本項は消泡剤についての紹介である。従来から建築内装向け塗料や、自動車内装など揮発性物質を抑制した塗料が開発されてきている。居住者・使用者のみならず、塗装作業者への健康についても配慮が求められているのは言うまでもない。さらにセルロースナノファイバーのように天然由来で、生分解性がある材料も、レオロジーコントロール剤やフィラーとして検討が進められている。ここではそれら環境負荷を配慮したコーティング材向けの消泡剤について紹介する。

泡の消える様子と消泡剤の役割

建築内装のように水系塗料では、溶剤系以上に泡の問題が大きい。それは水という材料に、もともと混ざらない樹脂を混合しているからに他ならない。また垂れの防止から高粘度(擬塑性ないしチキソトロピー性流動)にしていることも泡が抜けにくい理由である。

図1

水そのものは泡がたってもすぐに消える。水道の水も、ガス入りの水も、またスパークリングワインやコーラにしてもすぐに泡は消える。ところがビールは消えにくい(この技術について製造者に感謝したい)。水系塗料も消泡剤がなければいつまでも泡は残る。泡が消えないのは、塗料中に界面活性物質が配合されていることによる(図1参照)。樹脂を乳化させるためや、塗料を下地に濡れ広がらせるために界面活性物質は必須である。界面活性物質は気液界面、すなわち泡の表面に配向する。そうして泡の薄膜から水が流れ落ちるのを抑制し、泡を安定化させる。消泡剤はそれに抗して、泡の薄膜を不安定にさせることで泡を消す効果を示す。

消泡剤の組成

図2

では消泡剤はどのような物質で構成されているかを見てみよう。図2に典型的な消泡剤の組成を示した。主成分はポリシロキサン、鉱物油、植物油、それ以外の疎水性のポリマーのどれか、あるいは組み合わせである。エマルジョン状であれば乳化剤も加えられる。また主成分だけだと塗料中の泡に侵入できないので、適切なキャリアーが用いられる。たとえばポリグリコールや水などである。消泡性の強化のために、ユリアやシリカのような疎水性粒子も配合されている消泡剤もある。これら消泡効果の目的以外に、カビの生えるのを防止するために、防カビ剤を加えるときもある。

環境負荷の少ない消泡剤

環境負荷の考え方は一様ではない。冒頭に述べた塗料中のVOC、原料の再生産の可能性など、どの内容を配慮するか、設計思想次第である。少なくとも以下の点を配慮されるべきであろう。

-REACHをはじめとした各国・地域・機関で登録された物質で構成されること。工業レベルで安定的に供給するうえでの大前提となる。

-VOCや各級懸念物質を含まない、或いはできる限り少なくする。性能・コストとのバランスもあり、代替材料の探索・開発が継続されている。

-可能であれば再生産可能な原料の使用(植物由来など)。ただしパーム油のように熱帯雨林を伐採し、大規模なプランテーションを開発することで、自然破壊を進めてしまっている点は見逃せない。また食料とすべき植物を、バイオ燃料などの原料とすることは、食料とその分配の点から問題視されるだろう。

-なによりエコフレンドリーな配合に適した、あるいはその設計に役立つ添加剤。無溶剤UV硬化系や、水性塗料、二酸化炭素の排出を抑制したシステムなど、塗料・インキなどでは開発が進められている。材料やプロセスが変われば、添加剤である消泡剤も最適なものは異なる。

なおBYKではホームページで、各製品の製品データシートやSDSにくわえ、VOC含有程度、EUエコラベル表示や各国の登録状況などを開示している1)

図3図4

水系添加剤での防腐剤・防カビ剤の配合に関する配慮も最近の取り組み例である。防カビ剤等は人体や生物への毒性・生態系への影響から、法的な規制がより強化されている。できるだけ負荷の少ない安全性の高い材料への切り替えが進められている。また鉱物油系の消泡剤は乳化剤としてアルキルフェノールエトキシレート(APEO)を用いていたが、現在ではそれを用いない消泡剤に置き換えられている。図3にAPEOを配合しない水系用の消泡剤を、図4にVOCフリー並びにEUエコラベル表示の消泡剤を示した。図3及び図4に掲げた消泡剤は、PRTR法(Pollutant Release and Transfer Register:化学物質排出移動量届出制度)の対象外製品である。また、特化則(特別化学物質障害予防規則)及び毒劇物(毒物及び劇物取締法)にも該当しないことを付記する2)

なおポリシロキサン系表面調整剤では、REACH規則において高懸念物質(SVHC:Substances of Very High Concern)とされた環状シロキサンの残存量を低減した製品も開発・上市されているが、紹介は別の機会に譲る。

図5

一方、再生産可能な原料でつくられた消泡剤も開発されている(図5参照)。従来の鉱物油に代わり植物油由来の原料でつくられている。従って100%再生産可能で、VOCにあたる成分もない。またAPEOもホルムアルデヒドも含まれていない。特に建築内装塗料など塗膜からの有害物質の揮発・放散が問題になる系には最適である。消泡効果も従来の鉱物油系消泡剤と同等である。

まとめ

化学物質の安全性や環境への負荷は、研究が積み重ねられることで常に見直されてる。消泡剤をはじめとした添加剤の組成も、継続的に研究がすすめられている。今後も環境への負荷が少ない塗料・インキ・コーテイング配合設計に有効な添加剤の開発を進めていきたい。

参考

1)製品については弊社ホームページ:http: //www.byk.com/jp

2)法令については、それぞれ最新のものを参照していただきたい。環境省、経済産業省、JETRO、日本塗料工業会など、政府機関、各種団体がそれぞれ資料を出している。