トピックス 職人から頼りにされる女性調色師

塗装工事の現場で頻繁に発生する調色作業。困るのは、メーカー調色を依頼できない0.5kgや1kgといった少量のケースだ。最近では現場で調色をできる職人も減り、非効率と分かっていてもミニマムオーダー4kgのメーカー調色に頼らざるを得ないのが実情。そんな問題を解決している調色のエキスパートを取材した。

 


栃木県宇都宮市の建築塗装会社・坂本塗装。同社の佐藤公彦社長を始め、職人たちから絶大な信頼を置かれているのが、入社3年目の女性社員・照井理花子さんだ。「この道50年の熟練の塗装職人からも一目置かれている」(佐藤社長)という"調色のエキスパート"。「現場で少しだけ欲しい色や、発注が間に合わなくて至急必要になった色をドンピシャでつくってくれる」(同)と、信頼は厚い。


美術系の短期大学から新卒で入社した。なかなか就職が決まらず、焦っていた時に出かけた地元企業の合同説明で坂本塗装に出会った。「佐藤社長のお話を聞いていた時に"色"という言葉が耳に入ってきたんです」と照井さん。美術系の学校で学んだスキルを生かし、「何かクリエイティブな仕事に就きたい」と思っていたところに、「色」というキーワードが響いた。

その後、入社前の面談で「塗料の色を合わせる調色という作業があるんだけど、できそう?」と聞かれた照井さん。それまで塗料をさわったこともなかったけれど「できると思います」と即答。色に関わる仕事なら何とかなるだろうと、妙に自信があった。

そして入社後、「この色をつくってみて」と渡された日塗工の見本帳の色にピタッと合わせた。誰に習ったわけでもないのに、白ベースに少しずつ原色を足して色を寄せていく手つきに、「一発でセンスがあると分かった」と佐藤社長。熱望していた人材が見つかった。

「現場でよくあるのが、木枠だけや建具1枚だけといったように小面積で色指定されるケース。そんなときに調色を任せられる人が必要だった」と佐藤社長。「メーカーへのミニマムオーダーは4kgなので必ず余ってしまうし、それが溜まると廃棄代もばかにならない。現場に任せるにしても、そもそも調色をできる職人が減っているし、色を合わせるのに何時間もかかっているようでは採算に合わない」と問題意識を抱えていた。

それを解決してくれる期待の新入社員が照井さんだ。1kgや0.5kg、ときには缶コーヒー1本ほどの「現場で余らない程度の、ちょうど良い容量の調色をこなしてくれる」(佐藤社長)と頼もしい人材だ。

照井さんの調色作業は、白ベースに黒の原色を少し足して最初に色の明るさを調整。そこから、赤さびや黄土、青、緑などの原色を足して要求された色をつくりこむ。0.5kgや1kgなど少量のオーダーなので、割りばしの先から少しずつ原色を足していくといった繊細な作業だ。「容量が少ない分誤魔化しがきかず、難しいと思う作業を平然とこなしている」と佐藤社長も舌を巻く。

塗料が乾くと色が上ってくることも計算をして作業。色見本や現物に調色した色を乗せ、比色をしながら寄せていく。「最初の頃は、どの色をどれくらい足せばいいかなどをメモっていましたが、今は感覚で進めています。色を寄せていく作業は面白いですし、1回でピタッと合ったときは、思わず心の中でガッツポーズ」と、調色の仕事を楽しんでいる様子が伝わる。

そんな調色のエキスパートの仕事に対して、「当社はもちろん、協力会社も含めて職人からの評判は抜群。小容量の調色は頼りっぱなしです。自分で調色ができるベテランの職人さえ、彼女の仕事には一目置いている」(佐藤社長)と頼もしい存在だ。

今は、調色作業の他にカラーシミュレーションや、地域の人たちに向けたペイントワークショップの運営も担当している。就職先が塗装会社に決まったと両親に報告したとき、「見ず知らずの世界なのに大丈夫?」と少し心配されたけれど、調色という特殊なスキルを発揮でき、皆から頼りにされているこの仕事に「とてもやりがいを感じています」と微笑む。



取材時に調色のデモをしてくれた
取材時に調色のデモをしてくれた
割りばしの先から少しずつ色を足す繊細作業
割りばしの先から少しずつ色を足す繊細作業
比色を繰り返して色を寄せていく
比色を繰り返して色を寄せていく
「やりがいがある仕事」と表情を和らげる
「やりがいがある仕事」と表情を和らげる

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