近藤社長に『新潟県で圧倒的なナンバーワンになる』というビジョンを伝えました。買収競合の中で当社が最も事業規模が小さかったようですが、私の心意気を買ってくれたのかもしれません」
――ただ株式を取得したからといっても難しさはあるように思います。企業風土も違います。
「そうですね。当時、近藤塗料の社員は11名でしたが、ほとんどが45歳以上で私より年配です。60歳を越える勤続30年、35年を超えたベテラン社員も占める中、私のような若造が来れば『なんだお前は!』となるのは当然のことです」
――リアルな現実ですね。
「建築汎用の店はどこも個人事業主の集まりみたいなものだと思いますが、近藤塗料も例外ではありませんでした。社内の情報共有が少なく、顧客のこと、仕事のやり方などお互いに口を出さない、いわば"不可侵条約"を結んでいるような感じです(笑)」
――どのようにアプローチをするのですか。反発もありそうです。
「まずは、従来の縦割り組織に横串を入れ、情報共有ができる組織に変える仕事から始まります。ただ、すぐに新しいことを始めることはしません。いきなりやれば、抵抗しか生まれないからです。朝礼実施や日報制度にしてもその意義や価値を伝えながら、実施する数カ月前から開始時期を伝えるようにしています」
――事前の告知と準備期間を大事にするわけですね。
「M&Aは、特に前経営者、社員に対する十分な配慮が重要です。経営面では初年度の黒字化を必達目標に掲げつつ、一番初めに社員の賃金アップを実施します。前経営者の処遇も含め、一緒に仕事をする仲間として、細かな配慮や気遣いがきちんとできるかどうかがM&Aを成功させる鍵と考えています」
――細かさを重視している点は、事業も同じですね。
「そうです。例えば当社では、朝礼時に今日1日の行動をすべて確定した状態で報告するようにしています。もちろん急な依頼に対応することはありますが、行き当たりばったりで動くのではなく、毎日を能動的、計画的に進めることを重視しています。顧客の変化やニーズに細かく対応できれば、事業は自ずと伸びていくものです」
――塗料販売の"芯"とも言えますね。榊原社長自身のビジョンは。
「経営者としてチャレンジを続けたいですね。社員には、10年後にグループ売上高を現在の26億円から50億円に引き上げ、まずは東京プロマーケットに上場すること。また20年後の創業100周年に200人の社員とともに売上高100億円にする計画を伝えました」
――なぜ上場なのですか。
「社員の待遇が明らかに良くなるからです。私としては、営業職42歳、700万円の給与水準を実施すべき指標と捉えており、これが実現できれば、お膝元の超優良企業であるトヨタ自動車とも人材争奪戦で十分に戦えます」
――M&Aが塗料販売店にもたらす効果は大きいということですね。
「そうです。当社だけでなく、私のこうした考え方を全国の塗料販売店が進めて頂ければ、塗料販売店経営は改善し、結果的にお客様やメーカーに喜んでもらえます。また当社がこだわるのは売上規模ではなく、事業拠点数です。塗料販売店は"すぐ近く"にないと本当の意味での意義は発揮できません。日本で最も店舗数が多い塗料販売店を目指すのもそのためです。事業継承の相談、また事業は続けたいが経営から退きたい経営者がいらっしゃいましたら私に声をかけてください」
――ありがとうございました。


