損保と連携、災害復旧で国内初のスキーム始動
損保と施工者組織協業で復旧早期化

自然災害で被災した住宅の復旧工事を担う初の全国組織「全日本災害住宅レジリエンス協会(JRD、代表理事・池田大平氏)の活動が本格化する。被災住宅の復旧工事の遅れが問題化している中、大手損害保険会社と連携して被災した住宅をいち早く復旧させるスキームを構築、社会課題の解決に挑む。


50年に1度、100年に1度といった大規模な自然災害が毎年のように頻発、その中で問題となっているのが被災住宅の復旧の遅れだ。例えば、一昨年の秋に千葉県を襲った台風15号では、観測史上最強クラスの暴風によって約10万戸の住宅が被災。ただ、発生から1年が経過した昨年秋時点で修繕工事を終えたのは6割程度にとどまり、いまだにブルーシートが掛けられたままの住宅が多数点在、被災住宅の復旧の遅れを物語っている。

理由は業者不足だ。自然災害が巨大化するにつれ、被災の規模に対して地域で賄える業者の数が圧倒的に不足。千葉県のケースで言えば風災によって屋根の破損や飛散が多発、屋根や板金業者が瞬時に枯渇した。

こうした業者不足の問題を解決し、被災住宅の復旧工事を早期に行える全国組織として昨年9月1日に設立されたのが一般社団法人・全日本災害住宅レジリエンス協会(JRD)だ。立ち上げたのは、複数の外装系リフォーム団体で活躍する池田大平氏と、鋼板屋根材メーカーのディートレーディング(東京都中央区)専務取締役の高木強氏で、それぞれがJRDの代表理事と専務理事も担う。

「外装サービスの提供のみならず、被災住宅の復旧支援でもお役に立ちたい」という池田氏の思いと、独自に被災住宅の復旧支援活動を行っていたディートレーディングの思惑が一致、被災住宅の早期の復旧工事を担う組織の設立に至った。

元請型施工店のB to C力に期待

JRDは、被災地の業者不足で復旧工事が遅れる問題に対して、他地域から業者を派遣することで解決を図る。「声を掛けてもらえれば被災地の復旧工事に駆け付けるといった業者さんが全国に多数いることがこれまでの経験上分かっており、そうした業者さんを会員登録して被災地で工事に当たってもらう」(JRDの鈴木淳一事務局長)仕組みだ。復旧工事に必要な専門工事業者を200~300社店規模で確保する予定で、その目処も立っているという。

それとは別に、「ユニット」という会員種別を設ける。ユニット会員は被災した住宅の住人(施主)と直接コミュニケーションする役割を担い、損壊程度の調査や復旧工事の見積り、施主との打ち合わせ、工事管理など現場を取り仕切る。「工事の職人さんを派遣するだけでは不十分で、住人との打ち合わせなど円滑なコミュニケーションを図れるB to C機能が重要。その役割をB to C対応を得意とする住宅塗装店など外装リフォーム事業者の方々に担ってもらう」(鈴木氏)と説明する。

そして今回のプロジェクトでキーとなるのが損害保険会社との連携だ。自然災害で被災した住宅の多くが火災保険を利用するため、JRDは国内の大手損害保険会社と連携、損保会社から被災住宅の調査と見積依頼が寄せられる仕組みを構築した。

本来、損保会社は業者を紹介する機能を持たないため、被災者自身で業者を探し、その見積書をもとに保険金が支払われるのがこれまでの通例。ただ大規模災害時の被災地では業者が枯渇しこの流れが停滞。見積書が届かないため保険金が支払われず、工事が遅れる悪循環に陥っていた。

今回、JRDと損保会社が連携したことで損保側がJRDの会員業者を被災者に紹介する仕組みが実現、見積もりから保険金の支払いまでスムーズに流れ、復旧工事の早期化を可能にした。

これにより、大規模災害の被災地で最も難しい「工事業者を探す」という作業から被災者は開放される。被災地で横行する悪徳業者に付け入られることもなくなり、復旧工事の質も担保される。一方、損保側も知らない業者による過剰見積のリスクがなくなる上、着工までの長期化による波及損害(保険金増大)の問題も解消。被災者(施主)と損保会社の双方にとって明確なメリットがもたらされる。

更にJRDに登録した会員業者は復旧工事で仕事が増えることに加え、保険適用工事のノウハウを取得でき自社事業にも役立つ。今春からユニット会員や各種専門工事業会員に向けた研修を開始。被災住宅の復旧工事に向けた調査・診断、施工スキルの向上を図る。

JRDの鈴木事務局長は、「大規模な災害が起きた際、被災住宅の復旧工事に関する仕組みは行政でもほとんど手付かずです。被災者と損保会社と工事業者(職人)をつなぐ我々のような機関が間に入ることで復旧工事を阻んでいたさまざまなミスマッチが解消、被災住宅の早期の復旧につながります」と社会的な意義を強調。損保会社と施工者組織がタッグを組んだ初のスキームが動き出した。



被災した住宅
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