こんにちは。今日は、分散剤の話をします。BYK社ではDISPERBYKで始まる製品です。ANTI-TERRAとつくのもそうです。古い商品でBYK何番というのもありますが、これは数が少ない。第一回で、力をかけて色の素・顔料を細かくしますといいました。細かくすると透明性が高い澄んだ色になります。また「つや」が良くなります。「つや」漢字では艶です。実は塗料用語は、なまめかしい表現ばかりです。「色」「つや」「肌がいい」「たれやすい」「肉もち感」、「ぼけ」なんていう表現も使われます。私も理系大学を出て、塗料会社に入って最初に受けたショック、「これって科学的・技術的?表現が江戸時代じゃん」。意匠性といえば聞こえはいいのですが、要は人の目で見ていいか悪いかの世界です。ちなみに、これを技術的に数値として表現できるようにしているのが、測定機器のGARDNER(ガードナーと読みます)です。

話が機械に行ってしまったので戻します。色の素・顔料は細かくしていくと、互いにくっつきやすくなります。これが世の中の悩みの種です。細かい粒子が互いにくっつかないようにしてやるお助けマンが分散剤です。保育園に送っていった時の子供を思い浮かべてください。小さい子はお母さんとお別れするのがなかなかできません(我が家も苦労しました)。保育士さんが手をつないで、あるいは抱っこして、ようやくお母さん・お父さんとバイバイできます。子供はもともと親とくっついていたいのです。子供の手をつないで、集団生活になじませてくれるのが保育士さんです。BYKの分散剤はこの役割です。つまり、細かい色の素(小さい子供)は、親(自分と同じ家族という大きな塊)からはがされても、またかたまり(親)に戻ろうとします。分散剤(保育士さん)は色の素(子供)を包んで(抱っこして)、塗料やインキ(保育園)になじませてくれるのです。色の素(子供)は安心してその中で過ごすことができます。

力で細かくすると文頭で申し上げましたが、力づくではいったん細かくなっても、また元のかたまりに戻ってしまうのです。やさしい保母さんが必要です。専門的には「分散安定化」といいますが、「安心させる」ことと同じ意味です。いかがでしょう。分散剤の役目をわかっていただけましたか?これからは湿潤分散剤と聞いたら保育士さんと思ってください。

じゃ、なんでたくさんあるの?ひとつで全部まかなえないの?

そうなんです。塗料・インキの世界にも多様性が満ち溢れているので、分散剤も一つじゃないんです。これは、先ほどの保育園の例で考えてみると理由が読めてきます。子供にも違い・個性があり、保育士さんとの相性もある。保育園の年齢構成や場所なども違う。塗料・インキも同じで、シンナーで薄める塗料もあれば、水で薄めるのもあります。グラビア雑誌を開いた時のあの独得な匂いも、文庫本ではしません。匂いの違いはインクの成分の違いを示しています。マニキュアを落とす除光液、以前新幹線内で使用している方がみえて、車中すべて除光液(主成分はアセトンという溶剤)のにおい、勘弁してよ。おっとまた脱線しましたが、色の素も他の材料も多様なので、分散剤もそれらに合わせられるよういくつもあるわけです(ロジステックの皆様に感謝)。大きくは水系向け、シンナー向け(溶剤向けと言います)に分かれています。

最近では印刷インキも石油製品から作らず、植物油から作るものが注目されています。そうした再生産可能材料向けの再生産可能原料使用の分散剤もあります。再生産可能、漢字変換では簡単ですが、実際は結構悩ましいのです。大豆原料のインキやヤシの木からとった油で作った分散剤。再生産可能かもしれないけど、大豆は食料じゃないの?ヤシの木を植えるのに熱帯雨林を伐採していいの?植物から搾り取るパーム油などマーガリンにもたくさん使われ品薄です。問題は山積みです。悩み始めると寝られなくなるので、今夜はこのくらいにして、第三夜に続けましょう。

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ビックケミー・ジャパン株式会社 若原章博