京都市の建設塗装会社・小室塗装店(小室浩之社長)で働くベトナム人社員のチャン・ドゥオン・ルアンさん(28=写真)は昨年末、外国人労働者の在留資格「特定技能2号」の評価試験に合格した。日本人でも受かるのが難しいと言われる特定2号の試験に独学で挑戦して突破、塗装業界ではおそらく初の快挙だ。ルアンさんに会いに小室塗装店を訪ねた。
ルアンさんは、2019年に外国人技能実習生としてベトナムから来日、小室塗装店に入社した。
その経緯について小室社長は、「施工管理を担っている息子から、『ウチも外国人労働者を雇ってみないか』と提案があったのがきっかけ。いろんな現場で他社の外国人労働者を見かけ、その働きぶりに感心していたようで、当社でも外国人の雇い入れにトライしてみようという提案だった」と説明する。
町場の塗装工事から野丁場の大型物件まで幅広い仕事を手掛ける小室塗装店。職人不足は慢性化し、日本人の入職がない状況が続く中「そのタイミングかもしれない」と外国人労働者の雇い入れに踏み切った。
国内の監理団体を通じてベトナムに面接に赴き、ルアンさんともう1人のティンさんを採用。「面接をしてから分かったことなんですが、2人はたまたま家が隣同士で幼馴染みといった間柄。2人にとっても心強いだろうと思い、一緒に来てもらうことにしました」と面接での様子を語る。
そのあたりのことをルアンさんに尋ねると、「友だち(ティンさん)とも相談し、最初から日本に行こうと決めていました。目的はやはり、お金を稼ぐことですが、先進国で治安がいいこと、そしてボクたちと同じベトナムの同胞がたくさんいることが理由です。会社の人はみなさんいい人ばかりで、小室塗装店に来られて本当にラッキーでした」といい出会いに恵まれたようだ。
2人はベトナムでの半年間の研修を終え、2019年秋に来日。「住居は当社が所有しているマンションの部屋を提供し、日常生活のこまごまとしたことはウチの家内がフォロー。仕事に関しては現場の職人が面倒を見ていますが、『仕事を覚えることにどん欲』『ガッツがある』『素直』など周りの職人たちの評判もすこぶる良い。2人が毎日元気に働いている様子を見ていると、良いコミュニケーションが取れていることが自ずと分かります。日本人も外国人も関係なく、結局は本人たちの人間性の問題ではないでしょうか」と小室社長。外国人雇用に対して抱いていた当初の不安は、今はもうない。
建設塗装業界で初の快挙
技能実習生としての来日を機に、初めて塗装の仕事に携わったというルアンさん。「自分たちの仕事で建物がどんどんきれいになっていくので、とてもおもしろい仕事です。人に教えてもらうだけでなく、自分でも人のやり方を見て覚え、うまくなるように努力しています。仕事はとてもおもしろい」と塗装の仕事が水に合ったようだ。
そうして技能実習生としての3年の在留期間を終え、そのまま特定技能外国人制度の「特定技能1号」に移行。そして昨年、最もハードルの高い「特定技能2号」の評価試験に合格した。
在留資格の「特定技能」は、人手不足が深刻な産業分野で労働者としての外国人を受け入れる制度で、一定の技能や専門性を試験で評価。特定技能1号は最長5年の在留期間が認められ、特定技能2号の試験に合格すると在留期間に制限がなく、家族の帯同も可能。雇用する企業にとって、正に戦力としての外国人労働者を獲得できる制度だ。
ただし、そのハードルは高い。高度な技能や専門性、実務経験を判断するための試験は難しく、今年6月末時点の特定技能2号の資格保有者は全産業を通して3,037人。特定技能1号の約33万人の1%にも満たない。しかもこの数字は、今年に入って要件が多少緩和されたからで、昨年末では全産業を通して特定技能2号はわずかに832人。建設業全体で見渡しても全国で66人しかおらず、いかに難しい資格かが分かる。昨年末に特定技能2号に合格したルアンさんは、建設塗装業界ではおそらく初の快挙だ。
しかも試験対策の講座や日本語学校などに通わず独学で勉強を続けた。「過去問のコピーなどで勉強しました。難しかったのは、漢字で書かれた建設の専門用語ですね。辞書アプリなどで一つひとつベトナム語に訳して意味を覚えました。試験はパソコンで行われるのでその場で結果が分かります。合格したときはうれしくて、すぐに社長に電話しました」とルアンさん。
それを受けた小室社長も「えっ、ほんまか!」とビックリ。「超難関の試験を独学で突破する努力は見上げたものです」と称賛を惜しまない。
ルアンさんは今年6月、特定技能1号として製造業で働くベトナム人の女性と結婚、日本で所帯を持った。「彼女もいま、特定技能2号を目指して勉強をがんばっているので応援しています。それと、雨の日はやっぱりさびしいですね」と、突然のフェイントにとまどっているとルアンさんが続ける。
「雨の日は仕事ができないからつまらないし、1人で家にいてもやることがないからさびしい」と、仕事の虫と新婚さんの両方の顔をのぞかせるルアンさん。そう言ってはにかむ笑顔が印象的だった。
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