ここでは層状ケイ酸塩のユニークな機能について紹介する。材料の鉱物名としてスメクタイト、モンモリロナイトやベントナイト、ヘクトライトと区分されるが、一般には粘土の方が理解しやすいであろう(図1参照)。層状ケイ酸塩は粘土として人類に非常になじみのある材料であるが、添加剤として見ると、安全でなおかつ幅広い特性・機能を有する利点が際立つ。層状であること、ケイ酸と配位した金属イオンの価数の差により、層の上下面はマイナスに端部はプラスに局在化していることなど、その特異的な構造のもたらす機能を紹介する。

図1

FULCAT®の触媒機能

まず触媒機能について説明する。FULCAT®はモンモリロナイトを主成分とする天然鉱物ベントナイトから製造された活性白土である。粉砕・乾燥という物理的処理により活性化されたものと、硫酸処理により活性化されたタイプと二種類ある。ルイス酸あるいはブレンステッド酸としての酸点を有し、触媒活性を示す。BYKが上市している製品の性状を表1に示す。

表1

ではどのような反応において触媒活性が期待されるか列挙してみよう。

アルキル化反応  ジフェニルアミン:アミン系酸化防止剤

フェノール類:フェノール系酸化防止剤

フリーデル・クラフツ アルキル化

アシル化反応

シロキサン合成の平衡反応

ラクトンの開環反応

脂肪酸の水素化反応

脂肪酸の二量体化反応

図2

図2にアルキル化反応の例として、ジフェニルアミンのノニル化を示す。生成物は自動車産業などで酸化防止剤として用いられている。反応性については図3に示す。FULCAT® -22 Fは芳香環へのアルキル基を導入するフリーデル・クラフツアルキル化反応及びアシル化反応向けのルイス酸触媒として開発された。既存のルイス酸触媒である塩化アルミニウムAlCl3に対して触媒能ではやや劣るが、塩化アルミニウムを用いた生成物が暗緑・黒色を示すのに対して、FULCAT®使用品では透明で薄い黄色と、着色しにくい点で優れる。また塩化アルミニウムが強い腐食性と毒性を持つのに対して、より安全である点でも勝る。

図3

またFULCAT®は層状の粒子であり、反応後に濾過で容易に除去しやすいのが、現場での使い勝手の点で大きな利点である。図4に上述のノニル化反応後の濾過時間(秒)を示す。FULCAT®-22 Fを用いた場合は、FULCAT®-435 並びに競合品の場合と比べて濾過時間が短いのがわかる。FULCAT®-22 Fは同435よりも、表1に示したように、やや粒子径が大きい設計になっているのが理由である。これらの反応は、潤滑油・燃料への添加剤・酸化防止剤・コーテイング材・接着剤などの分野で用いられている。化合物としては、ポリアミド・ポリエステル・ポリウレタン・エポキシ樹脂などである。

図4

環状シロキサンを開環しポリシロキサンを合成する反応の触媒としても有効である(図5参照)。FULCAT®-435は反応性と濾過性において、BYK社の既存品ではこの反応の最良のものであるが、更に開発を継続している。

図5

不飽和脂肪酸の二量化反応についても例を示す(図6参照)。FULCAT® 参考製品1は物理処理されたタイプで、酸性の活性度は低い。それゆえオレイン酸の二量化反応においても、三量体以上にすすむことが抑えられ二量体でとどめることが容易である。(参考製品1の詳細はお問合せ下さい)

図6

他に、ラクトンの開環反応はブレンステッド酸によりはじまり、同酸であるFULCAT®は有効である。また脂肪酸の水素化(水素添加)においても、Ni触媒の助触媒としてFULCAT®は用いられる。不飽和脂肪酸を水素化し飽和脂肪酸を得るが、その際Ni塩が副生成物として形成され、着色の弊害を引き起こす。この時、FULCAT®を添加しておくとNi塩を吸着し、濾過時に除去できる。

合成ヘクトライトLAPONITE®の構造と特徴

次に組成的にはヘクトライトに属するが、全く無機薬品から合成したナノ粒子であるLAPONITE®を紹介しよう。図7に構造と特徴を示す。天然の鉱物を精製した他の層状ケイ酸塩と異なり、結晶性シリカのような不純物を含まない。高純度で着色もなく、水に添加してゾルあるいはゲル化したものは無色透明である。

