世界初、壁を這い回るドローン開発
調査診断から補修まで視野

マンションや高層ビルなど垂直の壁を這い回るドローンが出現した。ドローンのプロペラを上下逆さまにキャリアに設置する逆転の発想で、その推力を躯体に押し付ける方向に利用、垂直の壁を落下することなく身軽に移動する。マンションなど外壁タイルの打音調査での実用化が間近な他、将来的には建物外装の塗装まで担うロボットを視野に開発が進められている。


ドローンを利用した点検用ロボットの開発を行うボーダック(埼玉県吉川市、社長・太田宝得氏)と、コンクリートの非破壊診断装置機器の販売を行う日東建設(本社・北海道紋別郡、社長・久保元氏)が共同で開発を進めているビル外壁診断装置「IDA-03」は、プロペラの推進力と走行輪で垂直な壁面を移動しながら打診検査を行う。マンションやビルのタイル外壁の浮き・剥離の診断や、橋脚・トンネルなどインフラ構造物の打診検査が主な目的。

同装置は、4つの走行輪で支えられた60cm四方大のキャリアにインパクタ(ハンマー)を搭載、タイルやコンクリートを打撃し、その振動応答の波形で健全状態か否かを測定する。

画期的なのは、キャリアの4隅に配置したドローンの利用方法だ。通常は浮揚する方向に働くドローンの推力を、プロペラを逆さまにすることで対象物に押し付ける方向に推進力を逆転。垂直の壁であってもキャリアが壁に押し付けられて落下することなく、モーターによる自走式の走行輪で壁を縦横無尽に這い回るという仕組みだ。キャリアの走行制御及びインパクタの打診・測定は地上局で遠隔操作する。

この開発によって期待できるメリットは大きく2つ。これまでタイルの打音調査に要していた足場やゴンドラなど付帯コストが削減できる点と、人の耳による官能検査から接触センサーによる客観的なデジタル検査に移行、調査結果の精度と信頼性が高まることだ。

マンションや公共建築などの特殊建築物のタイル外壁は2~3年ごとの「目視及び部分打診調査」と10年ごとの「全面打診調査」が建築基準法で義務付けられている。

タイルの打診調査は現状、打診棒を利用してタイル面を擦過及び打撃し、「清音から濁音か」といったレベルでタイルの浮きや剥離を判断する官能検査が主流。これに対して「もっと客観的、科学的なアプローチはできないか」との要望から赤外線カメラを利用する方法も広がり始めている。例えばドローンに赤外線カメラを搭載して高所の壁面を撮影、モニターに表示されるタイル表面の温度差で浮きや剥離があるか否かを判断するなどの手法だ。

それらに対して今回の開発装置は、「官能検査から客観的なデジタル検査に移行した点と、赤外線カメラのような非接触ではなくインパクタの接触センサーによって、より精度の高い調査結果が得られるのが大きな特色。デジタルデータで調査結果を表示でき、信頼性も高まる」(担当者)と従来方法との違いを説明。「接触センサーを回転翼などの推進力で押し付けて遠隔で測定・操作する装置は現状なく、その新規性により『構造部の検査装置』として特許を取得済み(平成29年9月)」と説明する。

広がる活用イメージ

同開発装置は、ドローンの推進力が対象物に押し付ける方向に働くため、垂直はおろかオーバーハンギングの状態でも対象に接触しながら走行することが可能。このためトンネル上部(真上)のコンクリート面の劣化診断でも威力を発揮、「トンネル内の車の走行に支障なく検査が行えるので、走行規制を強いられていた従来の検査方法から開放され、もっと簡便かつ頻繁に打診調査が行える。もちろん、ダムや橋脚などコンクリート構造物の上層部の接触診断でも有効性が高い」と、インフラの維持管理において各方面からの注目が高まっているという。

一方で、調査診断だけにとどまらず、その調査結果に応じた補修作業まで行う塗装ロボットとしての開発も視野に入れている。

「現在の開発段階でも、接触センサー(インパクタ)に加えてカメラも搭載可能で、躯体に近接しているため非常に高画質な状態で躯体表面の状況を把握。AIのディープラーニングの進化・小型化により、打音情報と画像情報によって独自に判断し、必要ならスプレー塗装を行うなど『見て、叩いて、判断して、応急処置をする』といった対応も不可能ではない。現場の人手不足、i-Constructionなど社会の要請に伴って早期に市場化するのでは」と期待を高めている。

ドローン技術活用の逆転の発想で垂直の壁を自在に移動する実践的な装置が誕生。人の代わりに刷毛やスプレーを持って塗装を行うロボットの出現がより現実的になってきた。

なお、開発装置の「IDA-03」は開発元・ボーダック、発売元・日東建設で来年春頃をめどに市場投入の予定。昨年から今年にかけてインフラや建設、メンテナンス関連の展示会に参考出品したところ、発売を待たずに注文が入るほど大きな反響を呼んでいる。



垂直の壁にはりついて移動する
垂直の壁にはりついて移動する

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