1.連載のはじめに

実験計画法や機械学習を活用するなど、実験の進め方・解析の仕方など、有用な仕組みが整えられている。一方でどのような実験を組むかは自分で考えなければならない。ここではコーティングや分散・塗布・乾燥の実験を実際に行われる方々に、実験現場で役立つアプローチを紹介したい。この項は膜の表面張力の測定である。

2.固体の表面張力測定

非常に簡便な測定器が市販されている。液体の接触角から表面張力・表面自由エネルギーを測定する方法である。表面張力が既知の液体(水やシクロヘキサン他)を、塗膜や固体に垂らして接触角を測定する。複数の液体の接触角から表面自由エネルギー(分散項・極性項・合計)が算出できる。

画像1.png

3.測定の例

実際の測定を図2に示す。常温乾燥型の塗料に、BYK-3560という表面調整剤を加え、塗膜の水接触角を測定した時の写真である。滴下10秒後と5分後の2回、測定している。図ではBYK-3560という表面調整剤により水接触角が低下し、親水性の塗膜になっていることがわかる。

 画像2.png

4.測定の時にはマイグレーションに注意

この時、滴下直後と5分後を測る。これはなぜか?滴下後の経過時間により接触角が変動することがあるからだ。いくつか要因があるだろうが、添加剤メーカーとして表面調整剤のマイグレーションを挙げておきたい。有機変性ポリシロキサンなどの表面調整剤は、コーティング液に配合され液の表面張力をコントロールする。塗布・乾燥中には表層へ移行する。その易動度は液と表面調整剤の組成による。膜が乾燥・架橋などして成膜後は、表層にとどまる。

ここからがポイント。接触角を測ろうと液体を滴下する。もしこの液体に表面調整剤が混ざりやすければ、塗膜の表層から液中に溶け出ることになる。するとたらした液の表面張力そのものが変わってしまう。結果、接触角は変化する。もし滴下直後より5分後のほうが、接触角が下がっていれば疑ってほしい。炭化水素系溶剤のように全くの非極性の液は、混ざりやすさ・相溶性も低いので変化はしない。水や極性溶剤を用いる場合には要注意である。

なお、反対にこの現象を利用すれば、表層の表面調整剤の次の層へのマイグレーションを推定することができる。塗り重ねの塗装工程では、下層膜と上層膜との界面には表面調整剤が存在しないので、付着性・密着性に影響がないことも多い。この確認の一つとして、上層のコーティング液の溶媒で接触角を測定するのも方法である。

5.数字の意味に注意

なお表面張力は接触角のコサインで効いてくる。角度が90°に近いところでの角度の変化と、ゼロに近いところでの角度の変化の意味する程度は異なる。試しに計算してほしい。

γS=γSL+γLcosθ:Youngの式

γS:液体の表面張力

γL:個体の表面張力

γSL:固体と液体との間の界面張力

θ:液滴の接触角

γLcosθ:濡れ性の尺度

cos10=0.9848、cos20=0.9397 10度の変化で0.0451変化

cos80=0.1736、cos70=0.3420 10度の変化で0.3247変化3

 

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