図7

LAPONITE®によるピッカリングエマルジョン形成:水/水界面の安定化

LAPONITE®の構造を生かしたアプリケーションの一つであるピッカリングエマルジョンを紹介する。界面活性剤を用いずに相を分ける。塗料分野ではマルチカラーペイント(多彩模様塗料)を作成するのに用いられている(図8参照)。通常塗色作成では、原色と呼ばれる単一の色塗料を複数混ぜて特定の欲しい色を作る。当然攪拌混合により原色は混ざり、人の眼にはあるひとつの色として認識される。これに対してマルチカラーペイントは、各原色が混ざらす色の液滴がそのまま混合された塗色の中で存在する。塗布すれば各原色がマーブル模様のように見える(図8右下)。

図8

この塗料混合工程の観察と塗料を凍らせ電子顕微鏡で見た様子から、図9のようなモデルが考えられる。これは水性塗料での例であるが、LAPONITE®が液滴を液中で安定化させるという機能に着目すれば、様々なアプリケーションの可能性が考えられる。薬品を比較的高濃度のまま水中で保持する。液全体はゲル状にすることができる。層状ケイ酸塩でつくられたゲルは、せん断力をかければ流動性を示し、せん断をやめれば構造を回復し粘度が急速に上がる。せん断速度にもよるが、液の移送・塗布と構造形成・形状保持が両立できる。

図9

LAPONITE®の医療・ドラッグデリバリーやホームケアでのゲル化機能

医療やホームケアなどの分野では、ゲル化剤として有機系材料が用いられている。LAPONITEは無機系であること。ナノ粒子であること。ゲル形成機能が優れることなどが有機系と比べた特徴点として挙げられる。無機粒子であるので有機系材料のように腐敗することがない。変性等により酸性領域から塩基性領域まで適用することができる。添加量や処理によりゲルの程度もコントロールしやすい。全くの合成品で、結晶性シリカのような不純物も含有しない。ナノサイズ(厚み0.92nm、円盤状直径25nm)であるので、細胞など狭小・局所的な領域での機能発現も期待される。FULCAT®の項で紹介したように、各種処理での活性の発現や、粒子内の電気的偏りや構造体の形成などを活用した機能付与も期待される。

LAPONITE® -XLGを洗浄剤として、例えば粘性のあるエタノール洗浄液に用いることもできる。BYKと同じグループ内のECKARTでは表2のような配合を出発点として示している。ここではモデル的に作成したLAPONITE®-RDのアルコール液での粘性挙動を測定した例を紹介する。試料作成は次の通りである。まずLAPONITE®-RDと水を混合しプレゲルを作成する。水97gに対して粉であるLAPONTE®-RDを3gゆっくり攪拌しながら加え均一にする(1000rpmx10分攪拌)。このプレゲル20gをとり、エタノール80gを攪拌しながらゆっくり加え、混合する(1000rpm x3分攪拌)。こうしてエタノール濃度80%のゲルを得る。LAPONITE®-RDは水に対して3%、ゲル全体中には0.6%となる。そのゲルの粘性挙動を図10に示した(測定温度23℃)。市販のエタノール洗浄ジェルがほとんどニュートン流動を示すのに対して、このLAPONITE®-RD /エタノール・水ゲルは粘度の時間依存性のあるチキソトロピー流動を示した。より粘度を上げたいときには、LAPONITE®水のプレゲルを一晩静置し、LAPONITE®粒子のネットワークが十分形成されるのを待ってから、エタノールを加えるとより効果的であった。粉の状態であるLAPONITE®粒子間のナトリウムが水により水和し、さらに浸透圧により膨潤し、粒子がネットワークを形成することで粘性が発現する。

表2

図10

図11にはエタノールの濃度と粘性挙動とを、LAPONITE®添加量を固定して比較した結果を示す。水が多いほうが、すなわちエタノール濃度が低いほうが粘度は高くなる。水以外の各主成分の混合でも、ゲルの粘性程度は異なるが、LAPONITE®による粘性の付与は期待できる。たとえばエタノールだけでなく次亜塩素酸添加系でも粘稠な洗浄液が得られる。

終わりに

LAPONITE®をはじめとした層状ケイ酸塩の利用に関して、ここで紹介した以外に多くの研究論文や特許が出されている。ゲル形成や触媒活性やキャリアーとしての機能など、ご興味をお持ちいただけたら幸いである。

参考

1)ビックケミーホームページ:http: //www.byk.com/jp