工場塗装に特化、木材保護塗料を開発

住友林業が開発した木材保護塗料がオリンピック関連施設をはじめ、商業施設やオフィスなどの中高層物件で採用を広げている。既存の専業メーカーがある中での製品投入に関心が集まる中、「塗装木材自体の品質を確保するため、工場内塗装を前提にした」(担当者)と現場塗装とは一線を画した製品に仕上げた。建築物における木造化、木質化の気運が高まる中、新たな商流を構築しつつある。


今回、住友林業が開発したのは、水系半造膜タイプのシリコーン系木材保護塗料「S-100」(商品名)。クリヤータイプをはじめ有色タイプにおいても顔料濃度を抑えた透明性が特長で、日本建築学会が定める木材保護塗料塗り規格(JASS18 M-307)を取得済。

同社が塗料開発に着手するきっかけは約20年前に遡る。「当時、ラジアータパインを使ったLVL工場をニュージーランドで立ち上げる際、建て方における雨濡れリスクなどに対応するため、ベイマツ並みの撥水性を持たせたいと考えた」(担当者)と説明。今回の木材保護塗料開発でも協業した信越化学工業との撥水剤開発が発端となった。

結果的にラジアータパインの撥水付与においては、コストの兼ね合いから実用化に至らなかったが、2015年に再び両社が塗料開発に向けてタッグを組むことに。「2011年くらいから木材を現(あらわ)しで使う物件が増え始め、耐候性を付与するため構造材においても微着色塗装が必要になると考えた」とのこと。同社がオリンピック関連施設の材料手配を受注したことが塗料開発に拍車をかけ、2016年に開発を加速、2017年に完成した。

塗料設計においては、オリンピック関連施設の採用が大きく影響を与えた。

特に市販品と製品コンセプトを大きく違えるのが、工場塗装を前提にした点。従来、木材保護塗料は現場塗りを対象としてきたが、数万㎡に及ぶ大規模物件での現場塗りは、「人工、工期とも膨大な労力を要する」とプレカット工場など工場内での塗装に照準を据えた。加えて工場塗装なら木口面やほぞ穴加工面も塗れるため、品質向上に対する期待もあった。

ただ一方で工場塗装では、現場塗りとは異なる塗料特性を要することが明らかになった。1つは木材表面が平滑すぎること、もう1つは塗装材として工場から積載梱包出荷され、現場で組み付けられる点だ。

木質外装材以外の建材であれば、何ら不思議のない生産工程だが、木材に浸透させて防蟻・防カビ機能を付与する木材保護塗料にとっては、プレーナー加工直後の平滑かつ木材自体がもつ撥水性が残っている面への塗装は容易ではない。特に施工現場での一定期間の暴露を経ていない木材への塗装は、浸透性(塗布量確保)も不安視される。更に、塗装後積載梱包され現場に運ばれることで、積載時に塗装面同士がくっつかないようにすることが重要となる。

そうした課題に対し、同社が活路を見出したのが、信越化学工業の持つシリコーン技術。

「界面活性技術も含めた幅広い技術が浸透性確保と撥水性付与、更に積載における塗装面同士の離型性確保のすべて併せ持つことを可能にした」と説明。当初は造膜タイプも検討したが、塗膜剥離リスクや膜厚管理の難しさを考慮し、撥水性と通気性のバランスが取れる半造膜タイプとし、更に工場内環境や乾燥性に配慮し、水性タイプに設計した。

また同社が撥水性にこだわる理由には、建築時の雨濡れ対策がある。大規模物件の場合、雨濡れリスクが数カ月に及ぶ可能性があるという。2018年に着工し、2019年に竣工した同社筑波研究所・新研究棟の際もビニルシートで厳重に覆っていたにも関わらず、台風時期と重なり雨濡れに見舞われたという。特に構造部材に用いられるラジアータパインは、短時間での雨濡れで吸水膨潤を起こしやすい樹種として知られており、カビのリスクも合わせて水分の吸収を抑える撥水機能が不可欠との考えがある。

加えて、同品の特長である高い潤滑性も現場作業において発揮する。

高所で部材を組付ける際、部材同士が接触する可能性もあり、擦れ傷を軽減させるため潤滑性がプラスになるという。塗面の潤滑性を示す指標として、静止摩擦係数μ=0.2を確保し、接合面両方とも塗装した場合は、スケートリンク並みの0.1の潤滑性を保持する。「接合作業の時間短縮にも有効であることが確認できた」と作業効率にも寄与する。

一方で、塗料の要となる耐候性においては、市販品の約2倍となる約5年を想定。「5年ごとの塗り替えは現実的ではないため、基材の防腐処理と組み合わせることで、目標としてきた10年程度の耐候性に近づけたいと考えている」とアピールする。メンテナンスに関しては「最近の中高層建築物は、メンテナンスを考慮してゴンドラルートやキャットウォークが設けられており、部材交換もしくは現場塗装を想定している」と説明。また「設計側、施工側の知見が高まってきたことも木材利用を高める背景になっている」と指摘する。

国は今月から、公共建築物から民間建築物にも範囲を広げた木材促進利用法を施行。中高層建築を可能にする建築基準法の緩和も木材利用の拡大を後押ししている。

これを受け業界関係者は、構造部材としての木材利用拡大とともに、意匠表現として外装材の木質化も連動して拡大していくと期待する。

木材供給から販売、設計・施工を手掛ける同社においても、木材保護塗装部材のニーズが高まっていくとの見方。特にゼネコンが手掛ける大規模物件では、安全性や環境面も含めた木質部材選定段階での検証が進んできており、「長期間現場塗装を要しない高耐候塗装部材の優位性が高まってくるだろう」とメンテナンスも含めたトータルコストの低減も施主ニーズに寄与すると位置づける。



採用事例:マル勝高田商店店舗リニューアル (奈良県桜井市/設計・施工:住友林業)
採用事例:マル勝高田商店店舗リニューアル (奈良県桜井市/設計・施工:住友林業)

HOME建築物 / インフラ工場塗装に特化、木材保護塗料を開発

ページの先頭へもどる