基礎統計調査実施へ、実態把握と改善に期待

今年5月、損保大手4社に対し、指数対応単価(工賃)の値上げを目的とする団体協約を締結した日本自動車車体整備協同組合連合会(日車協連)。より透明性、公平性を担保した工賃交渉には、土台となるデータが必要として来年にも全国の車体整備業者を対象に基礎統計調査を実施する。検討会には国、車体整備業界、損保業界、自動車メーカー、システムベンダーらが参画。同会としては「設備投資を工賃に反映させていきたい」(泰楽氏)と調査結果を交渉ツールに活用したい考えだ。団体交渉の矢面に立つ泰楽氏に話を聞いた。

 


――まずは損保各社との団体交渉の現状について聞かせてください。
「今春、大手損保4社(東京海上、三井住友、損保ジャパン、あいおいニッセイ)と団体協約を締結しました。継続交渉としてこれから来年度に向けた交渉が始まるところが、課題も明らかになってきました」

――どういうことでしょうか。
「車体整備業の実態を把握するための具体的なデータが必要になっています。団体交渉では企業物価指数や消費者物価指数、整備白書などを参考データとしていますが、車体整備業の実態を汲んだものにはなっていません。特に車体整備は自動車整備と異なり、設備にかかる費用がまるで違います。設備原価がかかっているにも関わらず、価格転嫁ができていない状況が経営に影を落としています」

――単に物価や人件費の高騰が問題ではないということですね。
「そうです。ただ、我々の現状を説明するだけでは、先方の理解は得られません。そこで今、国交省の協力を得て、車体整備に特化した基礎統計データの集計、いわゆる"車体整備白書"を作成する計画です」

――統計調査で実態を明らかにするということですね。
「今年、基礎統計調査のための検討会が発足し、日車協連の他、国交省、金融庁、BSサミット、日本自動車車体整備協同組合、日本自動車工業会、日本自動車整備振興会連合会、損保協会、金融庁、全国技術アジャスター協会、自研センター、あとはソフトを扱うシステムベンダーから3社が参画しています」

――業界の全体像を把握する上で意義ある取り組みですね。団体交渉は優位に働くのでしょうか。
「当会としては、基礎統計調査を交渉ツールに活用したいと考えています。そのためにも基礎統計調査を根拠のあるデータに構築することが重要です」

――今後も指数対応単価の上昇を協議する流れになるのでしょうか。
「我々は継続的な引き上げを望んでいますが、それは交渉事なので断言はできません。ただ良くも悪くも10月の最低労働賃金の上昇は、大きなインパクトと受け止めています」

――全国平均1,055円から1,121円に引き上げられましたね。
「当然、物価高騰を背景に値上げを前提とした交渉になると思いますが、我々としては設備原価の反映をポイントに据えています。車体整備業者においては、環境対応、法令遵守、人材採用を図る上で設備投資なくては成り立ちません。その設備原価を工賃に反映して頂きたいと考えています」

――説得力を持たせるためにも調査には高い回答率が期待されますね。
「その通りです。そのため当会でもどうしたら高い回答率が得られるか、執行部で協議しています。重要なのは、我々自らが置かれた状況を認識し、改善につなげる行動力です。団体交渉の甲斐もあり、工賃は上がりましたが、元々"発射台"が低いところから始まっていることを認識しなければなりません。整備インフラを堅持するためにも車体整備業界全体で改善に挑む意欲が必要です」

――工賃の引き上げによる改善効果も気になりますね。
「その点については、我々も調査が必要と認識しています。基礎統計調査は、決して団体交渉のツールだけではなく、車体整備業の実態を明らかにすることに意義があります」

――業界としてのまとまりが必要ということですね。今後の予定は。
「令和8年に集計した統計調査は、令和9年度分の交渉に活用したいと考えていますが、今秋から始まる令和8年度分の妥結には間に合いません。そこで日車協連に限り、基礎統計調査を前倒しで実施し、年内に結果をまとめる予定にしています」

――最後に伝えたいことは。
「先般の団体交渉では、工賃引き上げとともに部品代の1%(上限あり)を産廃費用として損保が支払いを認めることになりました。大手損保に限らず、ダイレクト系も同様の方針を示しており、これは大きな前進です。工場側からも1%ルールができたことを損保に積極的にアピールして頂きたいと思います。ただ、1%が適正か否かについては議論の余地を残しており、更に損保と協議を深めたいと思っています」

――ありがとうございました。



泰楽秀一氏
泰楽秀一氏

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