顧客満足の秘訣は「逆ベネフィット」

賃貸住宅の原状回復でリフォーム業をスタートしたパラヴィ(埼玉県朝霞市、社長・和田賢氏=写真)。独自の経営スタイルで会社の基盤を構築、ビルや商業施設の再生、戸建住宅の塗り替えへと事業を拡張している。これらすべての事業に通底している「顧客のベネフィット(便益)づくり」の考え方がユニークだ。

ペイント&コーティングジャーナル 2018年4月18日号建築塗料・塗装特集から


友人についてクロスや大工仕事などの手伝いをし始めたのがリフォーム業に入ったきっかけ。IT関連の仕事で起業し急成長したものの、諸々の事情で撤退、会社を売却するといった経験をした後の20代半ばの頃だ。

職人の仕事を手伝いながら「こういう仕事も面白いな」と性に合うのを感じた一方で、下請構造、非効率、不平不満のはびこる世界にも触れ「職人さんはどこを向いて仕事をしているんだろう」という疑問も抱いた。「お客様のために全体最適を目指す」といった以前の仕事に比べて「自分の都合、自分の仕事にしか目が向いていない」職人の世界とのギャップを感じたからだ。

その頃の仕事は賃貸住宅の原状回復がメイン。孫請けやひ孫請けの更にその手伝いという立場だったが、職人仕事自体が面白くてのめりこんでいた和田氏。その仕事ぶりに目を留めた不動産業者などから『自分で請けてやってみてはどうか』という声が続けて寄せられるようになり、起業を決意する。

仕事を取るために不動産業者を片っ端から飛び込みで回り、そのうちポツポツと仕事を回してもらえるようになった。そこから和田スタイルが始まる。

不動産会社の営業マンが指示した箇所を施工業者が請け負う通例に対して、和田氏自身が現場を見て施工内容を提案する逆スタイルで臨んだ。原状回復工事に「次の入居者さんが困らないように」という施工者の視点が入ったことでクレームが劇的に減少。評判が広がり仕事量の増大をもたらすことになった。

この方法は不動産会社の手間も省けるため、その紹介で物件オーナーと直接つながっていくことになり、そこから更に和田スタイルが飛躍。

まず、いつ頃にどの工事をやればいいかが分かる「計画修繕表」を物件ごとに作成し、オーナーに提出。給湯器や蛇口、照明など各部屋の設備に関してもメーカー、機種、製造時期、写真などのデータで詳細に管理。入居者から直接連絡をもらえる体制にし、不具合があったときに迅速対応。データ管理で不具合前の予防修繕も可能になり、入居者のクレームが更に減少。不動産会社やオーナーの手間を省きかつ入居者の満足度を高める"全体最適"の事業スタイルで事業基盤を築いていった。

「不動産会社の下請けでは、オーナーがそこを切れば我々もその物件の仕事はなくなります。でも、オーナーから直接修繕管理を任され、質の高いサービスを提供していれば切れることはありません。つまり、渦の中心に入り、そこに居場所をつくるといった発想です。当時はオーナーさんにして1,500人前後、5,000部屋の修繕管理を抱えていました」と振り返る。

ベネフィットづくり=人材教育

現在は、原状回復や修繕など従来からの賃貸住宅関連の仕事と、ビルやマンション、商業施設の再生といったプロジェクト的な仕事にも関わっている。

賃貸住宅関連事業ではいち早くデザインリノベーションを導入。高家賃で客付けでき、入居の長期化や次回修繕費用の軽減など長期スパンでの収益性アップをオーナーに提案、賃貸経営の改善に貢献してきた。その実績からビルや商業施設の再生案件も寄せられるようになり、事業が拡張した。

その一方で戸建住宅の塗り替え事業にも乗り出した。塗装に関してはこれまでもアパートやマンションで豊富な実績があるが、次の世代へのシフトを見据え「従来のB to Bに加え、B to C事業の基盤をつくる」ことが目的。

集客に関してはまずネットを主体に展開、昨年、専用サイトの「やねかべパーク」を立ち上げた。ランキングサイトなどへの掲出を利用し、今年は1億円の売上が見えている状況。地域商圏密着で当面は2億円ほどの事業にしたいと考えている。

これらの事業全体を通して行われているのが「顧客のベネフィット(便益)づくり」の作業だ。案件ごとにその施工が顧客にもたらすベネフィットを、そこに関わる社員全員で抽出する作業。

ここでユニークなのが「逆ベネフィット」という切り口だ。例えば塗装工事によるベネフィットとして「安心」を抽出したとする。次に、「安心」のために何ができるかを逆にたどる作業が「逆ベネフィット」だ。

「塗り替え工事に関して言えば、例えば『タスペーサーを使うから安心』『高耐久シーリングを使うから安心』など、安心をキーワードにどんどん深掘りし、そこで出てきた逆ベネフィットをプレゼン資料に反映させています。逆ベネフィットを抽出することで本来のベネフィットである『安心』がより具体的に立ち上がり、お客さんに届くようになります」と説明する。

そしてこのベネフィットづくりを、社員全員が主体的に進めているところに同社の真価がある。顧客の便益を考えつくす行為が顧客に向き合う自信を深め、仕事へのモチベーションも高める。

特に同社の場合、社員=職人(多能工)なので、顧客のためのベネフィットを考えるのも、それを現場で実現するのも同じ人物。従って自ずと良質な施工が提供され、顧客満足の高さが更なる仕事を生み出すというループをつくる。「ベネフィットづくりは面白い作業なのでついつい帰りが遅くなる」のがちょっとした悩み。

和田氏は2018年9月19日開催の弊紙主催セミナーの講師として登壇します。講演では、 『「社長の仕事」に気づき、実践することで小さな会社は劇的に変わる』をテーマに実戦に基づいた経営手法について講演します。

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和田賢社長
和田賢社長

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