封止材や放熱材料、導電性インキ・絶縁インキ、リチウムイオン電池・燃料電池など、要素技術として粒子の分散・沈降防止、塗布性などの重要性が高まっている。本項では分散剤とレオロジーコントロール剤を中心に新しい材料を紹介する。

4.1湿潤分散剤の概要

まず金属酸化物などいわゆる無機粒子の分散安定化は、凝集と沈降が大きな課題である。製造・塗布プロセスのなかで、分散ペースト・スラリーでの段階と、塗布にかかわる段階のふたつの局面において、粘弾性を考慮しないといけない。一つひとつの粒子を脱凝集の状態にすると、ニュートン流動あるいはそれに近い流動状態になるので、比重の重い粒子は沈降しやすくなる。沈降防止には特別にレオロジーコントロール剤を組み合わせる必要がある。別のアプローチは分散性と沈降防止の機能を併せ持つ分散剤(コントロール凝集タイプの分散剤)を分散時から添加する手法である。もちろん脱凝集の状態にする方法は、粘性が下がり粒子の配合量・充填量を増やすことができるメリットがある。

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では脱凝集、あるいはコントロール凝集をもたらす分散剤の構造につて、どのようなものがあるかを述べる。分散剤のモデル構造を図1に示す。通常知られているのは、くし形分散剤と呼ばれる構造であろう。1980年代にポリウレタン骨格のものが開発され品種も多い。1990年代後半には、アクリル系のABブロック構造の分散剤が、より微分散を実現するものとして上市された。さらに超分岐・ハイパーブランチの立体構造を有する分散剤も登場してきている。これら高分子量の分散剤とは別に、比較的分子量の低い直鎖状の分散剤も、無機粒子の分散用に開発されてきた。これらはすべて、粒子の凝集を防止し、結果的に分散粘度も下げる脱凝集タイプの分散剤である。一方、コントロール凝集と呼ばれるタイプは、粒子を一個づつバラバラに分散・安定化するが、分散剤同士でネットワークを形成し、粒子の沈降を抑制する機能を有する分散剤である。

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次にどのようなケミストリー・思想で分散剤が設計されているのか、図2をご覧いただきたい。分散剤はマトリクス中で粒子を分散安定化するのであるから、粒子の特性を反映した構造、マトリクスの特性を考慮した構造が設計上の二つの重要ポイントである。粒子の特性、特に表面特性は分散剤の吸着基の選定に生かされ、マトリクスとの関係は、樹脂相溶性鎖の構造・極性に影響する。

水系ではカルボキシル基や中和したカルボン酸塩などが吸着基として用いられ、ポリカルボン酸のアミン塩などは金属酸化物の分散に多く使われている。COO-の部分は静電気的反発による安定化機能も担う。溶剤系では酸素原子を介しての、金属―酸素―リンとの相互作用から、リン酸基を吸着基として有する分散剤が、無機粒子に極めて有効である。またカウンターイオンで中和した構造も、酸性・塩基性の両方を示す粒子表面にたいして、優れた吸着性を示す。

粒子表面が極性の低い有機顔料やカーボン系粒子では、アミノ基や芳香族リングのようにパイ電子をもつ構造が吸着基として利用される。カーボン系粒子はストラクチャー・極性・粒子径など、複雑な特性を有する粒子で、一様の吸着基では分散安定性を確保できない。

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金属酸化物など無機粒子の製造(焼結)や、分散体の塗布成膜後の熱負荷を伴うプロセスでは、有機物である分散剤の熱分解性や加熱残差への配慮が求められる。図3は化学構造の異なる分散剤の空気中での熱減量を示している。構造や雰囲気(空気中・還元雰囲気下他)や温度に強く依存する。なお通常の塗装・印刷工程では、たとえばカラーフィルターの塗工・乾燥230℃を3回通す、焼付け塗料160℃で20分保持などの条件下では問題なく使われていることを記しておく。

