アジア合弁とインドネシア事業を完全子会社化
ウトラム、ニッペ株58.7%に引き上げ

8月21日夕刻、日本ペイントホールディングスがアジア塗料大手に買収されるとのニュースが駆け巡った。業界関係者の中にはSNSで報道を知らせる投稿もあり、業界内にも相応のインパクトを与えた。会見に出席した同社の田中正明会長兼社長CEOは「当社グループが更なる成長を目指すために資本をウトラムグループから調達する協議の結果」と説明。ウトラムグループによる同社の買収、子会社化が目的ではないことを強調した。


日本ペイントHDは8月21日、戦略的パートナーシップ関係にあるウトラムグループ(代表・Goh Hup Jin氏)とのアジア合弁事業並びにウトラムグループが99.0%を保有するインドネシア事業の持ち株比率を概ね100%取得することに合意したと発表した。

そのための資金として、ウトラムグループに属するNIPSEA INTERNATIONAL LIMITED(NIL)及びFraster (HK)Limitedを割当先とする第三者割当による新株式を発行し、総額1兆3,000億円を調達。その結果、ウトラムグループによる日本ペイントHDの持株比率は39.6%から58.7%となり、ウトラムグループの子会社になる。実行日は2021年1月1日を予定している。

今回の決断に対し田中氏は、「アジア事業において更なる成長を目指すための資本政策」と説明。続けてウトラム代表のGoh氏に対して「将来、当社が公募増資を実施した際に比率が下がる可能性についても『それで良い』との返答を得ている」とウトラムグループによる買収及び子会社化を目的にしたものではないと述べた。

特に田中氏が強調したのは、少数株主の利益に重視した点。「ウトラムグループとは、特別委員会を通じ、約6割を占める少数株主の利益保護を大前提とした中で協議を進めてきた」と説明。田中氏は、ゼロから業界トップに押し上げた中国塗料事業をはじめ、2代にわたってアジア塗料事業の成長に導いたGoh氏が事業売却に応えてくれたことに感謝の意を表した。

これにより、日本ペイント側がこれまで持株比率で過半数を有していなかった中国、シンガポール、インド、香港、台湾、韓国、マレーシア、タイなどのアジア合弁会社の完全子会社化を実現。国内に拠点を置く、日本ペイントマリン、ニッペトレーディングも100%持株会社となる。加えて、ウトラムグループが99.9%保有していたインドネシア事業も取得する。

アジア合弁の完全子会社化による財務効果としては、2019年度業績をベースに売上収益+240億円、営業利益+10億円、親会社に帰属する当期利益+223億円になる見通し。田中氏は「当期利益で約6割、EPS(1株当たり利益)で10%以上増加する計算となり、少数株主にとっても大きなメリットになる。強固になった財務基盤を軸にアジアで圧倒的No.1のポジションを確立するため、M&Aを含めた攻めの経営を加速させていく」と述べた。

「既定路線」との見方占める

今回の発表に際し、本紙は同社特約店など複数の業界関係者にヒアリング取材を行った。

そこで多く聞かれたのは、「規定路線として受け止めており、大きな驚きはない」との弁。2014年に事業再編の皮切りとなるウトラムとの戦略的提携に合意した時点で、いずれはウトラム側がマジョリティを持つだろうとの観測を強めていた。プロ経営者として招かれた田中氏が社長に就任した時点で、後はタイミング次第と考えていたとの見方が占めた。

また買収計画の発表後、株価も反応し26日時点で9,000円台を突破。同社株を保有する特約店の中には「コロナ禍の厳しい中、当社の与信力向上に寄与している」と同社が掲げる"株主価値の最大化"のメリットを受けている実態も見られた。

その一方で「製造業としてモノづくりに徹するか、成長を求め海外に市場を広げるか、企業経営として難しいかじ取りが求められる」とのコメントも。経営の一貫性と成長施策の両立は、業界各社に共通する課題となっており、「これから持続的成長を図っていくには、ビジョンやWayが欠かせない」との意見も聞かれた。

そうした気運を察知してか、田中氏は会見の終盤で国内市場の重要性について言及した。

「国内は人口減少の局面にあるが、潜在的な開拓余地があると考えている。そのためにも、しっかりと投資を続けていきたい」とコメント。具体的には、生産性の可視化、高度化に寄与するデジタルサプライチェーンの実現とR&Dの強化を掲げる。

既にNIPSEA中国では、全国の工場の生産状況や配送状況がリアルタイムで把握できる仕組みを構築しており、国内でもベストプラクティス方式で導入していく予定。既存のサプライチェーンに対してもBCPも視野に入れ、整備を進めている現状を伝えた。

また技術開発については、東京大学との産学協創による抗ウイルス製品の開発をはじめ、技術でブレークスルーを目指していく考え。豪・Duluxの接着剤製品のグループ内供給も始めており、技術がグループ全体の価値向上に寄与するとの見解も示した。



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