安心・安全社会の実現へ、災害対策から共生目指す

千葉県柏市と船橋市の2拠点で外装リフォーム業を手掛けるユウマペイント(社長・佐々木拓朗氏)。近日にも同業の建築業者で組織する団体(全日本災害住宅レジリエンス協会)を通じ、千葉県と災害時における連携協定を締結する。災害時における復旧活動において同団体が工事業者の派遣や早期復旧工事をサポートする構えだ。


同社が防災意識を高めるきっかけとなったのは、2019年秋に千葉県を襲った豪雨災害。3度にわたる台風及び大雨で千葉県内だけで全壊476棟、半壊6,267棟、一部損壊7万9,131棟と甚大な住宅被害を引き起こした。

県内で事業を営む同社も当然矢面に立たされた。

「被害の大きい館山と比べて、柏周辺はほとんど報道されませんでしたが、修理を依頼する電話が鳴り続けていました」と佐々木氏。2カ月間にわたりブルーシートを覆う作業が続いた。

ブルーシートによる応急措置とはいえ、それでも作業が続けられたのは、同業仲間の協力があったから。佐々木社長は現在、塗装ボランティア団体「塗魂ペインターズ」の事務局長を務めるが、災害の深刻さを知った全国のメンバーがブルーシートを届けてくれたという。「使っても使ってもどんどんブルーシートが送られてくるので、会社も足の踏み場もないほどでした」と当時を振り返る。

しかし、物資は十分でもマンパワーは限られる。そこで同社は、地域の同業者に協業を持ちかけた。その結果「20社ほどに声を掛けましたが、応じたのは数社でした」。非常時とはいえ、普段はライバル関係にある存在。工事業者にとっては、特需の様相も極めていただけに協業の難しさを痛感した。

当時、同社はブルーシートの敷設工事を1物件5万円とあえて高めに設定した。地域内で実績も知名度も高めていた同社が相場観を形成することで、価格の上下において同業同士の過当競争を避ける目的があった。

それでもどんどん同社に依頼が舞い込む。「まずはできるだけ多くの建物に応急措置を施そうと、タクシーのように本社から指示を受けて、現場を回る日々が続きました」と佐々木氏。結局、2カ月間で約1,000件の建物に応急措置を施し、その後、3年をかけて補修工事を済ませた。

激甚災害における建築工事業者の存在価値を改めて浮き彫りにした形だが、一方で佐々木氏には葛藤も生まれた。「自社がどれだけ力を注いでも対応できる建物は限られます。地域の建物を守るという理念を掲げた以上、地域や同業者と連携を強める必要を感じました」と話す。

現在、準備を進めている千葉県との防災協定の締結もその一環。「自治体が被災情報に基づき、工事業者を派遣する形をとってくれれば、施主の安心感も高まり、より早く復旧にあたることができる」と地域や同業者との連携に塗装会社として次の在り方を見据えている。

倒産危機乗り越え、成長軌道へ

佐々木氏は現在38歳。23歳の2008年に創業し、昨年15周年を迎えた。今期の売上高は8億円強になる見通しで、4月には市川市に営業拠点を設立する。

ただ現在に至るまでには紆余曲折の連続で、過去には倒産の危機に見舞われた。「創業当時から7年間、昼は大規模修繕、夜は店舗改装と365日、昼夜問わず現場をこなし、7期目で8億円を超えました」と若さを武器に事業の成長に奔走した。

しかし、ある時創業時から共にしてきた社員2人が体調不良に襲われる。「1人は栄養摂取不足による低血糖症と診断されました。会社を成長させることが社員を守ることになると思っていましたが、間違いに気づいた」と方針を180度転換。以来、夜間工事を一切やめ、昼間工事に絞った。

当然、売上は急落。人員も抱えていたため赤字となり、2年間で約2億円の赤字を計上。翌年の期初には、社員に「内部留保を使い果たした。再浮上できなければ会社が終わる」と告げる事態に追い込まれた。

以来、大規模工事から一線を引き、戸建て塗り替えに注力。売上高は6億円弱まで落ち込んだが、1年で黒字化を実現した。以降、2021年に船橋店を設立、4月には市川市に店舗を構える計画で再び成長軌道に乗せている。

同社の基本方針は"芸で攻め、型で守る"。「ペンキ屋を好きであり続けることで身に付くスキルや経験が普遍的な価値になる」と社員個々の"タレント力"を成長の活力に据えている。



佐々木拓朗社長
佐々木拓朗社長

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