4.2セパレータコーティングや放熱材料のなど金属酸化物の分散

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金属酸化物の分散の例として、ナノアルミナの水系での分散の例を図4に示す。図左から脱凝集タイプのBYK-154と同DISPERBYK-199、コントロール凝集タイプのANTI-TERRA250添加系である。脱凝集のタイプは写真のように、沈降分離がみられる。それに対してコントロール凝集タイプの沈降は少ない。脱凝集タイプの分散剤を用いる場合には、のちに紹介するレオロジーコントロール剤との併用が必要となる。なお溶剤系でもコントロール凝集のタイプの分散剤としてANTI-TERRA204、BYK-P104、BYK-P105などがあげられる。

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水系での脱凝集・分散安定化には静電気的反発及び立体障害、両方の安定化メカニズムが有効である。図4で紹介した脱凝集タイプの分散剤の構造を図5に示す。ポリカルボン酸の塩は電気的反発で凝集を防止する。このタイプは夾雑イオンの存在などの影響を受けやすい。一方、静電気的反発に加えて、親水性側鎖が系中に伸長し立体障害層を形成するのがDISPERBYK-199である。親水性鎖一種類だけでなく、疎水性鎖あるいは極性の異なる側鎖を併せ持つタイプも多い。金属粒子・セラミックス粉などの分散では、図1に挙げた直鎖状タイプ、くし形タイプ、ABブロックなど選択できる。

4.3導電材などカーボン系粒子の分散

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次に金属酸化物ではなく、導電カーボン、グラファイト、グラフェン、カーボンナノチューブなどカーボン系粒子の分散について紹介する。図6にリチウムイオン電池での分散例を載せた。分散剤を用いない系ではカーボンの凝集体が集合し、電極スラリー中で活仏質とカーボンが偏在している。それに対して分散剤(たとえばDISPERBYK-2013等)を添加した系ではスラリー中で両粒子が均一に分布している。これは図7で模式化しているように、電子の流れる経路の確保という点で有利になる。なお、分散剤がカーボン表面を覆うことによる電気抵抗の増加という懸念であるが、分散剤種と添加量による。BYKでは分散状態と電気特性は常に評価しており、データについてはお問い合わせ願いたい。

4.4沈降を抑制し、塗布性に影響を与えるレオロジーコントロール剤

4.2で脱凝集タイプの分散剤では沈降が問題となることを見た。スラリーを貯蔵中の粒子の沈降防止には、レオロジーコントロール剤の併用が必要である。あわせてレオロジーコントロール剤は塗布時のタレ防止・厚膜化、パターンの保持に有効である。

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スラリー等液状物の流動特性あるいは粘弾性は分かりにくい概念である。図8に身近にある物と粘弾性について例を載せた。オシレーション等粘弾性を測定できる機器を用いると、貯蔵弾性率G' や損失弾性率G''という数字が示される。貯蔵弾性率の大きい物として建築構造物などを思い浮かべてほしい。一方、損失弾性率の大きな物としては、油などがあげられる。粒子の沈降防止には、液が弾性を有していることが必要である。固体ほどの弾性になってしまっては、塗布もできない。一方、粘度が高いだけでは、いずれ重力によりパターンが崩れたり、垂れて膜が流れてしまう。またスクリーン印刷では弾性を有しないと、印刷できないが、インクジェットでは粘性も弾性も低いことが必要である。このように粘弾性の制御により塗布性とのバランスを図る。

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図9に表的なレオロジーコントロール剤添加系の粘性挙動を示した。液を強く攪拌し、いったん攪拌を停止し、その後低ずり速度で粘度を測定することで、粘性の回復を見ている。比較的粘性回復に時間のかかるOPTIGEL®とBYK®-420ES、回復の速いLAPONITE®とBYK®-425。このうち BYK®-420ESと BYK®-425は有機系材料であり、OPTIGEL®とLAPONITE®は無機系材料で、使用環境等に応じて選択ができる。なお上記は水系用であるが、非水系・溶剤系用のグレードも品ぞろえしている。

