「知らず知らずのうちに経営状況が悪化していることに気づいた」と話すのは、プロモートの関根武史社長(本社・新潟市南区)。入庫量に大きな変動がなかっただけにすぐに原因を特定することが難しかったという。そして旧知の仲であるアドガレージの伊倉大介社長のサポートを受け、経営改善に向けた取り組みを開始する。そこで浮かび上がったのは、実作業に対する見積りと工程管理の齟齬(ズレ)。「同じやり方を続けていると経営は悪化する」。今後は安全運転技術車の普及も見据え、「見えないコストに留意する必要がある」と話す。

関根氏が同社を設立したのは2006年。自動車整備、鈑金・塗装、カーケアを手がける一方、昨年11月に民間車検が実施できる指定整備工場の認可を取得。従業員8名を要し、業容拡充を積極化している。月平均の入庫台数は約70台。鈑金・塗装においては、ダイレクト系損保の指定工場を軸に安定経営を続けている。

しかし、ある時異変に気づく。「売上は落ちていないにも関わらず、キャッシュが減っている」。原因を究明するべくBPの経営支援事業を行う伊倉氏に支援を仰いだ。

当然、事故車を修復するための工程表や作業記録はスタッフと共有し、見積りも厳格に進めてきた。しかし、伊倉氏は「入庫時に納車日が確定できないようでは採算は得られない」と指摘。補修完了日の連絡が入庫から数日経過することは、業界としても何ら不思議でもない。それだけに工場に車が滞留するコストが発生するとの指摘は目から鱗が落ちる思いだった。また刻々と値上がりする仕入れも見積りに反映できていないことも明らかになった。

それから関根氏は見積り、工程管理の方策を刷新。その成果として今年4月、保険会社と交わしていた指数対応単価を6,500円から8,000円で妥結した。「2年後には9,600円に更に引き上げたい」とモチベーションを高めている。

技能偏重からの脱却、ASVで変わる

同社にとって経営改善の取り組みから現状と自社の方策に齟齬を見出した一方、鈑金塗装を取り巻く事業環境の変化を認識する契機ともなった。

この10年弱の間で環境法令及び労安法の強化、外国人実習生の受け入れ、入庫誘導のための第三者認定の取得、そして2020年4月に施行された特定整備認証などBPの存続に関わる施策が相次いで講じられた。更にビッグモーターの事件を機に説明責任の重要性が高まる。「車を安全、かつ綺麗に治すことだけに向き合う時代は終わった」との認識を深める。

その上で関根氏は、衝突被害軽減ブレーキ、車間距離制御装置などを搭載した先進安全自動車(ASV)がBPに与える影響の大きさを指摘する。「外板ボディにカメラ、センサーが付いた時点で従来の鈑金塗装技術だけでは太刀打ちできない時代に入った」。ハイブリッド車や電気自動車といったパワートレインを超越したASVの普及に対し、BPに対する情報の少なさを危惧する。

既に同社としても、スキャンツールを導入し、受託も対応しているが、他工場では自社需要でいっぱいで受託に難色を示す工場もあり、納車までに数カ月を要する事例が出始めているという。また関根氏は、「車体構造に対するデータや理解がない中で、どのように作業し、見積りに落とし込むのか」。ASV車補修に対する情報の不均一性やルールの不備を指摘する。

先進自動車への対応や"根拠を明らかにする"ための数値管理などBPが対応すべき経営課題が山積する中で、可視化を実現するための共通認識やツールが不足している現状はあまり知られていない。「現場の立場から課題を発信していかなければ、不正の温床を招くことになる」と関根氏。自社の経営改善策を同業にシェアし、業界活性化に役立てたい考えだ。