塗膜表面の改質技術で燃費低減・防汚性の向上を実現
環境価値で市場を変える

船舶塗料事業を担う日本ペイントマリンは今年1月より、親水・疎水ナノドメイン加水分解型防汚塗料「FASTAR(ファスター)」を市場展開している。独自のナノテクノロジー技術で親水性と疎水性のナノスケールのドメインにより、防汚剤の溶出を制御し、過剰溶出を抑える新たな船底防汚塗料の開発に成功した。環境技術を軸にブレークスルーを図り、グローバルシェアを拡大したいとの狙いがある。


船底塗料における環境規制の流れが本格化したのは2008年。船底防汚塗料に使われていた有機スズ化合物が海洋汚染を招くとして2008年に国際海事機関(IMO)が有機スズ塗装の全面禁止を決議したことに起因する。

ただ国内塗料メーカーにおいてはIMO決議に先駆けること10年以上前から国内規制を受ける形でスズフリー防汚塗料の市場展開を開始。中でも同社は世界で初めてスズフリー加水分解型自己研磨型船底防汚塗料(製品名「エコロフレックスSPC」)を投入し、その後も省燃費型防汚塗料「LF-Sea」、防汚剤フリー自己研磨型防汚塗料「AQUATERRAS(アクアテラス)」の開発と環境対応技術で市場をリードしてきた自負がある。

今回新製品となる「FASTAR」もそうした環境対応技術の系譜を受け継いで開発された製品。世界人口の増加に伴う海運貿易の増加で海洋環境保全の重要性が浮き彫りになる中、従来にない防汚メカニズムを搭載した次世代型加水分解塗料として、環境保全への貢献を全面に訴求している。

「FASTAR」が技術面で最大の差別化に掲げるのが、業界初となるナノドメイン技術を採用した点だ。

塗膜表層にナノテクノロジー技術を導入し、親水性と疎水性のナノスケールのドメインで塗膜表層を改質し、防汚成分を広範囲かつ安定的に溶出させることに成功した。ドメインの役割として、親水性ドメインが防汚成分を拡散し、疎水性ドメインが保持するため、航行中、停泊中ともに効果的な防汚効果を発揮するメカニズムを確率。防汚剤の選択が主流を占めていた船底塗料の開発トレンドに一石を投じた。

更に「FASTAR」は、魚類の中で最も泳ぐ速度が速いマグロの表面粘膜を再現した「ヒドロゲル」素材を採用したウォータートラッピング技術を採用。塗膜(船体)と海水との摩擦抵抗を低減し、「エコロフレックスSPC」と比べて船底塗料で約8%燃費低減を実現。既に「LF-Sea」「A-LF-Sea」にも採用する実用技術で、防汚効果とともに船舶の燃費向上性も確保した。

同社が防汚性と燃費向上性を追求するのには、環境保全と海事業界が抱える課題が背景にある。

環境保全においては、地球温暖化による気候変動、海洋汚染、労働環境の改善、また海事産業においては、国際基準の適合、コロナ禍における想定外の停泊、造船業界に共通する人手不足の課題を指摘する。

その上で「FASTAR」は、同社従来品比で防汚剤50%削減、連続停泊日数は25℃以下の海域で最大45日、低燃費効果約8%減、塗装工程工数37%減の環境性能を実現。塗料もハイソリッド化し、塗着効率を高め、省工程化を実現した。既に約50隻で採用が決まっており、採用拡大に弾みをつけたいとの意向を示す。

海洋環境技術でグローバルシェアを拡大する

現在、船舶塗料市場のグローバルシェアで4位グループに位置する日本ペイントマリン(同社調査)。事業領域の特性上、長年に及ぶ船主、造船会社、海運商社との関係が重視されるため、シェア変動が少ないのも同市場の特徴だ。

ただ、その中で同社は「FASTAR」がシェア拡大に寄与する製品になるとの期待を高めている。「FASTARは、環境価値と経済価値を両立させたところに意義がある。塗装の省工程化、燃費向上、予期せぬ長期停泊時の防汚性確保など、船主をはじめすべての需要家に価値を提供することができる」(担当者)と意気込む。

特にコロナ禍に端を発した塗料原材料価格の高騰は、船舶塗料メーカーにも深刻な影響を与えている。メイン樹脂であるエポキシ樹脂の高騰に加えて、主力防汚剤の亜酸化銅も銅建値ベースで昨年の倍近くと急騰を招いている。  

海運貿易の増加が今後も見込まれる中で、塗料メーカーサイドとしては安定供給の確保が喫緊の課題。その意味で防汚剤の溶出をコントロールするナノドメイン技術は、高付加価値化と安定供給を両立した製品との自信を深めている。

今後も環境保全に対する国際基準は更に強まっていく見通し。既にIMOは今世紀中にも国際海運からの温室効果ガス(GHG)のゼロ排出の実現を目標に掲げ、短中長期施策を策定した。"環境保全"を基点にグローバルレベルで市場が大きく変質しようとしている。



FASTARの防汚メカニズム
FASTARの防汚メカニズム

HOMENew Trend塗膜表面の改質技術で燃費低減・防汚性の向上を実現

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