さてここで分散をしばらく離れて、付着性・密着性に話題を変えたい。コーティング液も基材にくっつかないと膜としては機能しない。もちろん遊離膜を求めるフィルムなど、積極的に剥したいのなら話は別である。付着・密着の前に濡れることが必要であるが、濡れに関しては後に扱うこととする。

塗料やインキなどではがれないようにするには、以下のような方法がとられる。

-下地を適度な粗さで研磨し、表面積を大きくし付着面積を確保する。

-油汚れなどを落とし清浄な面にする。

-プラズマ処理などにより表面に極性を持たせることで、付着点を増やす。

-シリコンカップリング剤などを添加し、下地との相互作用を増やす。

-コーティング液の溶剤により液を基材に浸透させ、境界面をつくらないようにする。

-コーティング液の硬化時の収縮応力を高めないように配合設計し、付着力に比べて凝集力が高まりすぎないようにする。

ここでは添加剤による付着性・密着性向上の手法を紹介する。まず下地が金属の場合を考えよう。金属表面は空気中の酸素と水により酸化した金属酸化物が形成されている。この金属酸化物を無機顔料と同様にみなせば、顔料分散剤の考えを適用することができる。

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すなわち、金属酸化物に対して吸着しやすい基を持ち、合わせてコーティング液のバインダーと相溶しやすい鎖を持つ構造ならば、金属酸化物とコーティング液の仲立ちをすることができる。図10に付着性付与剤の構造要素を模式的に示す。接着性基としては、例えばカルボキシル基、三級アミン、またその塩構造などが用いられる。骨格あるいは相溶性鎖は、ポリアクリレート・ポリウレタン・ポリエーテル・ポリエステルなどを挙げることができる。バインダーとの反応性基であるが、水酸基がメラミンやウレタン、エポキシバインダーとの架橋を念頭に導入されている。もちろん反応性基は必須ではない。

上記の構造要素(接着性基、相溶性鎖、場合により反応性基)を持ちながら、分子形状は様々なものが可能である。図11に付着性付与剤の構造例を示す。

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ビックケミー社では5品の付着性付与剤を上市している(2016年7月時点)。溶剤系用・水系用の適用区分、接着性基の種類、反応性基の有無などの違いがある。溶剤系用ではBYK-4510、BYK-4512、水系用ではBYK-4513、溶剤系・水系両方に使えるものとしてBYK-4500、BYK4509である。

それでは順に特性・試験結果を紹介していこう。まず溶剤系用BYK-4510の各種樹脂系での初期碁盤目付着結果を図12に示す。無処理のアルミ板へのアクリルメラミン、アルキドメラミン、2液アクリルウレタン系塗料で試験をしているが、どの系をとっても初期付着性の向上が確認できる。

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なおBYK-4510はカルボキシル基(COOH)と水酸基( OH)を有し、アルミ基材への接着性とバインダーとの架橋性を確保している。さらに塩水噴霧試験(下塗/上塗の総合塗膜、750時間)の結果を見てみよう。付着性付与剤の有効成分で全体に対して1%添加している。

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カット部のはがれ幅に大きな違いはみられない。添加剤無では、一般面の円形のはがれ(ブリスター部など)が見られるが、付着性付与剤添加系では見られず、向上効果が確認できる。

また可撓性を考慮し、カッピング試験も実施している。塗板を裏から球で押し出し、さらに沸騰水に一時間浸漬し、硬化塗膜の追随性を評価する(図14参照)。添加剤無は碁盤目を切っても、切らなくてもともに剥離が著しい。それに対して、添加剤により大幅に付着性の向上が見られる。なかでもBYK-4512はほとんど剥離が見られない。

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上記はメラミン架橋系での事例であるが、水性エポキシでも適する添加剤が開発されている。2液水性エポキシの耐塩水噴霧試験480時間後の実験例を示す(図15参照)。コントロールがカット部周辺から錆が広がっているのに対して、BYK®-4513はカット部近辺も一般面も錆の発生はみられない。付着性が上がることが錆抑制にもつながっている。

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なおエポキシのゲル化などはなく、貯蔵安定性にも優れる(図15参照)。

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一方、塗り替えの場合はどうであろうか。もともとある旧塗膜が油性で、塗り替えが水性であると、溶剤の浸透も期待できない。ただ旧塗膜の表面が劣化して、顔料が露出していれば、この顔料を足掛かりにして付着力を確保できる。上に塗る塗料に露出顔料への吸着性を持つ添加剤を加え、旧塗膜との間の仲立ちを期する考えである(図17参照)。

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これまで紹介した付着性付与剤を表1に掲示する。

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付着力や界面破壊・凝集破壊などの解析については、多くの報文や書籍が出されているので参考にしていただきたい。ここでは積極的に付着性・密着性を付与する添加剤技術について紹介した。もちろん膜の凝集力あるいは内部応力が高ければ、膜ははがれやすくなる。ゆえに内部応力の緩和や低減が、付着性の向上につながる。これについては別の機会に譲りたい。