4.5層状無機粒子の親水性・導電性・ガスバリヤー性 

前項で紹介した層状無機粒子は、液相で働くレオロジーコントロール機能のほかにも、ユニークな特性を有する。塗布した後の膜あるいは固相で発揮される機能として、ガスバリヤー効果、親水性付与、帯電防止機能、難燃性付与などがあげられる。主構造はケイ酸塩で、天然に算出したものを精製したタイプ、無機薬品から合成したタイプがある。

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ケイ酸塩はケイ素と酸素が八面体や四面体を単位としてナトリウム・リチウム・マグネシウムなどの金属元素を取り込んで、層状に積み重なっている(図10参照)。ユニークなのは円盤状の周辺部がプラス、上下の面の部分がマイナスと、電気的に偏りがあることである。これにより液中では粒子間でネットワークを形成し、レオロジーコントロール機能を発揮する。ネットワーク形成すなわちカードハウス構造は図10右下にOPTIGEL単独膜の電子顕微鏡写真で確認していただきたい。なお、円盤状のケイ酸塩に、棒状のサポナイトを混合したGARAMITE®は、系への分散混合が容易で、効果を得やすい自己活性グレードである。

リチウムイオン電池ではCMC(カルボキシメチルセルロース)が電極スラリーに用いられるが、LAPONITEを併用すると、粘度がより高くなる。これは所定の粘度にするのに、少ないCMC/LAPONITE量で済むことになり、これにより粒子濃度を上げることができる。

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またCMC/LAPONITE併用系は、集電体への接着性が高くなることを確認している(図11参照)。これはCMC分子 のCOO-と別のCMC分子のCOO-のあいだに、周辺部が正に分極したLAPONITE粒子が介在し、力がかかっても動きの自由度があることから、内部応力を緩和すると考えられる(図12参照)。

さらに膜での層状無機粒子の機能である帯電防止やガスバリヤー性について紹介しよう。LAPONITEを紙に塗布すると、帯電防止効果を示す。これはケイ酸塩であるLAPONITEは数%の水を保持し、また上述の分極構造によるものである。また膜中で平行に積み重なるように配列することで、気体が膜を透過する時間が長くなりガスバリヤー性を示す。これは図10右下に示した膜中での層状構造をご覧いただければ、ご理解いただけるであろう。

4.6溶剤を用いない固体の分散

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エポキシモールディングコンパウンドなど、溶剤を用いないで分散する場合の分散剤について紹介する。固体のフィラーや固形の樹脂を、エクストルーダーで練りこむ時には、分散剤も固形であるのが好ましい。図13に二つの固形タイプの分散剤を示す。左は融点が55℃前後の分散剤で、くし形あるいは超分岐タイプの構造である。右側は骨格のポリオレフィンを無水マレイン酸で変性した構造で、カップリング剤と呼ばれる。シリカやガラス繊維のような無機系の粒子や、木質系繊維(セルロースナノファイバーなど)の分散安定化に効果的である。

燃料電池では水素ステーションでの水素の貯蔵タンクや供給ホースなど、温度・圧力など過酷な条件下で用いられる。高分子と粒子状・繊維状無機材料の配合技術の要求度は高い。層状無機粒子や固体での分散剤などの検討を期待したい。

まとめ

粒子の分散において、微分散、粒子同士が相互作用しない状態が最適な分散状態という従来の概念から、粒子が接触している状態が求められる分散状態という場合など、最適な分散状態は多様になっている。従来の枠にとらわれることなく、自由な発想で添加剤の開発と推奨を進めていきたい。

参考

ビックケミーホームページ:http:www.byk.com/jp

ビックケミーテクニカルインフォメーション:電気エネルギー貯蔵・変換デバイス向け添加剤など